生涯教育(CE)

2018/07/23

第146回コラム「ポリファーマシーと包括的な薬物治療の見直し(Comprehensive medication reviews / Clinical medication reviews : CMR)*」

伊野 陽子

平成30年度の調剤報酬改定で「服用薬剤調整支援料(125点)」が新設されました。算定要件は、「6種類以上の内服薬が処方されていたものについて、保険薬剤師が文書を用いて提案し、当該患者に調剤する内服薬が2種類以上減少した場合に、月1回に限り所定点数を算定する」となっています1)。最近、高齢者における多剤併用(ポリファーマシー)の問題がよく取り上げられており、薬剤師によるポリファーマシーへの介入が期待されています。

 アメリカに留学していた頃、実習先の病院に日本人患者の処方薬の資料が持ち込まれたことがあり、短時間型や中間型のベンゾジアゼピン系の薬剤が併用されていることに実習先の薬剤師や学生達が驚いていました。日本ではBZ系薬剤の使用率が高いことが報告されており、国際連合の機関の1つである国際麻薬統制委員会は、2010 年の「国際統制薬物の医療・科学目的の適切なアクセス促進に関する報告書」で、日本におけるBZ 系薬剤の消費量が他のアジア諸国と比較して高いことについて、高齢人口の多さとともに、不適切な処方や濫用と関係している可能性があると指摘しています2)

 ポリファーマシーに対する薬剤師の取り組みは各国で報告されており、オランダの調剤薬局では、高齢者に対して薬剤師がCMRを行うことにより、ポリファーマシーを減らすことに貢献していると報告されています3)。中央値として2つの薬物治療に関連した問題が見いだされ、 その多くは「過剰治療」や「治療不十分」であったと報告されています。

アメリカにおいても薬剤師によるCMRが高齢患者の薬物治療における不適切処方を減らし、医療費の削減につながっているという報告がなされています4)CMRMTMmedication therapy management)の一つであり、以下の手順で行うとされています。

 全ての処方薬、OTC薬、健康食品の情報を入手する

 治療に関連する問題点を見つける

 薬物治療に関連する問題点に優先順位をつける

 問題点を解決するためのプランを作成する

 患者または介護者に対して直接(電話でも可能)カウンセリングを行う

ポリファーマシー対策では単に服用薬剤の数を減らすことを目的とするのではなく、適正使用に近づけることが重要であるといわれています。残薬などから患者の服薬状況を把握し、それぞれの薬剤の服用目的、効果、必要性などを考慮しながら適正使用へ近づけていく必要があります。薬剤師としての視点から薬の副作用を疑い、不要な薬剤・不適切な薬剤使用を減らすことを提案する力が、これからの薬剤師にとって重要なスキルとなると考えます。

 

*CMRは、オランダではClinical medication reviewsの略語、米国ではComprehensive medication reviewsの略語であり、両方とも「包括的な薬物治療の見直し」を意味する。

参考資料

1) http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=519669&name=file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000196304.pdf

2) Report of International Narcotics Control Board for 2010. suppl.1, 2010, 40

3) Sek Hung Chau, et al., Clinical medication reviews in elderly patients with polypharmacy: a cross-sectional study on drug-related problems in the Netherland. Int J Clin Pharm. (2016) 38:46-53

4) Kiel WJ, et al., Impact of Pharmacist-Conducted Comprehensive Medication Reviews for Older Adult Patients to Reduce Medication Related Problems. Pharmacy 2018, 6(1),2; http://doi.org/10.3390/pharmacy6010002

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2018/06/30

第145回コラム「イギリスのクリニカルガバナンス」

宮道 二葉

イギリスの医療を学んだ時に心に残った言葉が二つある。一つはClinical Pharmacistとは何かとの問いに対し「Responsibility and Accountability(責任と説明義務)」と回答された時。もう一つは、NHS(国営の医療サービス)、NICEガイドラインを通じて「Clinical governance(クリニカルガバナンス)」という言葉が度々登場した時である。留学当時は、公的ガイドラインであるNICEガイドラインの存在に純粋に感動し、イギリスの医療を学ぶ中でクリニカルガバナンスという言葉がとてもしっくり自分の中に溶け込んでいったのを覚えている。後に調べてみると、クリニカルガバナンスという概念がイギリスの医療に特徴的であることを知ったため、今回はクリニカルガバナンスについて紹介する。

 クリニカルガバナンス=臨床統治とは、1997年にブレア首相が掲げた医療改革の概念で、「医療の質や安全性を担保しながら医療費抑制を実現すること」を目標としている。背景としては、サッチャー政権時代の医療費抑制政策によりNHSの歳出は削減されたが、待機者リストの問題、モラル低下、エビデンスのない地域ごとに異なる治療など、様々な問題が国民を苦しめていた。これらが招いた医療事故の代表として、ブリストル王立小児病院での心臓外科手術による死亡率が異常に高いことが公にされ、管理責任が問われた事例がある。こうした問題を受けて、NHS改革の報告書1)(2の中でクリニカルガバナンスは下記の通り定義づけられている。

`Clinical governance is a system through which NHS organisations are accountable for continuously improving the quality of their services and safeguarding high standards of care by creating an environment in which excellence in clinical care will flourish1.(クリニカルガバナンスとは、NHSの絶え間ないサービの質向上を担保し、優れた臨床ケアを生み出す環境づくりを通じて高水準な医療を守るための仕組みを構築することである。)

