生涯教育(CE)

2019/03/11

第154回コラム「特定機能病院における未承認・適応外使用医薬品の管理について」

上田 彩

2016年に医療法施行規則改定に伴い、特定機能病院の条件に未承認・適応外使用医薬品・医療機器の院内ガバナンスを徹底することが要件となった。(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000138716.pdf

 聖マリアンナ医科大学病院において、従来は同大学倫理委員会において未承認・適応外使用について審査され、使用されてきたが、2017年度より病院の医療安全管理室の下部組織として、未承認新規医薬品・医療機器担当部門が設置された。部門長は医薬品安全管理責任者である薬剤部長であり、庶務担当を薬剤部医薬品情報室が担っている。未承認新規医薬品・医療機器を使用する際には部門の依頼を受けた評価委員会(複数の医師と医療安全薬剤師等で構成される)にて審議される。全患者の経過の把握等を行なっている。適応外使用医薬品については、当院での管理体制を表1の通り行なっている「1.pdf」をダウンロード。この管理体制については、オーストラリアにおけるGuiding Principles for the quality use of off-label medicines November 2013を参考にした。http://www.catag.org.au/wp-content/uploads/2012/08/OKA9963-CATAG-Rethinking-Medicines-Decision-Making-final1.pdf

 適応外使用する条件として、疾患の重篤性、医療上の有用性があることを前提としている。これらは厚生労働省の医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議において医療上の必要性を評価する基準となっている。https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000476342.pdf

 適応外使用医薬品の把握は主に病棟担当薬剤師の業務であり、事例毎に医薬品情報室と協働し、適応外使用を分類する。審査が必要な薬剤については、医薬品情報課から診療科に申請を依頼し、医薬品安全管理責任者が審査を行なっている。エビデンスレベルの低い適応外使用については、大学の倫理委員会での審議を依頼している。適応外使用医薬品を使用する際には、原則、事前に患者への説明と同意書の取得を医師より行うことが求められていることも重要な点である。

禁忌事例については、原則使用することはないが、臨床上使用せざるをえない禁忌事例については診療科と薬剤部で調査を行い、「絶対禁忌」、「相対禁忌」、「科学的根拠が乏しいと考えられる禁忌」の3カテゴリーに分類し管理を行なっている。

 当院での未承認等医薬品の管理が運用され、医療安全の観点からの医療従事者における意識改革が行われた。必要な事例については、科学的根拠を議論し、最善の選択肢を検討する。適応外使用については、評価事例を蓄積することで、迅速に対応することができ、現場での混乱を避け、院内のガバナンスを徹底することに貢献していると考える。

 

参考文献

1. 上田彩他 適応外使用医薬品の管理と評価 ポスター発表 27回日本医療薬学会年会、2017113-5日、幕張

2. 北山知里、上田彩他 当院の適応外使用医薬品の管理と評価について  28 回日本医療薬学会年会、2018 11 23-25日、神戸

2019/02/21

第153回コラム「情報収集力を高めるために日頃から取り組めること」

                           上塚 朋子

 薬について疑問が生じた時に、「答えが見つかりそうな本を開く」ことより「パソコンで適当なキーワードを入れて検索する」が主流になってずいぶん時間がたったように感じます。しかしながら、自分の情報収集の方法が適切なのか?ほかの人はもっと良い方法で調べているのではないか?そもそも、検索方法をしっかり教わったことなんてないし、といった漠然とした不安を抱えている人は多いのではないでしょうか?私自身も、医学情報が溢れかえっているこの時代、特にインターネット上の情報が日々更新される時代の情報収集に関して、自分の知識・スキルが完全であるとは思えません。そんな時に目に留まったのが、雑誌、総合診療1月号の特集記事、特に、飯塚病院の清田雅智先生の「教えて検索」の記事1)でした。

 「検索」という言葉を聞くと、「PubMed」「Google」などが思い浮かぶかもしれませんが、言葉の意味としては「書物・カードなどから、必要な事柄を探し出すこと(大辞林 第3版)」であり、特にインターネット上で探すことには限定されません。前述の特集の中でも、「どんな検索方法が最も有用か」という記事で、自分の探したい情報を見つけるために様々な情報源が紹介されています。この記事は医師向けに書かれていますが、薬剤師にとっても本質的には変わりはないと感じました。そこで、情報源を薬剤師にアレンジして要点をご紹介します。

 

検索に王道なし

 第一に強調されているのは、検索には王道などなく、「検索の効率化を知らないがために損をしているとは考えるべきではない」ということです。検索が下手な理由は、自分自身の知識量の不足や、情報収集の経験の少なさが大半とのことです。また、自分で情報を探すことの重要性を認めつつも、上司や同僚に質問するなど、メーリングリストなどの人的ネットワークも最良の情報源と述べられています。例えば、日本集中治療教育研究会(JSEPTIC) 薬剤師部会2のメーリングリストは一つの例でしょう。

Review articleを読んでみよう

 自分自身の知識量不足解消のために清田先生が研修医時代用いていたのは、「Washington Manual」やレジデントの・・と名の付くマニュアル類だったとのこと。2年目くらいからは「AJM(American Journal of Medicine)」のreview articleを読むようになったそうです。あえて臨床試験の原著論文を避け、review articleを選んでいたのは、原著論文は時間がかかる割には、得られる内容が少ないと感じていたからだそうです。実は、私も学生時代同じことを思っていました。批判的吟味スキルを身に付けるためにJournal Club形式で原著論文を読むことの価値を今は認めている、というのも同感です。

 ここで、薬剤師にとって有用だと考えるreview articleを種類別に具体例を添えて紹介します。

A) 疾患に関して

Tyroid Cancer (甲状腺がん)

Maria E Cabanillas, et al. Lancet. 2016, 388(10061):2783-2795.

