会員報告 「Pre-pharmacy課程での一年を振り返って」 後編
中野 暖子
カンザス大学のPre-Pharmacy課程は、薬学部ではなくCollege of Liberal Arts & Sciences(教養学部)に属しており、Pharm.D.課程への入学が認められると、専攻をSchool of Pharmacyに変更することになる。したがってPre-pharmacyの学生は実質、教養学部の学生である。さらにPre-pharmacy課程では、臨床に直接関係する科目を受講する機会も少ない。それ故に、Pre-pharmacy課程の学生は医療系の学生であるという実感があまりないのでは、と思ってしまうが、Pre-pharmacy Clubという組合を組織して、会合に薬剤師や薬学部の教官を招いて交流を図ったり、病院や薬局でテクニシャンとして働いたり、ボランティアをするなど、学生次第では臨床に触れる機会があるのも米国ならではである。 ほかにも、社会科学系などの単位は様々な学科、科目から自由に選択できるので、他の学部の基礎科目を受講することも出来る。多くの学生は心理学や言語学、人類学などを受講するようだが、私はSpeech-Language-Hearingという学部の基礎クラスを受講した。きっかけは、ルームメイトがこの学部の専攻で、日本では耳にしたことの無いSpeech Language Pathologist(SLP)を目指しており、他の医療系の職種を知る良い機会と考えたことであった。実際にはPre-pharmacyの学生は私一人だけで、他はSLPに興味のある学生ばかりであったが、非常に興味深い内容であった。 この授業はHearing ImpairmentやCommunication Disorders、Speech Disordersなど、SLPが関わる様々な疾患の定義や特徴、およびSLPによる治療方法について広く浅く学ぶといったものであった。単にSpeech Disordersといっても事故による脳の障害によるものやアルツハイマー病などの疾患によるのもの、先天的なもの、小児の発達段階における異常など、様々な分類がある。SLPも分野ごとに専門に分かれており、活躍の場も学校や病院など様々である。特に興味深かったことは、米国では各公立小学校にSLPが常駐しており、言葉の発達の遅れやLearning Disordersなどのスクリーニングにおいて重要な役割を担っているということである。日本ではこの職種の認知度はあまり高くないが、米国ではこの資格の取得には修士号以上の学位が必要であり、米国では最も信頼されている職種の一つである。病院においても、未熟児の聞こえのスクリーニングテストや、言葉の不自由な患者のリハビリなどで中心的な役割を果たしている。ちなみに、カンザス大学のSpeech-Language-Hearing Departmentには付属のクリニックがあり、専攻学生は一定時間数の見学が必須とのことである。私もSLPによる小児のArticulation Disorders の治療を見学することが出来、教育が臨床現場と一体になっている点は学生にとって非常に有意義なことだと感じた。 余談だが、米国内でも地域によって訛りがあり、俳優など職業上必要な場合にはSLPの治療を受けることもあるという。あくまで、訛りや第二言語として英語を話す人のアクセントの違いは疾患ではないということが前提での治療とのことである。 Pre-pharmacy課程の一年間では、薬学にとらわれない幅広い知識を学ぶことが出来た。必ずしもこれらの全てが、薬剤師として働くにあたって必要となるものばかりではないだろうし、日本で既に学んだことも多かったのも事実である。しかし、米国のPre-pharmacy課程を実際に受講することで、その教育システムやその意義を学べたことや、薬学以外の様々専攻の学生と交流できたことはとても有意義なことであった。秋からはPharm.D.課程の授業を受講するが、医療先進国アメリカの薬剤師教育を学生として体験することで、多くのことを学んでいきたい。
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