主な要素としては、

・科学的根拠に基づく医療、臨床ガイドライン

・教育、トレーニング

・臨床監査

・研究開発

・情報管理、公然性

・リスク管理

・リーダーシップ、チーム医療

などが挙げられ、個々にシステムが築かれている。例えば、ガイドラインに関してはNational Institute for Health and Clinical Excellence (NICE)3が請け負い、ガイドラインを作成している。そして、NICEガイドラインを元に費用対効果も考慮したBritish National Formularyが医師会・薬剤師会共同で作られている。私が実習していたSt.Thomas病院では、調剤に関してもエビデンスに基づき効率化を図っていた。イギリスの調剤は日本と異なり箱渡しであるが、28錠の処方では、一番近い30錠箱にラベルを貼り投薬するとのことだった。これは人件費や調剤過誤の観点から導かれた方法なのだと言う。

日本においても日本薬剤師会から薬剤師行動規範が提示され、新たに「薬剤師は、利用可能な医療資源に限りがあることや公正性の原則を常に考慮し、個人及び社会に最良の医療を提供する。4」が追加されており、有限資源の中で国民皆保険制度を持続可能とするために我々がクリニカルガバナンスを学ぶことは重要と考える。

(1) Scally,G. & Donaldson,L.J.(1998). Clinical governance and the drive for quality improvement in the new NHS in England. BMJ,61-65.

(2) A first class service: Quality in the new NHS http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20070305120455/http://www.dh.gov.uk/PublicationsAndStatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/PublicationsPolicyAndGuidanceArticle/fs/en?CONTENT_ID=4006902&chk=j2Tt7C(accessed on May 1, 2018)

(3) National Institute for Clinical Excellence (NICE)https://www.nice.org.uk/guidance (accessed on May 1, 2018)

(4)日本薬剤師会薬剤師行動規範・同解説: http://www.nichiyaku.or.jp/action/pr/2018/01/20180124pressreleasev2.pdf (accessed on May 1, 2018)

2018/05/28

第144回「医療ICTについて~日本と諸外国の状況」

                     錦織 淳美

外来で患者さんの薬歴を確認する際、日々思うことがある。日本では「かかりつけ診療所・医院」が患者の身近に存在するが、欧米のホームドクター制度(ファミリードクターとも言われる、1家庭に1人の専属ドクターが、日常的に診察を行い、重篤化すれば専門病院や大病院への紹介もホームドクターを通して行うシステム)とは異なり、現状の医療制度では患者は自由に複数の医療機関を受診できる。そして、それぞれの医療機関には必ずと言ってよいほど、門前薬局が存在する。その結果、患者が複数の医療機関にかかれば、自動的に複数の薬局にもかかるという流れができてしまっている。そこで重要になるのが、患者自身の薬の管理能力である。それを助けるツールとして、お薬手帳や電子手帳が現在普及しており、その活用を促すために、診療報酬の保険点数がつくようになっている。しかし問題は、その手帳が十分機能しているかどうかである。

岡山大学病院の一部の患者さんを対象にお薬手帳について調査したところ、お薬手帳が交付されている患者は8割にのぼるが、実際に病院受診時などに持参している割合は5割にとどまる。残念ながら、患者自身がお薬手帳を持参(=管理)できなければ、病院・薬局ともに十分な薬歴管理ができない状況が発生している。それを打開すべく策として、各地域で医療情報連携の整備が始まっている。岡山でも、「晴れやかネット」とよばれる医療情報共有システムが数年前から活用されており、各医療スタッフが転院および紹介時に診療録や処方歴・看護記録・各種検査結果を情報共有しつつある。しかし、すべての医療機関がシステムを導入できていない現状もある。

昨今、高齢化が急速にすすむ中、「かかりつけ薬局・薬剤師制度」の活用・普及は、欠かせない方策の一つであると考える。かかりつけ医と同等に、患者の薬物療法に責任がもてるかかりつけ薬剤師の存在は、今後ますます重要になってくると思う。

一方、海外の状況をみると、エストニアや北欧の医療データ管理システムは2010年前後より急速に普及している1)。エストニアのeHealth国民の蓄積された医療情報を医療ビッグデータとし、新しい医薬品開発や医療サービスのため、リアルタイムに活用する医療分野の情報電子化システム)では、ICチップ搭載型のIDカードを所持するだけで患者および医療従事者の中で医療データが共有・参照できる仕組みになっている2)。また、ニュージーランド地域医療情報ネットワークでは、TONIQ(病歴・薬歴などを管理するソフトウエア)が整備されており、薬局に設置されているコンピューター端末への患者ID入力により、患者の病歴・処方歴・アレルギー歴やかかりつけ医療機関などがすべて管理・閲覧可能となっている。上記のようなITを活用した医療情報の共有により、より正確な病歴や薬歴管理が可能となり、適切な医療の提供および医療費の削減などが実行されている国々も存在している。

そのような状況のもと、ついに日本においても、診療録や検査データなどの個人の医療情報を集めて企業や研究機関に提供する新制度、医療ビックデータ化が始まろうとしている3)。医療ビッグデータの活用により、薬の副作用の発見や新薬の開発、病気の早期診断に役立つことが期待されている。この医療ビックデータを活用し、国民共通番号(マイナンバー)とからめて日本全国の末端の医療従事者にまで各患者の正確な病歴や薬歴が閲覧可能なネットワークが今後開設されることを期待したい。

 

参考資料:

1) Nøhr C, Parv L, Kink P, et al.  Nationwide citizen access to their health data: analyzing and comparing experiences in Denmark, Estonia and Australia. BMC Health Serv Res. 2017 Aug 7; 17(1):534