B) 薬物治療に関して

Diuretic Treatment in Heart Failure(心不全における利尿剤治療)

David H Ellison, et al. NEJM. 2017, 377(20): 1964-1975

C) 薬剤に関して

Semaglutide: The Newest Once-weekly GLP-1 RA for Type2 Diabetes(セマグルチド:最新の2型糖尿病に対する週1回GLP-1受容体作動薬)

Rhianna M Tuchscherer, et al. Annals of Pharmacotherapy. 2018, 52(12): 1224-1232

D) 薬剤のトピックスに関して

Renal and Cardiac Implications of Sodium Glucose Cotransporter2(SGLT2) Inhibitors: The State of the ScienceSGLT2阻害薬の腎臓・心臓への影響 最先端の科学)

Joseph E Cruz, et al. Annals of Pharmacotherapy. 2018, 52(12): 1238-1249

  A)B)のタイプは、まれな疾患やガイドラインが最近変更された場合には、教科書よりも参考になる場合が多いでしょう。C)のタイプは、関連する非臨床/臨床試験の要点がまとめられています。副作用や薬物動態学的なデータは添付文書に書かれているデータ一覧より一歩踏みこんだ解釈が書かれていることも多く、理解に役立ちます。現在進行中の臨床試験の状況も書かれており、現在不足している情報が何か、それらはいつ頃明らかになる見込みかなどを知ることもできます。C)の論文で「Relevance to Patient Care and Clinical Practice」という小見出しでまとめられているように、薬剤師が臨床で使用する際の実務的な注意点が書かれていることも有用だと感じています。D)のタイプは薬剤の副作用が代表的ですが、Special populationでの使用方法のまとめ等、薬剤師的視点での問題点に関するリサーチがされていて、その内容を短時間で入手できるといった点で価値があります。

成書の価値

 清田先生によると、指導医クラスになった時には、アクセスする文献の中身や質が変わってくるとのこと。その理由は、「自分の行っている診療そのものの妥当性」を問いたり、「最新あるいは別の治療法があるのではないか」という発想からの疑問が多くなるからだと考えておられます。これは、同じ病棟・診療科を年単位で継続して担当している薬剤師にとっても当てはまるでしょう。こんな時に重要なのは、「成書」を見直すことであり、referenceにまで戻り、背景を詳しく勉強すると、実は自分の知識が浅かったことに気づくからであると述べておられます。そもそも、良質な「成書」と認められているものは必ず記載内容にreferenceを付け、根拠を明確にしているので、referenceに戻るのが容易なのです。

 薬物治療の良質な「成書」としては、次に紹介するように数種類あり、数年単位ではありますが、継続的に改訂が重ねられています。

E) Joseph T. DiPiro, et al. Pharmacotherapy: A Pathophysiologic Approach, 10th Edition, McGraw-Hill Education

F) Caroline S. Zeind, et al. Applied Therapeutics The Clinical Use of Drugs, 11th Edition, Wolters Kluwer Health

G) Marie A. Chisholm-Burns, et al. Pharmacotherapy Principles and Practice, 5th Edition, McGraw-Hill Education

H) Cate Whittlesea, et al. Clinical Pharmacy and Therapeutics, 6th Edition, Elsevier

成書の利点は、referenceがついていること以外に、薬物治療の全体的な情報が得られることです。調べている疾患について全てを読む必要があるわけではないですが、自分が疑問に思っていることの位置付けや関連事項が自然と目に入ってくることが、疑問の解決に役立つことを経験として感じており、情報の更新が年単位であるデメリットを考慮しても、成書の価値はなくならないと信じています。上記4種類の教科書のここ十数年間の変化を追いかけている私としては、どの本も情報量が増え、厚くなっています。中には、版が大きくなって見た目が変わるなど、一部の情報をWeb上に移行している本もあります。内容に関する新しい変化としては、膨大な情報の中からも要点が押さえやすいように、「key concepts」という形で本文の記述の中でも重要な部分を区別したり、Evidence-basedの治療を推奨しているもののevidenceが不十分な事項に関しては、「clinical controversy」という形で見解が定まっていない現状を伝える記述にしたりしていることが大きな特徴だと認識しています。

最後に

 「検索」というキーワードから、あまり連想されないreview articleと成書についてご紹介しましたが、実際に 何か読んでみようと思っていただけたでしょうか?すべて英語の情報となるので、読むのは大変ですが、読んだ後に得られる充実感を考えると、自信をもってお勧めできます。ぜひ挑戦してみてください。

 

参考文献

特集 教えて検索! 膨大な医学情報を吟味・整理するスキル. 総合診療2019, 29(1)

http://www.jseptic.com/medicine/index.html(accessed on 2019.2.11)

2019/01/08

第152回コラム「ASHP MIDYEAR 2018 Clinical Meeting & Exhibitionに参加して」

岩澤 真紀子, Pharm.D., BCPS

20181226日に米国カリフォルニア州アナハイムにて行われたASHP MIDYEAR2018 Clinical Meeting & Exhibitionにて、ポスタープレゼンテーションをする機会を得ました。今回は、アメリカ薬剤師を取り巻く現状等、印象的だった内容をご紹介します。

ASHP MIDYEAR Clinical Meeting & Exhibition

ASHPAmerican Society of Health-System Pharmacists;アメリカ病院薬剤師会)は、国内外の薬剤師・テクニシャン・学生が登録する会員数約45000人の職能団体です。毎年夏と冬にMeetingが行われており、このうち12月に行われるMIDYEAR Clinical Meeting & Exhibitionは参加者2万人を超える薬剤師業界最大規模の学会です。