2) エストニア・北欧のICTについて

http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1802/16/news027.html

3)朝日新聞(2018422日)

https://www.asahi.com/articles/ASL4P7S7BL4PUBQU00R.html

2018/04/25

第143回「小児薬物治療評価における医薬品情報」

    渥美 景子

最近小児の病棟業務に携わるようになり、小児薬物治療を評価する機会が多くなった。評価にあたり日本の情報のみでは十分な情報が得られないことも多く、海外の書籍や文献も参照している。もう10年以上前だが、私は英国の臨床薬学修士課程で選択科目としてPediatrics(小児科学)を履修した。今回は、当時の資料を元に英国ではどのように小児薬物治療を評価していたのかをまとめてみた。

英国における小児の医薬品情報源

英国では、成人だけではなく小児薬物治療においてもフォーミュラリー(適応や用法用量、副作用、薬価など、薬に関する情報が書かれている医薬品集)が使用され、国土全体、さらには病院ごとに、薬物治療が標準化されている。私が英国の臨床薬学修士課程で実習していたRoyal London Hospitalは、ロンドンでも大きな小児部門を持つ病院の一つだった。調剤室実習の際、小児の処方を調剤していると、近くにいた薬剤師が「これを参照するといい」と言って病院独自の小児フォーミュラリーを見せてくれた。小児でも薬の投与量などの目安が細かく明確になっていることに驚いたことを覚えている。また、当時お世話になっていた研究室の教授が、英国全土共通の小児版フォーミュラリー(小児British National Formulary(BNF-C))の編集に携わっており、2005年に初めて発行されたことは今でも私の記憶に残っている。現在、BNF-Cは毎年更新されており、英国の小児薬物治療の標準化に役立っているようである。

英国臨床薬学修士課程におけるPediatrics

英国で選択科目として履修したPediatricsでは、学校での授業は3回しかなく、その合間に病院実習を行ったり、授業に向けての準備や課題を提出したりする形式だった。大学の授業では、小児薬物治療の評価方法、鎮痛・鎮静、感染症、新生児などに関するものの他、患者と患者の親への服薬指導のロールプレイ、学生各自が実習先の患者を評価したものをグループ内で発表しディスカッションするPBLのセッションなどが盛り込まれていた。また、課題として、PBLの授業に備えて患者の評価をまとめたレポートの事前提出や、授業とは別に、患者の薬物治療の評価や退院後のフォローの計画をまとめたPatient Profileの提出などがあった。Royal London hospital の小児病棟実習の初日には、指導薬剤師から新人薬剤師向けのイントロダクションの資料を頂いた。そこには薬剤師としての小児処方の確認方法、確認する上での注意点がいくつか記載されていた。そのうち医薬品情報検索については、病院の小児フォーミュラリーと病院の疾患ガイドラインがあるものはそちらを参照すること、記載がなければ他の施設のフォーミュラリー(Guys and St Thomas病院(ロンドン市内の大きな教育病院の一つ)のフォーミュラリーなど)を参照すること、それでも見つからなければMicromedexを参照せよと記載があった。その他いくつか情報源となる英国のサイトや連絡先が記載されていたが、いずれもオープンアクセスではなく、この記事を書いた時点で私が日本からアクセスすることはできなかった。実習期間が短かったことも影響していると考えられるが、実習中はMicromedexまで必要としたことはなかった。英国では小児の薬物治療について多くはフォーミュラリーで網羅されており、どの薬剤師でもある程度同じ評価が出来る仕組みになっていた。実際、学生だった私も評価しやすく感じたのを覚えている。

日本での小児の医薬品情報源

日本では英国のフォーミュラリーのようなものは存在しないので、自分で情報を集め、評価しなければならない。私が小児薬物治療評価の際によく参照している主な資料・データベースは以下の通りである。

l 新小児薬用量 改訂第7版(診断と治療社出版)

l 新生児室・NICUで使う薬剤ノート 第4

l 神奈川県立こども医療センター 新生児診療マニュアル 第6版

l Pediatric & Neonatal Lexi-Drugs (小児Lexicompweb)

l ハリエットレーンハンドブック第2

l 小児BNF 2017-2018

l NEOFAX

l Micromedex

l Up to date

l Stockley’s Drug Interactions11版(相互作用に関して)

l ネルソン小児感染症治療ガイド

l 最新感染症ガイドR-book(日本版Redbook

l 小児疾患の各種ガイドライン

l 医中誌Web

l Pubmed

情報が散らばっており、必要な情報を網羅するのがやや大変な時もある。しかし、医薬品情報を収集し、治療を評価することは、薬剤師としての重要な役割の一つである。今後も適切な情報収集、評価に努め、小児薬物治療の適正化に貢献していきたいと思う。

2018/03/25

第142回コラム 「医薬品集との付き合い方」

上塚 朋子, Pharm.D.

「今年は何色かな?」 

 この時期になると,新年度の治療薬マニュアル(医学書院)の表紙の色を予想するのがちょっとした楽しみなのです.各出版社から様々な医薬品集が出版されていて,毎年いろいろな特徴が付加され進化していますので,そんな医薬品集との付き合い方を取り上げたいと思います.