米国における薬剤師免許の更新制度 

過去の会員コラムでも取り上げていますが(第70回アメリカ薬剤師免許更新制度と生涯教育についてhttp://pharmd-club.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-6077.html)、米国の薬剤師免許は更新制です。薬剤師免許は2年ごとに更新する必要があり、その際、更新料と生涯教育単位数を提出する必要があります。薬剤師免許の登録料は州によって異なり、カリフォルニア州は現在372ドル、将来的には500ドルを超えると噂されており、高額です。更新に必要な生涯教育単位は1年ごとに15単位、2年で合計30単位が求められており、取得した生涯教育単位はNABPNational Association of Boards of Pharmacy:連邦薬事委員会連合)のCPEモニターサービス(https://nabp.pharmacy/cpe-monitor-service/)で管理することができます。私は今回の学会中に20.25単位取得することができました。

医薬品情報業務・研究に関するセッション

 今回多く取り扱われていたトピックの一つに、オピオイドの過剰使用があります。どのように薬剤師がオピオイドの適正使用に関われるのか、という手段の一つとして、医薬品情報の活用例が挙げられていました。医薬品情報センター(DIC)の存在は、11病院あたり5.2億ドルの収支削減、45人の死者減少に関連していると報告されています。そこで、複数の教育大学のDICがネットワークDICInpharmD https://www.inpharmd.com/our_story)」を設立し、ウェブサイト、アプリ等で医療従事者の質問に対して情報提供を行い成果をあげています。InPharmDでタイムリーに医療従事者の質問に答えることにより、オピオイドの処方が27%減少したと報告されていました。日本でも医薬品情報提供にAIを活用する試みが始まっています。DICの情報を共有する動きは、国内外で益々進んでいきそうです。

新薬評価・およびジャーナルクラブ

 米国においても、薬剤師業務の拡大によるマンパワー不足の問題は深刻です。今回、従来の新薬評価は時間がかかりすぎるため、もう少し焦点を絞って活用しやすいフォーマットにしたらどうだろうかという提案が上がっていました。さらにジャーナルクラブについては、従来のチェックリストに従い文献を読むだけでは教育効果が薄く、指導薬剤師の負担も大きいため、新しいジャーナルクラブの形式を考える必要があるのではないか、という話題が上がっていました。米国の大学においても、ジャーナルクラブを授業内で行っている大学は14%に過ぎず、ジャーナルクラブの学生への教育は、実務実習における指導薬剤師に委ねられているのが現状です。新しいジャーナルクラブの形式として、Creative, Interactive, Engaging, Thought provoking, Clinically meaningfulであることが望ましいと述べられていました。今回具体例は聞けませんでしたが、今後ジャーナルクラブの新しい教育手法が提案されてくることと思います。

レジデンシーの現状

 米国ではレジデンシーが年々発展しており、2018年におけるプログラム数は2300以上、ポジション数は約4800にのぼり、過去5年間で1450ポジション(43%)増加したと報告されています。これだけ多くのポジションがあるにも関わらず、志願した学生のマッチ率(マッチシステムで決まります)は65%に過ぎず、最近では、レジデンシーの選考に漏れて1年間フェローシップに進み、次年度のレジデンシーに申し込むという、「レジデンシー浪人」も出始めているそうです。

 

 この他、臨床的な話題では、NOACに対する血液凝固検査の有効性、米国において2014年~2018年の間に発売された11種類の抗菌薬の特徴の話題等が興味深かったです。友人の米国薬剤師の間では、肥満患者における抗菌薬の使用や、バンコマイシンの投与設計をAUC/MICをもとに行うことになったため従来のプロトコールが使えなくなっていること等が話題になっており、これらに関する教育セッションは満席でした。2年毎にこの学会に参加していますが、今回は薬剤師業務、臨床知識ともに物凄く速い動きを感じ、情報をアップデートすることの大切さを感じるとともに、自分自身の勉強不足に危機感を覚えました。この学会に参加している日本人は少ないですが、世界の薬剤師業界の動きを知るためにも、機会がありましたら是非参加してみてください。

2018/12/26

第151回コラム「米国におけるファーマシーテクニシャンの役割」

ハワードめぐみ Pharm.D. Candidate 2021

私は今年の8月からNova Southeastern UniversityAdvanced Standingプログラム、1年次に在籍しています。入学前はファーマシーテクニシャンとしてクリニック内薬局に2年半ほど勤務していたため、今回はそのテクニシャン制度についてお伝えしたいと思います。

薬局関連の免許

アメリカの薬局で見かける職業には主に4つあります。ファーマシーアシスタント、ファーマシーテクニシャン、ファーマシーインターン、そしてファーマシストです。

· アシスタント-免許は申請制。犯罪歴などに問題がなければ、誰でも取得できます。

· テクニシャン-州によりますが、264時間のインターンシップを含む約1年間のプログラムを修了後、試験に合格して取得。

· インターン-薬学生が実習をしたり働いたりするために必要な免許。Pharm.D.課程に在籍していることが取得の条件。

· ファーマシスト-薬剤師。4年間のPharm.D.課程を卒業後、試験に合格して免許取得。

アシスタントは一番職能が限られており給与も低く、下方に行くにつれ職能が拡大し給与も反映されて高くなります。州や労働条件にももちろんよるのですが、2018年現在の時給で、アシスタントが$14(約1540円)、テクニシャン$15(約1650円)、ファーマシスト$55(約6060円)程度が平均になっています。