 お薬110番のサイト(1で紹介されている医薬品集(医療用医薬品)の中から,2018年度版の発売が確認できたものを挙げると;

 

 今日の治療薬 解説と便覧(南江堂)

 治療薬マニュアル(医学書院)

 治療薬ハンドブック(じほう)

 ポケット医薬品集(白文舎)

 ポケット版 治療薬UP-TO-DATE(メディカルレビュー社)

 治療薬インデックス(日経BP社)

 Drugs-NOTE ドラッグノート(じほう)

 

 筆者自身,すべてに目を通した訳ではないですが,それぞれの医薬品集は大まかに,添付文書情報の抜粋と付録の構成になっています.実務実習で薬学生にその他の資料と比較して,医薬品集の利点・欠点を挙げてもらうと,重い・字が小さくて見にくい,図がなくて分かりにくい,情報の更新が年1回に限定されるなどといった欠点が挙がります.近年は,Web電子版の使用が可能な医薬品集があったり,携帯性を高めることに主眼を置き,ポケットサイズを維持しているものもあり,その欠点をカバーしています.一方で,オンラインの医薬品集や電子カルテに搭載されている医薬品集と比較すると,手元にもってさえいればログインの手間無く,どこでもすぐに調べられる,停電や災害時にも強い,自分で書き込みができるなど,利点も多く挙げられます.「手元にあると,なんとなく安心」という感覚を持つ薬剤師も多いのではないでしょうか.

 どの医薬品集が良いかは,経験年数,どんな場面で使用することが多いか,個人的な好み等によって一概には言えないので,書店で手に取ってみたり,同僚のものを見せてもらったりして,比較してみるとよいです.これといったものが決まらない間は,毎年違う医薬品集を試してみるのも面白いです.

 購入したらまず,使い方が記載されたページを読みましょう.学生や新人薬剤師から,「◆のマークって,●●っていう意味ですか?」と凡例について質問されることが時々ありますが,それらの凡例は各医薬品集独自の定義であって,普遍的ではありません.感覚で誤った解釈をしてしまわないためにも,一つ一つを覚える必要はないですが,疑問に思った時はどのページに戻ればよいかを確認しておきましょう.膨大な添付文書情報を限られたスペースに収めるために,各社アイディアを凝らして工夫しているので,見せ方が異なります.省かれた情報が必要となった場合や記述が不十分で正確に理解できているか不安な場合は,あたりまえですがオリジナルの添付文書を参照する必要があります.

 紙媒体の医薬品集の好きなところは,薬効群ごとに薬剤が一覧表で掲載されているページと,その先数ページ続く解説ページです.院内採用薬に印をつけて,薬効群ごとに頭の整理をするには最適です.経験の浅い時期は,薬効群ごとに薬や疾患の治療の概要がまとめられているので,全体像をつかむために利用していました.

 添付文書情報以外の付録の部分は,各医薬品集の特徴が出るところでしょう.処方箋の記載方法等の基本的知識であったり,妊婦・授乳婦への薬剤の投与といった情報が掲載されています.本来詳細に解説した成書はあるものの,いきなり立ち向かうにはハードルが高く先延ばしにしているという方には,付録として専門の先生方によりまとめられたエッセンスに目を通すのをおすすめします.会議や勉強会で会場に早く着いてしまい手持ちぶさたな隙間時間に読んでみると,有意義な時間を過ごせます.

 紙媒体として捨てがたい点は,書き込みができるということです.実際にはページは情報で埋め尽くされていて空きスペースがないので,蛍光ペンで印をつけるか,付箋を貼ったり,別紙を挟むことになります.筆者はPMDAからの添付文書改訂の情報の中で,大きなものがあった場合(最近だと例えば,ガドリニウム造影剤)やFDAで副作用情報が出された場合等に,その内容を該当薬剤のページに挟んでいます.先日,センター試験の世界史で満点をとった受験生の参考書が付箋や書き込みですごいと,某予備校の先生は「もはや原形をとどめず,凄まじいオーラを放っている」と称してTwitterで話題になり,似たような医薬品集を持っていた後輩を思い出してしまいました.ただし,医薬品集の場合,翌年この情報をどのように継承していくかというのが問題なのです.1年かけて育て上げた相棒との別れは惜しいのですが,手作業で引き継ぐのもなかなか面倒というもの.毎年の恒例の儀式のように,丁寧に作業する同僚もいましたが,私は適当に間引いて更新しています.

 最後に,こんな格言を通して医薬品集の守備範囲を考えてみましょう.

“The telephone book is full of facts, but it doesn’t contain a single idea.”

(電話帳は事実で満載だが,アイディアは一つとして含まれていない)
 
                             Mortimer Adler(哲学者・教育者)

 医薬品集は電話帳のようなものです.薬剤師のよい相棒ではありますが,薬剤師として必要な知識を得るだけでなく,使いこなすためには, その他の相棒も見つけないといけません.今のあなたにとっては何でしょうか?

 

参考文献

 1. おくすり110番 くすり本NAVI http://www.okusuri110.com/book/book_100_top.html

2018/02/28

第141回コラム「米国のフォーミュラリーについて」

上田 彩

わが国の国民皆保険制度を維持するために、医薬品使用において有用性・安全性および経済性も考慮した選択をすることが必要とされている。10月に行われた内閣経済財政諮問会議においても、有効性と経済性を考慮した医薬品使用基準であるフォーミュラリーを作成した成功例として聖マリアンナ医科大学病院が取り上げられ、他の病院等へ横展開していくことが重要であるという議論がされている1)。現在の医療制度において、DPC病院がフォーミュラリーを導入する経済的なインセンティブは大きく、入院期間のみ病院の採用薬を使用する点については病棟薬剤師が患者持参薬から入院薬へ切替等を適切に行うMedication reconciliationが定着しており、患者からの理解も得やすい状況がある。昨年度の病院薬剤部門の現状調査の報告によると、院内フォーミュラリーを作成している施設は、全体の8%318施設のみであった2)。そのうち、フォーミュラリーで使用する医薬品の順序などの使用方針が決められているのは約半数で166施設であった。フォーミュラリーを作成している施設の94.3%は薬剤部門が主導的に作成していると回答した。昨年11月の医療薬学会年会においても、フォーミュラリーの取り組みについて発表が数件あり、フォーミュラリーの概念は、日本においても浸透しつつあるのでないかと考える3)4)

今後、フォーミュラリー作成を展開する上で薬剤師が大きな役割を果たせなければならない。欧米では経済性を重視したフォーミュラリーが一般的に行われている。英国では、国営医療サービスにおける財源の有効活用のため経済性が重要視されることは、以前にコラムでも紹介した。今回は、米国におけるフォーミュラリーの現状について報告したい。

米国の医療制度は、雇用主提供保険などを代表とする民間医療保険が主である。公的医療保障制度は、高齢者(Medicare)と低所得者(Medicaid)を対象とした制度はあるが、2015年で無保険者が人口の10%と報告されている5)。米国においては、2014年入院平均日数6.1日、日本の29.1日(2015年)と比較し短く、病院では急性期治療に限定した医療を提供する 6)。病院に対する支払制度の例を挙げると、MedicareDRG包括支払いを行っている。これは日本のDPC制度のモデルとなった制度であるが、より厳格な包括払い制度である 7)。米国における後発医薬品使用割合の数量ベースは91.6%( 2015)である 8)。病院においての採用薬は、在庫管理の面からも採用品目の制限をしており、therapeutic interchange とよばれる院内プロコトールにより、同効薬を自動的に院内採用の薬品に変更することが一般的に行われている。米国の病院でtherapeutic interchangeが行われている代表的な薬効群は以下である。H2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬、制酸剤、キノロン系抗菌剤、カリウム製剤、セフェム系抗菌薬、インスリン、緩下剤、HMG-CoA還元酵素阻害剤 9)

外来や一次医療においては、患者個人の保険のフォーミュラリーにより処方可能な選択肢が異なる。医薬品は、有効性、安全性、経済性によりTier levelに分類され、患者の負担額が変わる。医師は原則Tier1から使用することが推奨されており、効果や副作用などの理由で次のTier2から選択することになる。保険会社と医療提供部門が統合した事業体であるKaiser Permanente(KP)のフォーミュラリーのTierを以下に示す。10)

Tier 1 推奨後発医薬品

Tier 2 後発医薬品

Tier 3 推奨先発医薬品

Tier 4 非推奨先発医薬品

Tier 5 専門医薬品

Tier 6 ワクチンなどの注射

 

KPは、カリフォルニア州オークランドを拠点とし、保険料前払い方式の医療提供プランであるHealth Maintenance Organization(HMO)である。保険加入者はKPの医療施設のみを利用し、KPの医療施設は保険加入者しか診療しない。保険部門と医療提供部門が完全統合しているメリットは、レセプトが不要であり、保険と医師との対立が解消される。医師をはじめとする医療スタッフの債務は与えられた予算の範囲でベストプラクティスを実施することにある。

例えば、KPの北カルフォルニア州のフォーミュラリーの例としては、レニンアンジオテンシン系薬では、ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリラート、ENTRESTO、リシノプリル、ロサルタン、ラミプリル、スピロノラクトンとバルサルタンのみである。先発医薬品は、ネプライシン阻害剤のSacubitrilとバルサルタンの合剤のENTRESTのみであった。11)

米国においては、民間保険を主体とした医療が提供されている点は日本と異なるが、エビデンスと経済性を重視した標準治療が行われている。本邦においては、医療機関、地域や保険等でのフォーミュラリーの作成望まれるが、その実践に向けて米国の医薬品のTier levelsによって患者負担が変わるなどのシステムは参考となると考える。

引用文献

1) 14回経済財政諮問会議平成291026日 http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2017/1026/gijiyoushi.pdf

2) 平成28年度「病院薬剤部門の現状調査」集計結果報告 日本病院薬剤師会雑誌Vol.53 No.7 2017

3) 寺井 宏太他 院内での DPP-4 阻害薬 2剤(フォーミュラリーの視点から)における適正使用の検討 

4) 長橋 かよ子 直接経口抗凝固薬(DOAC)のフォーミュラリー作成と適正使用 

5) 医療経済研究機構 アメリカ医療関連データ集2015年版

6) OECD (2017), "Health care utilisation", OECD Health Statistics (database).http://dx.doi.org/10.1787/data-00542-en(Accessed on 07 December 2017)

7) J. Natl. Inst. Public Health, 636: 2014 https://www.niph.go.jp/journal/data/63-6/201563060002.pdf200171218日にアクセス)

8) 医療経済研究機構 平成28年度 薬剤使用状況等に関する調査研究 報告書

9) Guidelines for Therapeutic Interchange—2004: American College of Clinical Pharmacy. Pharmacotherapy: The Journal of Human Pharmacology and Drug Therapy. 2005 Nov 1;25(11):1666-80.

10) カイザーパーマネンテフォーミュラリー

https://healthy.kaiserpermanente.org/static/health/en-us/pdfs/nat/Medicare_2018_NAT/comprehensive_formulary.pdf

11)https://healthy.kaiserpermanente.org/static/health/pdfs/formulary/cal/2017_ca_marketplace_formulary.pdf200171218日にアクセス)

参考資料

フォーミュラリー -エビデンスと経済性に基づいた薬剤選択- 2017年 薬事日報社

ISBN978-4-8408-1409-6 C3047 

2018/01/31

第140回コラム「持参薬確認からMedication Reconciliationへ」

                 前田 幹広, Pharm.D.