(参考 https://www.ziprecruiter.com/Salaries/How-Much-Does-a-Pharmacist-Make-an-Hour

ファーマシーテクニシャンの職能

テクニシャンは基本的に、高度な専門知識を必要としない業務をすべて担当します。処方箋の受け取り、調剤、電話応対、会計や薬の受け渡し、専門知識を必要としない問い合わせ、液剤や軟膏の調製、点滴の混注などです。アシスタントはテクニシャンより業務内容が限られるため、勤務人数は少なく、在庫管理や電話対応などを担当することが多いです。

テクニシャンにはできない業務には、最終監査、電話での処方せんの受け取り、薬局間の処方箋の移動、患者カウンセリングがあります。この職能の違いに対しては学校で徹底的に教えこまれ、例えば市販薬が何に対して使われるものか、1回1錠など飲み方を説明するのはラベルに書いてあることを読んでいるだけなので、テクニシャンでも可能です。一方、飲み合わせや症状に対するおすすめの薬などは、たとえ知識があって答えが分かっていようとも、テクニシャンは答えてはいけません。

薬剤師に求められること

薬剤師の職能の一つに、テクニシャン・アシスタントを監督することが含まれます。最終的に薬剤師が責任を負うため、監督できるテクニシャンの数は決まっており、州や薬局の種類によって多少違ってきますが、薬剤師1人に対しテクニシャン4~6人程度が平均です。そのため、リーダーシップは薬剤師の必須スキルとなります。薬剤師はテクニシャンが行う業務はすべて行うことができますが、逆はできません。良かれと思ってテクニシャン業務を手伝ったためにカウンセリングが滞り、患者さんを待たせることになってしまう、といったことも起こり得るため、効率良く、かつテクニシャンにも気持ちよく働いてもらえるようコミュニケーションをとっていくことが必要です。

日本におけるテクニシャン制度の応用

日本で病院薬剤師をしていたとき、薬局専用クラークがおり病棟業務や薬局業務を手伝ってもらっていたのですが、注射の混注や薬品鑑別などを頼む訳にはいかず、結局一番時間のかかるところは薬剤師がやらざるを得ない、という状況でした。日本では特に粉薬や一包化調剤など時間のかかる業務が多いですから、制度として確立されれば薬剤師がより専門的な業務に専念できるのではないかと思います。

2018/11/30

第150回コラム「論文投稿者はハゲタカジャーナルにご注意を!」

                       中川 直人

 20185月にアメリカで開催された国際学会でポスター発表をする機会が得られました。Pharm.D.プログラムを卒業したのが2010年ですので、8年ぶりにアメリカに行くことになりました。その際に、Pharm.D.プログラムでお世話になった恩師もその国際学会でポスター発表すると伺っており、8年ぶりに再会を果たしました。その時に恩師から初めて聞いた話を今回取り上げます。

“Predatory Journals!”(ハゲタカジャーナル)

 学会会場で恩師に論文投稿先を相談した時です。私は、オンラインジャーナルに投稿しようと考えていることを伝えました。すると、恩師はすかさず「Predatory Journalsを知っているかしら?」と問い返してきました。初めて聞いた言葉でした。最初はうまく聞き取れなかったので、恩師は紙に書いてこのスペルを私に見せてくれました。-”Predatory Journals” 恩師の説明を聞いていると、要するに、あくどいオンラインジャーナルがあるということでした。ある分野に関するオンラインジャーナルを検索してみると、様々な国で運用しているものがたくさんあります。Predatory Journals(ハゲタカジャーナル)は、研究者にメールを送り、迅速な掲載ができると誘いますが、実際は編集委員会もなく、査読を経ずに掲載し、その引き換えとして、論文著者が数万円の掲載料を支払うよう求めます。恩師の大学のある教員は、実績を上げたいために様々なオンラインジャーナルに投稿していたそうですが、すべてpredatory journalsであることがわかり、実績ゼロになってしまったと恩師は言っていました。恐ろしい話です。

 以下にpredatory journalsと認定されているサイトのURLをお示しします。論文投稿をする前に、その雑誌がpredatory journalsとして認定されていないか確認したほうがよいと思います。

https://beallslist.weebly.com/ 

2018/10/31

第149回コラム「『死ぬ権利』法案」

大友 千絵子

普段がん専門薬剤師として仕事をしている私は、がん薬物治療をしている患者さんとばかり携わっています。化学療法を何サイクルも受け、癌が進行しているのが見つかり、次の化学療法へ進むー。そういうがん治療真っ最中の患者さんたちです。年齢や既往歴、患者さんの全身状態(ECOG: PS(Performance Status))によって、次の治療法は大きく左右されます。

仕事をしている中でEnd of Life Option(死ぬ権利)を求めて、診察に来た患者さんのケースに携わることがありました。アメリカの法律は州によって異なります。現在、アメリカ国内で『死ぬ権利』が合法である州は1990年代に合法化されたオレゴン州を初めとし、ワシントン州(2008年)、バーモント州(2013年)、コロラド州(2016年)、カリフォルニア州(2016年)、コロンビア特別区(2017年、首都ワシントンDCの所在地)、ハワイ州(2019年より合法化)のみです。好んで死を選ぶ人は誰もいないでしょう。がんやその他の病気を好んで選ぶ人もいないでしょう。

病気で何年も苦しみ、基本的な自分のお世話や生活が出来ないことで個人の尊厳を奪われたと思う人も多くいます。

カリフォルニア州の『死ぬ権利』法案では、その権利を施行する患者条件を以下のように定めています。

  • 18歳以上であること
  • カリフォルニア州在住であること
  • 担当医が患者が不治の病が終末期であり6か月未満の死が予想されることを診断
  • 患者自身が治療方針の意思判断を明確にできる能力があること
  • 他人からの影響を受けずに安楽死・尊厳死の薬剤処方を願い出ること
  • 自身で安楽死・尊厳死の薬剤を服用できること

条件を満たした患者さんが安楽死・尊厳死の薬剤を受け取るにあたり、担当医と患者さんは数段階の過程を経ることになります。

1.患者本人が担当医へ口頭で2度『死ぬ権利』の意思表示をすること。1度目と2度目はすくなくとも15日間期間があいていること。

2.患者本人が少なくとも一度は書面で『死ぬ権利』の意思表示をすること。

3.患者本人が、ほかの誰の立ち合いもなく(通訳者は除く)、担当医と話し合いをし、『死ぬ権利』の意思表示が自身の意志であることを明確にすること

4.患者本人が2人目の医師であるコンサルティング医師の診察を受け、診断、予後に間違いがなく、患者本人に治療方針の決断能力があることを再確認すること

  医師と患者間で以下の事項の話し合いが行われることが『死ぬ権利』法案で義務付けられています。

1.安楽死・尊厳死の薬剤がどのように患者の体へ影響を及ぼすか、即時に死ぬわけではないということ

2.現実的な代替案(緩和ケア、ホスピス、疼痛緩和など)

3.患者自身が『死ぬ権利』の要望を取り下げたいかどうか

4.安楽死・尊厳死の薬剤服用時に近親者へ報告するか否か、もしくは誰かに立ち会ってもらうか否か、ホスピスプログラムに参加するか否か(患者は上記のいずれかを選択する義務はない)

5.安楽死・尊厳死の薬剤服用を公共の場で行わないこと

また医師は患者が安楽死・尊厳死の薬剤を処方された後、必ず服用しなくてはいけないわけではないことも伝え、確認しなくてはいけません。

すべての条件が整ったうえで、担当医は安楽死・尊厳死の薬剤を処方します。どの薬剤が処方されるかはこの『死ぬ権利』法案では特定していません。安楽死・尊厳死の薬剤の処方は直接患者さんに薬剤を渡すか、『死ぬ権利』法案に参加している薬局に直接処方箋を送るかです。患者へ直接処方箋を渡すことは法律で禁じられています。

 

【患者ケース1】

74歳男性。2016年に左足の脂肪肉腫発症。PETスキャンの結果次第では、仮に多臓器への転移が見られない場合は手術の方向で治療方針を決める予定であったが、患者がPETスキャンを拒否。患者は代替医療を決断。2年後の2018年に 患者本人が病院へ連絡。PETスキャンにて多臓器転移が見られないことを確認。がん専門医が手術を勧めるも患者は手術を拒否。

診断の結果、患者の予後は6ヵ月以上であると判断され、患者の要望は却下。

【患者ケース2】63歳男性。2017年胆管がん発症。化学療法を11サイクル投与。2018年、CTスキャンの結果、胆管がんの進行が認められる。

化学療法のオプションもあるなか、『死ぬ権利」法案に基づき、受診。20189月が2度目の口頭リクエスト。

奥さんと成人した子供達とも話し合い、家族も患者の意思を尊重している模様。

担当医により、患者は条件を満たしていると判断され、薬剤が処方された。

 

薬剤を処方されても、服用するかしないかは患者の自由です。1026日現在、この患者はまだ薬剤を服用していない模様です。服用後は通常数分から2-3時間で死に至りますが、まれに数時間かかることもあるそうです。では、2017年一年間の間でこの『死ぬ権利』法案を活用した患者は一体どれくらいいたのでしょうか?報告によりますと、632人がこの法案を活用し、そのうち577人が、安楽死・尊厳死の薬剤の処方を受けています。2017年に安楽死・尊厳死の薬剤服用により死亡したのは合計374人です。(2016年に処方された分を含む)374人中256人が終末期のがん患者さんでした。その他の病気は、神経系の病気、心疾患、慢性呼吸器系の病気、脳血管疾患などでした。

  人間はいずれ必ず死にます。年齢を重ねれば、今まで出来ていたことが難しくなったりします。病気をすればなおさらです。

尊厳死、安楽死、自殺ほう助など様々な呼び方がありますが、カリフォルニア州で『死ぬ権利』が法律として成り立ち、実際にこの法律を使って死を選ぶ人たちがいるということをご紹介させていただきました。

参照文献

1https://coalitionccc.org/tools-resources/end-of-life-option-act/ (accessed on October 27th, 2018)

2. https://www.cdph.ca.gov/Programs/CHSI/CDPH%20Document%20Library/2017EOLADataReport.pdf(Accessed on October 27th, 2018)

 

2018/09/30

第148回コラム「Western大学でのEBM教育」

横田 麻衣 Pharm.D. Candidate 2020

私は昨年日本の薬学部を卒業し、Western大学のIBPBプログラム1に入学して現在3年次に在籍しています。今回は、アメリカに来て驚いたことの一つ、「Evidences Based Medicine教育」について紹介させていただきます。

【日本で薬学生だった頃のEBMの印象】

日本で薬学生だった頃、初めて『根拠に基づく治療』と聞いた時に大きな使命感に心が躍ったことを覚えています。EBMの授業を通して1~3次資料、研究の種類から生物統計のt試験やp値などを習いました。お恥ずかしいことに論文の読み方を知らなかった私は、習った知識を実際にどのように使うのかわからず、大切な知識を磨かず『石ころ』にしてしまい、あの時に感じた使命感は国家試験の勉強に埋もれてしまっていました。