日本の病院薬剤師にとって、持参薬確認業務は一般的な業務の一つである。持参薬確認というと、入院時に病棟薬剤師が、患者の持参した薬やお薬手帳を確認し、院内採用薬への薬品名・規格・用法・用量に変換することが主となっている。その中で、院内不採用薬における代替薬の提案や重複投与の回避、手術などで中止すべき薬剤の確認など、薬剤師の介入事例はすでに多く報告されている。

米国においては、持参薬確認という言葉ではなく、Medication Reconciliationという言葉が一般的である。”Reconciliation”は、「和解、調停」という意味だが、”Medication Reconciliation””The verification and communication of a patient’s medication regimen at points of transition in patient care” 患者の入退院や転院時に、服用薬剤の内容を確認し、伝達すること)と定義されている。具体的には、入院時・転棟時(特に集中治療室から一般病棟あるいは一般病棟→集中治療室)・退院時に薬歴確認を行い、評価する。評価は院内の薬歴と同様に、薬学視点でmedication reviewを行う。

 Medication Reconciliationは、急性期病院から長期療養型病院への転院で、非意図的に必要な薬が中止されたり用量が変更になることを防いだ報告や、薬に関する過誤を減らすなどの効果が報告されている1。一方、集中治療室でせん妄などに対して開始された抗精神病薬が、退院時に不必要にも関わらず継続されている実態なども問題となっている2。この問題は、集中治療室から一般病棟への転棟時や、退院時のMedication Reconciliationによって防ぐことができる(過去の関連コラムhttp://pharmd-club.cocolog-nifty.com/blog/2014/10/102medication-r.html)。カナダでは、入院時と退院時のMedication Reconciliationの実施率が臨床薬剤師のClinical Indicatorとして用いられている3

このように、入院時に行う持参薬確認のみに焦点をあてるのではなく、入院時、転棟時、退院時に薬剤師が包括的に評価・介入を行うMedication Reconciliationという概念を広げていってはいかがだろうか。

Clinical indicator(臨床指標):診療の質を評価するための評価指標

 

1. Boockvar K, Fishman E, Kyriacou CK, Monias A, Gavi S, Cortes T. Adverse events due to discontinuations in drug use and dose changes in patients transferred between acute and long-term care facilities. Arch Intern Med. 2004;164(5):545-550.

    2. Tomichek JE, Stollings JL, Pandharipande PP, et al. Antipsychotic prescribing patterns during and after critical illness: a prospective cohort study. Crit Care. 2016 Nov 24;20(1):378.

    3. https://cshp.ca/sites/default/files/files/CSPH-Can-Concensus-cpKPI-Knowledge-Mobilization-Guide.pdf. Accessed on 2018.1.31

2017/11/30

第139回コラム「患者による有害事象の主観的評価」

半田 智子, Pharm.D.

米国立がん研究所(National Cancer InstituteNCI)が作成している有害事象の共通語定義「Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAEs)」は、広く癌治療における臓器や部位ごとの毒性の重症度の評価尺度として使われれています。しかし、近年主観的な有害事象については患者報告によるアウトカムPatient-Reported OutcomesPRO)が併用され、医療者の評価測定だけでなく、患者自身による評価の重要性が認識されています。

Basch等により英語でPRO-CTCAEの開発が報告され(PMID25265940)、現在はデンマーク語、ドイツ語、イタリア語、日本語、韓国語、スペイン語版が入手可能になっています。PRO-CTCAE&tradeTM日本語版はhttps://healthcaredelivery.cancer.gov/pro-ctcae/pro-ctcae_japanese.pdfから入手可能です(利用方法はJCOGのホームページhttp://www.jcog.jp/doctor/tool/PRO_CTCAE.htmlPRO-CTCAE 78の有害事象項目があり、試験ごとに目的に合わせてアレンジができます。28項目の質問に46分の時間がかかることが報告されており、患者さんが症状を思い出すリコール期間は7日間となっています。

臨床研究において用いられる評価のうち、有害事象は非常に重要であることは周知の事実です。有害事象がアドヒアランス、治療完遂性に大きく影響し、結果として予後にもつながります。患者の視点をより実地医療に反映することが、患者満足度=治療成績を改善することになると考えます。今後私たちが臨床研究を行う上で、健康関連QOLHealth related Quality of life: HQOL)やPRO-CTCAEなどを用いたアウトカム評価をとり入れ、エビデンスを構築していくことがますます必要となってくると思われます。

2017/10/27

第138回コラム「多数傷病者事故 (Mass Casualty Incident) について 」

廣島理沙, Pharm.D., BCPS

はじめに

北米では今年の8月下旬から立て続けに歴史的規模のハリケーンに襲われ、洪水や家屋の破壊など、甚大な被害をもたらしました。さらに10月始めには、単独犯による銃乱射事件としては史上最悪の被害となった「ラスベガス・ストリップ銃乱射事件」が多くの人を恐怖に陥れました。これらの災害や事故はアメリカ全土に衝撃を与えたと同時に、多数傷病者が発生する事故災害での救急医療体制の重要性を改めて認識させる事案でもありました。今回は、米国における緊急事対応体制の仕組みを詳述するとともに、実際にこのような多数傷病者事故が起こった際に、薬剤師の視点から何ができるのかについて考察してみたいと思います。

 

多数傷病者事故 (Mass Casualty Incident: MCI) とは

多数傷病者事故 (Mass Casualty Incident: MCI) とは、「地域の救急医療体制において、通常の業務や資源の範囲では対応できないような多数の重症傷病者伴う事故災害」(an event which generates more patients at one time than locally available resources can manage using routine procedures) と定義されています1) 言い換えると、利用可能な資源、傷害の数、および傷害の重症度などは地域の医療体制によって変わるため、傷病者の具体的な人数は決まっていません。