Western大学のEBM教育】

Western大学1年次は免疫学、有機化学など基礎内容が中心ですが、2年次になると授業内容が一気に治療学に変わります。その一番最初のブロック*2が「EBM」です。学ぶ内容は日本の薬学教育モデル・コアカリキュラム*3とほぼ同じです。EBM の基本概念と実践のプロセスについて説明できる。

1. 代表的な臨床研究法(ランダム化比較試験、コホート研究、ケースコントロール研究など)の長所と短所を挙げ、それらのエビデンスレベルについて概説できる。

2. 臨床研究論文の批判的吟味に必要な基本的項目を列挙し、内的妥当性(研究結果の正確度や再現性)と外的妥当性(研究結果の一般化の可能性)について概説できる。

3. メタアナリシスの概念を理解し、結果を説明できる。

日本の教育との違いを感じたのは、実践練習がしっかりと組み込まれているところです。特に『批判的吟味』の練習は以下の過程を使用し、毎日のチーム課題を通して身につけていきます。

 Ask:質問や問題の種類を考える

 Acquire:問題に合った情報を手に入れる

 Appraise:手に入れた情報を評価する

 Apply:評価した上で情報を症例に使用できるか検討する

 Act:症例(患者さん)において実践する

この過程には上に記載した日本SBO14が全て含まれています。この中で特に集中して行うのが②Acquireと③Appraiseです。

Acquire

現在の患者さんからの質問・問題の種類から、どの情報がより良いのかを考えます。Background Question(薬や病態などの一般的な質問)とForeground Question(各患者に個別化された質問)それぞれにおいて使用する情報も異なってきます。最初は加工度の高い資料(3次資料)から使用し、加工度の低い資料(1次資料)へと掘り下げいきます。例えば、「心房細動とは何か?」というのがBackground Questionであり、3次資料情報源としてはUpToDateDynamedを使います。一方、「心房細動を罹患している患者において、ワーファリンとリバロキサバンどちらが効果的か?」というのがForeground Questionであり、3次資料情報源としてMicromedexLexicompで薬について調べた後にPubMedで論文検索をします。また、研究の種類、outcomeinclusion/exclusion criteriaなど、見つけた論文の種類が現在の問題に対して妥当かを吟味します。

Appraise

見つけ出した論文の信用性を批判的に確認します。この確認項目は研究の種類によって異なっていますが、バイアスの有無やサンプルに偏りがないかだけではなく、outcomeの種類なども考え、論文にかかれた結論に自身の結論を加えます。

 毎回の課題では、これら全ての情報をCATCritically Appraised Topicsというテンプレート1枚にまとめ、提出します。CATとは、Inclusion criteriaExclusion criteria、薬物投与群とコントロール群、各確認項目の評価*、アウトカムのデータなど、論文を端的にまとめたものです。また、現在の問題点(Clinical Question)も記入することで、論文との比較ができるようになっています。EBMブロックが終わった後にもブロック毎に症例のEBMプレゼンテーション課題が組み込まれたおり、様々な分野でのEBM練習ができるようになっています。

*各項目の確認は論文の種類によって異なり、バイアスの大きさを記入します。例えばランダム試験では以下のようになります。

l Follow up

l Randomization and concealment

l Intention to Treat  

l Similar baseline

l Blinding

l Equal treatment

【最後に】

治療を進めていく上で、『根拠はなにか?』と聞かれることが多い反面、しっかりとした根拠が無いことも多々あります。そのような時に、情報の解析の方法と、その情報をどのようにして個々の患者さんに使用していくかを判断する能力が大切です。その基礎となるのが「EBM」であると、4年前に感じた使命感が再び蘇りました。最初は石ころになってしまっても、磨けば輝きが生まれ、自身の薬学のキャリアも光を増し、患者さんへの治療にも還元できる。この楽しさをもっとたくさんの領域でみなさんと共有できたらと思っています。

 

注釈

 

1. IPBPInternational Post Baccalaureate PharmD)プログラム

 

https://www.westernu.edu/pharmacy/pharmacy-academics/pharmacy-ipbp_about/

 

2. Block Plan制度

 

Western大学では、学期制度の代わりにBlock Plan制度が導入されています。Block Plan制度とは、1ヵ月を1ブロックとして1つの疾患を学びます。例として、2年次秋のカリキュラムは以下のようになっております。

 

8月:EBM

 

9月:腎疾患

 

10月:メタボリックシンドローム:高血圧・脂質異常症・糖尿病

 

11月:心疾患

 

12月:12年次の総まとめ

 

3. 文部科学省『薬学教育モデル・コアカリキュラム平成25年改訂版』http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/02/12/1355030_02.pdf (20188月アクセス) 

 

2018/08/27

第147回コラム「Pharm.D.取得後の薬剤師試験(NAPLEX/MPJE)について」

磯 友菜

 アメリカでPharm.D.プログラムを終えた場合、薬剤師として登録されるためにはほとんどの州でNAPLEXNorth American Pharmacist Licensure Examination)という実践薬学の知識を測る試験と、MPJEMultistate Pharmacy Jurisprudence Examination)という各州の法律の試験を受けなければなりません。これは日本の薬剤師国家試験に当たるものです。海外の薬学部を卒業していてPharm.D.プログラムに行かない場合、FPGECForeign Pharmacy Graduate Equivalency Examination)に合格してから州で定められた時間の実務研修を行い、NAPLEXMPJEを受験する方法もあります。

NAPLEX/MPJEは、日本のように1年に1回、一斉に試験を受けるのではなく、Pharm.D.プログラムを卒業後に自分でスケジュールを決めて受験します。Pearson VUE という様々なコンピューターベースの試験を請け負っている会社の施設から選択し、年間を通して自分の好きな時に受験することができます。(このPearson VUEは、日本でも、TOEFLGREなどの試験を受ける時に使われている会社です。)ただし、一度不合格になると、再度受験するまでNAPLEX45日間、MPJE30日間の期間を開ける必要があり、5回まで(1年間には3回まで)しか受験できません。 

NAPLEXはエントリーレベルの薬剤師として必要な知識や技術に関する問題が250問出題され、6時間(プラス10分の休憩2回)かけて受験します。250問中200問はスコアに換算されますが、50問はプリテストとして使用されます。プリテストとは、その問題を将来の試験に含めることが適切かどうかを評価するための問題で、スコアには反映されません。全体的に分散して配置されているため、受験者にはどの問題がプリテストか判別できないようになっています。200問の獲得スコアは0点から150点に換算され、75点以上で合格になります。MPJE120問出題され、20問がプリテストで、2時間半かけて受験します。スコアは0点から100点で、75点以上で合格になります。

NAPLEXのほとんどの問題はシナリオベース形式で、患者のプロファイル・薬歴・病状の経過が提示され、そこから患者の病態をアセスメントし、薬剤による副作用や禁忌、相互作用などが聞かれる基礎問題や、適切な薬物治療などの選択をする問題などが出題されます。適切な薬剤を選ぶためには、最新のガイドラインに沿った治療目標(検査値や治療期間)や、推奨されている第一選択薬、並存症がある場合に優先される治療薬、副作用やアレルギーがあった場合の代替治療などを把握している必要があります。問題は一般名だけでなく商品名でも出題されるため、主な薬品の商品名を把握している必要もあります。

 

 以下は、公表されているNAPLEXの出題分野です。

エリア1:安全で効果的な薬物療法と健康状態に対する成果の確保(約67%)

· 患者情報の取得、解釈、評価:治療記録、検査所見、症状、危険因子など

· 個々の治療計画の作成と実施:薬剤独特の副作用、禁忌、相互作用、薬剤の重複や必要な薬剤の欠落の確認、セルフケアなど

· 個別化された治療計画の評価と修正:治療目標やその結果、安全性・有効性など

· 個別化された治療計画の効果的なコミュニケーションや文書化の技術

· 個人および集団(地域住民)の健康と安全の推奨:文献の評価、参考文献の選択、投薬エラーの評価やその対策など

エリア2:医薬品の安全で正確な調製、調剤、投薬、管理と提供(約33%)

· 計算問題:薬物濃度、調剤に必要な投与量・速度、静脈栄養のカロリー計算など

· 滅菌・非滅菌製剤:調製に必要な施設の条件、調製の手順、混合物の特性など

· 医薬品の調剤、管理:医薬品の包装、表示、保管、取扱いおよび廃棄など

 

PharmDプログラムを通して学んだことは、臨床に即した内容がほとんどで、これは薬剤師試験を通しても見られる傾向だと思います。卒業後にすぐに薬剤師として働くことを、学生、教員、薬剤師の認定機関も意識しているように感じます。

 

Reference

1. Nabp.pharmacy. https://nabp.pharmacy/wp-content/uploads/2018/05/NAPLEX-MPJE-Bulletin-May-14-2018.pdf. Published 2018. Accessed July 28, 2018.

2. Nabp.pharmacy.NAPLEX/MPJE Bulletin. https://nabp.pharmacy/wp-content/uploads/2018/05/NAPLEX-MPJE-Bulletin-May-14-2018.pdf. Published 2018. Accessed July 28, 2018.

3. Pharmacy F. Florida Board of Pharmacy- Licensing, Renewals & Information. Floridaspharmacy.gov. http://www.floridaspharmacy.gov. Published 2018. Accessed July 28, 2018.

4. Computer-Based Test (CBT) development and delivery: Pearson VUE. Home.pearsonvue.com. https://home.pearsonvue.com. Published 2018. Accessed July 28, 2018.

2018/07/23

第146回コラム「ポリファーマシーと包括的な薬物治療の見直し(Comprehensive medication reviews / Clinical medication reviews : CMR)*」

伊野 陽子

平成30年度の調剤報酬改定で「服用薬剤調整支援料(125点)」が新設されました。算定要件は、「6種類以上の内服薬が処方されていたものについて、保険薬剤師が文書を用いて提案し、当該患者に調剤する内服薬が2種類以上減少した場合に、月1回に限り所定点数を算定する」となっています1)。最近、高齢者における多剤併用(ポリファーマシー)の問題がよく取り上げられており、薬剤師によるポリファーマシーへの介入が期待されています。

 アメリカに留学していた頃、実習先の病院に日本人患者の処方薬の資料が持ち込まれたことがあり、短時間型や中間型のベンゾジアゼピン系の薬剤が併用されていることに実習先の薬剤師や学生達が驚いていました。日本ではBZ系薬剤の使用率が高いことが報告されており、国際連合の機関の1つである国際麻薬統制委員会は、2010 年の「国際統制薬物の医療・科学目的の適切なアクセス促進に関する報告書」で、日本におけるBZ 系薬剤の消費量が他のアジア諸国と比較して高いことについて、高齢人口の多さとともに、不適切な処方や濫用と関係している可能性があると指摘しています2)

 ポリファーマシーに対する薬剤師の取り組みは各国で報告されており、オランダの調剤薬局では、高齢者に対して薬剤師がCMRを行うことにより、ポリファーマシーを減らすことに貢献していると報告されています3)。中央値として2つの薬物治療に関連した問題が見いだされ、 その多くは「過剰治療」や「治療不十分」であったと報告されています。