 

緊急事対応システム:

米国での全ての緊急事対応システムは、規定した国家応急対応フレームワーク (National Response Framework: NRF) に基づいており、必要とされる「支援の種類」によって各連邦政府省庁の役割が分類されています2) 。例えば、自然災害や人為災害の救援、復旧は連邦緊急事態管理庁 (Federal Emergency Management Agency: FEMA) に、インフルエンザやジカ熱などの公衆衛生上の緊急事態はアメリカ疾病予防管理センター (Centers for Disease Control and Prevention: CDC) に委ねられています。さらに、緊急時の対応をシステム化するためにインシデント・コマンド・システム(Incident Command System: ICS) を適用しています。これによって危機事象の規模や支援の種類にかかわらずいつでも同じ方法で対応することができ、現場の混乱を最小限に抑え、結果的にスムーズな相互連携を可能にしています3) 。ちなみにICSの概要と基本原理はFEMAのウェブサイトで一般公開されており、誰でも学習することができます。

 

ICS-100: ICSの原理と概要

https://training.fema.gov/is/courseoverview.aspx?code=IS-100.b
ICS-200: ICSの構造と危機事象のマネジメント

https://training.fema.gov/is/courseoverview.aspx?code=IS-200.b

ICS-800: NRFの基本原理

https://training.fema.gov/is/courseoverview.aspx?code=IS-800.b

 

NDLS

多数傷病者災害発生時の対応を強化するためのトレーニングとしてNational Disaster Life Support (NDLS) 研修コースがあります4) https://www.ndlsf.org/index.phphttp://www.ndls.jp/ (日本語)

2003年にNDLSの研修プログラムが設立されて以来、実に9万人以上の医療従事者がクラスを受講しています5) 。米国医師会 (American Medical Association: AMA) は長年NDLSの普及に努めるとともに、多数傷病者事故の際に医師を派遣できるよう任意の登録制度を設けています。

The Core Disaster Life Support (CDLS) course: 3.5時間の講義。多数傷病者災害の基礎を学びます。

The Basic Disaster Life Support (BDLS) course: 7.5時間の講義。様々なシチュエーションを考慮しつつ災害時の対応力を広げます。

The Advanced Disaster Life Support (ADLS) course: 2日間 (15時間) の研修。BDLSの内容をさらに発展させた実践的なトレーニングを行います。

 

薬剤師の役割

それでは、多数傷病者事故が起こった場合の薬剤師の役割について考えてみたいと思います。米国病院薬剤師会は、薬剤師が貢献できる場所の例として、災害医療システム (National Disaster Medical System: NDMS) 内の以下のグループに所属することを提案しています6)

National Disaster Medical System Assistance Teams

National Pharmacy Response Teams

Medical Reserve Corps

さらに医薬品の緊急供給、調剤および、医薬品や予防接種の管理、被災者の薬物療法の管理、さらには地域や病院の緊急時オペレーションプランの策定に積極的に関わっておくことが重要だと述べています。上記のグループには含まれていませんが、NDMS内で一番馴染みがあるのが災害医療チーム(Disaster Medical Assistance Team: DMAT) ではないでしょうか。DMATとは、災害急性期に活動できる応急医療を行える機動性をもった専門的な医療チームであり、医師、医師アシスタント(PA)、看護師、救急救命士、緊急医療技術者、薬剤師、呼吸療法士、その他の関連する健康・物流関係者などで構成されています7) 。 

以下、インターネットに掲載されているDMAT薬剤師の活躍を一部紹介します。

2005年ハリケーンカトリーナ

http://www.dmatca4.org/pages/katrina/sohmer_rph.htm

2010年ハイチハイチ地震

http://www.ashpintersections.org/2010/06/uncle-sam-wants-you/

2017年ハリケーンハービー

http://news.emory.edu/stories/2017/09/ejch_hurricane_harvey_recovery/index.html

 

その他の考察

災害や事故発生時における薬剤師の役割は、明確に定義されていません。DMATのように現場に派遣される場合もありますが、現場近くの病院、診療所、または地域薬局などの現場対応も大変重要になってきます。ここですべてをシミュレーションすることは不可能ですが、今回は病院薬剤師の観点から考慮すべき点を二つ挙げてみたいと思います。

1.使える医療資源も時間も限られた状態の中で、いかに薬剤を調達するのか?

多数傷病者事故の種類や被害の大きさによっては薬剤が不足する可能性があります。すべての薬剤を揃えておくことはできませんが、代替薬剤を提案するなど臨機応変な対処が必要になるかもしれません。Duncan et al. は専門家へのアンケート調査で「緊急時に必要になるであろう医薬品や薬剤やの種類と数」をリストアップしています8) 。ちなみに、シーバーン (CBRNE) とは、化学 (chemical)・生物(biological)・放射性物質 (radiological)・核(nuclear)・爆発物 (explosive)によって発生した災害の総称のことを指すのですが、これらの事案の対応策は政府機関、特に疾病予防管理センター等のガイドラインによって定められています。また、応急処置薬等を備蓄する制度 (Chempack Program) が存在するため、いきなり薬剤不足になる可能性は低いと思われます。しかし、これらに当てはまらない事案の対応策はあらかじめ講じておく必要があります。
2
.長期間電気が使えない場合などに、薬剤部の業務にどのような影響があるのか?

通常、薬剤部では薬品管理から処方箋監査まで様々な機器やコンピューターを駆使することにより、調剤過誤の防止や正確・迅速な調剤の実現に役立っています。例えば、薬剤の分配に広く使われているのが薬品管理キャビネットシステム (Pyxis, Omnicell) です。病棟でよく使われている薬品はこのキャビネットで保管され、必要時に看護師がID使って薬の出し入れをします。このシステムの導入によって薬剤部から病棟に薬を届ける手間と時間が省けるため、安全かつ迅速に薬剤を患者さんに届けることができます。またその他にも、処方箋の監査には電子カルテで既往歴、アレルギー歴、血液検査などのデータを確認することが必要です。災害時、短期間の停電には蓄電システムで対応できますが、長期間停電した場合など、機械やコンピューターに頼らない業務形態を考えておくことが重要です。

参考文献:

1. Mass Casualty Management Systems. Strategies and guidelines for building health sector capacity. http://www.who.int/hac/techguidance/tools/mcm_guidelines_en.pdf Accessed October 10, 2017.

2. Emergency Support Function Annexes. FEMA. https://www.fema.gov/media-library/assets/documents/25512

3. FEMA. https://training.fema.gov/nims/ Accessed October 10, 2017.

4. National Disaster Life Support. https://www.ndlsf.org/index.php Accessed October 10, 2017.

5. AMA Offers Resources for Disaster Response. Journal of Emergency Medical Services.

http://www.jems.com/articles/2011/10/ama-offers-resources-disaster-response.html Accessed October 13, 2017.

6. ASHP Statement on the Role of Health-System Pharmacists in Public Health. Am J Health Sys Pharm. 2003; 60(19): 1993-5.

7. Disaster Medical Assistance Teams. https://www.phe.gov/Preparedness/responders/ndms/ndms-teams/Pages/dmat.aspx Accessed October 10, 2017.

8. Duncan et al. Consensus on items and quantities of clinical equipment required to deal with a mass casualties big bang incident: a national Delphi study. BMC Emerg Med. 2014; 14:5.

2017/09/29

第137回コラム「アメリカ薬学生による薬学団体活動の必要性」

城戸和彦, Pharm.D., M.S., BCPS

 アメリカの薬学生は、ほぼ全員が何らかの薬学団体に所属しています。学生支部が存在する団体の代表例として、アメリカ病院薬剤師会(ASHP)やアメリカ臨床薬学会(ACCP)があります。薬学生は、学生支部での活動を通して、薬学知識の習得と応用、さらには、薬剤師になる上でのプロ意識(プロフェッショナリズム)を身につけていきます。今回は、私がサウスダコダ大学薬学部で教員アドバイザーを務めるACCP学生支部における学生の具体的な活動をいくつか取り上げて、薬学生の薬学団体での活動の必要性を議論していきたいと思います。

ACCPはここ数年、薬学生の学会活動への関与改善を目的に、学生支部の発展を通して学生活動の機会を増やしていきました。主な活動としては、ACCP年会への学生参加を推進するためのレジデンシー就労活動フェアの開催や、各大学代表チームによるクイズ王決定戦です。そして、もっとも身近に学生が地域医療に貢献できる、学生主体の健康フェアの開催も行っています。

ACCPは、ここ数年多くの学生向けのプログラムを年会に組み込んで、学会参加する学生の数を増やしています。レジデンシー就労活動フェアとクイズ王決定戦はその代表例です。レジデンシー志願者の増加に伴って、ACCPは学生参加者のためにレジデンシーのポジションを得るためのセミナーを開催しています。具体的には、志願書作成における注意点、面接対応の練習、そして現レジデントや各エリアの薬剤師との質疑応答などを行います。このような活動を通して、学生は、レジデンシー競争に勝ち抜くための知識を得て、そして、レジデントや専門薬剤師との議論を通して、プロ意識を身につけていきます。さらに、大きな目玉として、ACCPの年会での各大学代表チームによるクイズ王決定戦は、日ごろ学んできた薬物治療などの知識を基に、クイズ形式で各大学の代表チームが競います。その本戦前に、各大学で学生の代表チームを決めます。その後、全米の各大学の代表チームが、全米の薬剤師が作成した問題を基に点数を競います(https://www.accp.com/stunet/compete/overview.aspx)。今年は、全米で115校が出場しました。サウスダコダ大学もベスト16まで行きましたが、残念ながらACCPの年会で開催されるベスト8目前で敗戦しましたが、学生は知識の向上を含めて、各大学の代表というプレッシャーを背負って全力をつくしました。ベスト8のチームは、ACCP年会のメイン会場において、トーナメント方式で競います。観客は、ほぼすべて全米の薬剤師であり、学生のうちに、このような知識を評価される場所があることは、知識取得に対するモチベーションの向上につながると思います。

学生主体の健康フェアでは、主に血圧、血糖、脂質測定と健康相談を行います。薬学生は、事前に薬物治療の授業を受講した上で、各州のイベント先で開催します。高血圧や糖尿病の治療学の知識の応用は基より、実際の患者と接することで、コミュニケーション能力の向上やプロ意識の向上にもつながり、各方面での相乗効果を期待できます。薬剤師が各イベントに引率しますが、イベントの日程調整や運営は学生が行います。このことで、チームワークの構築さらには、リーダーシップのスキル向上を期待できます。

 全米の薬学団体は、学生会員の団体活動参加も重要な学会発展の一部と考えています。薬学教育と現場での実務の途切れのないカリキュラムの構築において、学生の薬学団体での活動による知識やプロ意識の向上も、重要な議論の一つであると思います。

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