アメリカにおいても薬剤師によるCMRが高齢患者の薬物治療における不適切処方を減らし、医療費の削減につながっているという報告がなされています4)CMRMTMmedication therapy management)の一つであり、以下の手順で行うとされています。

 全ての処方薬、OTC薬、健康食品の情報を入手する

 治療に関連する問題点を見つける

 薬物治療に関連する問題点に優先順位をつける

 問題点を解決するためのプランを作成する

 患者または介護者に対して直接(電話でも可能)カウンセリングを行う

ポリファーマシー対策では単に服用薬剤の数を減らすことを目的とするのではなく、適正使用に近づけることが重要であるといわれています。残薬などから患者の服薬状況を把握し、それぞれの薬剤の服用目的、効果、必要性などを考慮しながら適正使用へ近づけていく必要があります。薬剤師としての視点から薬の副作用を疑い、不要な薬剤・不適切な薬剤使用を減らすことを提案する力が、これからの薬剤師にとって重要なスキルとなると考えます。

 

*CMRは、オランダではClinical medication reviewsの略語、米国ではComprehensive medication reviewsの略語であり、両方とも「包括的な薬物治療の見直し」を意味する。

参考資料

1) http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=519669&name=file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000196304.pdf

2) Report of International Narcotics Control Board for 2010. suppl.1, 2010, 40

3) Sek Hung Chau, et al., Clinical medication reviews in elderly patients with polypharmacy: a cross-sectional study on drug-related problems in the Netherland. Int J Clin Pharm. (2016) 38:46-53

4) Kiel WJ, et al., Impact of Pharmacist-Conducted Comprehensive Medication Reviews for Older Adult Patients to Reduce Medication Related Problems. Pharmacy 2018, 6(1),2; http://doi.org/10.3390/pharmacy6010002

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2018/06/30

第145回コラム「イギリスのクリニカルガバナンス」

宮道 二葉

イギリスの医療を学んだ時に心に残った言葉が二つある。一つはClinical Pharmacistとは何かとの問いに対し「Responsibility and Accountability(責任と説明義務)」と回答された時。もう一つは、NHS(国営の医療サービス)、NICEガイドラインを通じて「Clinical governance(クリニカルガバナンス)」という言葉が度々登場した時である。留学当時は、公的ガイドラインであるNICEガイドラインの存在に純粋に感動し、イギリスの医療を学ぶ中でクリニカルガバナンスという言葉がとてもしっくり自分の中に溶け込んでいったのを覚えている。後に調べてみると、クリニカルガバナンスという概念がイギリスの医療に特徴的であることを知ったため、今回はクリニカルガバナンスについて紹介する。

 クリニカルガバナンス=臨床統治とは、1997年にブレア首相が掲げた医療改革の概念で、「医療の質や安全性を担保しながら医療費抑制を実現すること」を目標としている。背景としては、サッチャー政権時代の医療費抑制政策によりNHSの歳出は削減されたが、待機者リストの問題、モラル低下、エビデンスのない地域ごとに異なる治療など、様々な問題が国民を苦しめていた。これらが招いた医療事故の代表として、ブリストル王立小児病院での心臓外科手術による死亡率が異常に高いことが公にされ、管理責任が問われた事例がある。こうした問題を受けて、NHS改革の報告書1)(2の中でクリニカルガバナンスは下記の通り定義づけられている。

`Clinical governance is a system through which NHS organisations are accountable for continuously improving the quality of their services and safeguarding high standards of care by creating an environment in which excellence in clinical care will flourish1.(クリニカルガバナンスとは、NHSの絶え間ないサービの質向上を担保し、優れた臨床ケアを生み出す環境づくりを通じて高水準な医療を守るための仕組みを構築することである。)

主な要素としては、

・科学的根拠に基づく医療、臨床ガイドライン

・教育、トレーニング

・臨床監査

・研究開発

・情報管理、公然性

・リスク管理

・リーダーシップ、チーム医療

などが挙げられ、個々にシステムが築かれている。例えば、ガイドラインに関してはNational Institute for Health and Clinical Excellence (NICE)3が請け負い、ガイドラインを作成している。そして、NICEガイドラインを元に費用対効果も考慮したBritish National Formularyが医師会・薬剤師会共同で作られている。私が実習していたSt.Thomas病院では、調剤に関してもエビデンスに基づき効率化を図っていた。イギリスの調剤は日本と異なり箱渡しであるが、28錠の処方では、一番近い30錠箱にラベルを貼り投薬するとのことだった。これは人件費や調剤過誤の観点から導かれた方法なのだと言う。

日本においても日本薬剤師会から薬剤師行動規範が提示され、新たに「薬剤師は、利用可能な医療資源に限りがあることや公正性の原則を常に考慮し、個人及び社会に最良の医療を提供する。4」が追加されており、有限資源の中で国民皆保険制度を持続可能とするために我々がクリニカルガバナンスを学ぶことは重要と考える。

(1) Scally,G. & Donaldson,L.J.(1998). Clinical governance and the drive for quality improvement in the new NHS in England. BMJ,61-65.

(2) A first class service: Quality in the new NHS http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20070305120455/http://www.dh.gov.uk/PublicationsAndStatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/PublicationsPolicyAndGuidanceArticle/fs/en?CONTENT_ID=4006902&chk=j2Tt7C(accessed on May 1, 2018)

(3) National Institute for Clinical Excellence (NICE)https://www.nice.org.uk/guidance (accessed on May 1, 2018)

(4)日本薬剤師会薬剤師行動規範・同解説: http://www.nichiyaku.or.jp/action/pr/2018/01/20180124pressreleasev2.pdf (accessed on May 1, 2018)

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