生涯教育(CE)

2018/11/30

第150回コラム「論文投稿者はハゲタカジャーナルにご注意を!」

                       中川 直人

 20185月にアメリカで開催された国際学会でポスター発表をする機会が得られました。Pharm.D.プログラムを卒業したのが2010年ですので、8年ぶりにアメリカに行くことになりました。その際に、Pharm.D.プログラムでお世話になった恩師もその国際学会でポスター発表すると伺っており、8年ぶりに再会を果たしました。その時に恩師から初めて聞いた話を今回取り上げます。

“Predatory Journals!”(ハゲタカジャーナル)

 学会会場で恩師に論文投稿先を相談した時です。私は、オンラインジャーナルに投稿しようと考えていることを伝えました。すると、恩師はすかさず「Predatory Journalsを知っているかしら?」と問い返してきました。初めて聞いた言葉でした。最初はうまく聞き取れなかったので、恩師は紙に書いてこのスペルを私に見せてくれました。-”Predatory Journals” 恩師の説明を聞いていると、要するに、あくどいオンラインジャーナルがあるということでした。ある分野に関するオンラインジャーナルを検索してみると、様々な国で運用しているものがたくさんあります。Predatory Journals(ハゲタカジャーナル)は、研究者にメールを送り、迅速な掲載ができると誘いますが、実際は編集委員会もなく、査読を経ずに掲載し、その引き換えとして、論文著者が数万円の掲載料を支払うよう求めます。恩師の大学のある教員は、実績を上げたいために様々なオンラインジャーナルに投稿していたそうですが、すべてpredatory journalsであることがわかり、実績ゼロになってしまったと恩師は言っていました。恐ろしい話です。

 以下にpredatory journalsと認定されているサイトのURLをお示しします。論文投稿をする前に、その雑誌がpredatory journalsとして認定されていないか確認したほうがよいと思います。

https://beallslist.weebly.com/ 

2018/10/31

第149回コラム「『死ぬ権利』法案」

大友 千絵子

普段がん専門薬剤師として仕事をしている私は、がん薬物治療をしている患者さんとばかり携わっています。化学療法を何サイクルも受け、癌が進行しているのが見つかり、次の化学療法へ進むー。そういうがん治療真っ最中の患者さんたちです。年齢や既往歴、患者さんの全身状態(ECOG: PS(Performance Status))によって、次の治療法は大きく左右されます。

仕事をしている中でEnd of Life Option(死ぬ権利)を求めて、診察に来た患者さんのケースに携わることがありました。アメリカの法律は州によって異なります。現在、アメリカ国内で『死ぬ権利』が合法である州は1990年代に合法化されたオレゴン州を初めとし、ワシントン州(2008年)、バーモント州(2013年)、コロラド州(2016年)、カリフォルニア州(2016年)、コロンビア特別区(2017年、首都ワシントンDCの所在地)、ハワイ州(2019年より合法化)のみです。好んで死を選ぶ人は誰もいないでしょう。がんやその他の病気を好んで選ぶ人もいないでしょう。

病気で何年も苦しみ、基本的な自分のお世話や生活が出来ないことで個人の尊厳を奪われたと思う人も多くいます。

カリフォルニア州の『死ぬ権利』法案では、その権利を施行する患者条件を以下のように定めています。

  • 18歳以上であること
  • カリフォルニア州在住であること
  • 担当医が患者が不治の病が終末期であり6か月未満の死が予想されることを診断
  • 患者自身が治療方針の意思判断を明確にできる能力があること
  • 他人からの影響を受けずに安楽死・尊厳死の薬剤処方を願い出ること
  • 自身で安楽死・尊厳死の薬剤を服用できること

条件を満たした患者さんが安楽死・尊厳死の薬剤を受け取るにあたり、担当医と患者さんは数段階の過程を経ることになります。

1.患者本人が担当医へ口頭で2度『死ぬ権利』の意思表示をすること。1度目と2度目はすくなくとも15日間期間があいていること。

2.患者本人が少なくとも一度は書面で『死ぬ権利』の意思表示をすること。

3.患者本人が、ほかの誰の立ち合いもなく(通訳者は除く)、担当医と話し合いをし、『死ぬ権利』の意思表示が自身の意志であることを明確にすること

4.患者本人が2人目の医師であるコンサルティング医師の診察を受け、診断、予後に間違いがなく、患者本人に治療方針の決断能力があることを再確認すること

  医師と患者間で以下の事項の話し合いが行われることが『死ぬ権利』法案で義務付けられています。

1.安楽死・尊厳死の薬剤がどのように患者の体へ影響を及ぼすか、即時に死ぬわけではないということ

2.現実的な代替案(緩和ケア、ホスピス、疼痛緩和など)

3.患者自身が『死ぬ権利』の要望を取り下げたいかどうか

4.安楽死・尊厳死の薬剤服用時に近親者へ報告するか否か、もしくは誰かに立ち会ってもらうか否か、ホスピスプログラムに参加するか否か(患者は上記のいずれかを選択する義務はない)

5.安楽死・尊厳死の薬剤服用を公共の場で行わないこと

また医師は患者が安楽死・尊厳死の薬剤を処方された後、必ず服用しなくてはいけないわけではないことも伝え、確認しなくてはいけません。

すべての条件が整ったうえで、担当医は安楽死・尊厳死の薬剤を処方します。どの薬剤が処方されるかはこの『死ぬ権利』法案では特定していません。安楽死・尊厳死の薬剤の処方は直接患者さんに薬剤を渡すか、『死ぬ権利』法案に参加している薬局に直接処方箋を送るかです。患者へ直接処方箋を渡すことは法律で禁じられています。

 

【患者ケース1】

74歳男性。2016年に左足の脂肪肉腫発症。PETスキャンの結果次第では、仮に多臓器への転移が見られない場合は手術の方向で治療方針を決める予定であったが、患者がPETスキャンを拒否。患者は代替医療を決断。2年後の2018年に 患者本人が病院へ連絡。PETスキャンにて多臓器転移が見られないことを確認。がん専門医が手術を勧めるも患者は手術を拒否。

診断の結果、患者の予後は6ヵ月以上であると判断され、患者の要望は却下。

【患者ケース2】63歳男性。2017年胆管がん発症。化学療法を11サイクル投与。2018年、CTスキャンの結果、胆管がんの進行が認められる。

化学療法のオプションもあるなか、『死ぬ権利」法案に基づき、受診。20189月が2度目の口頭リクエスト。

奥さんと成人した子供達とも話し合い、家族も患者の意思を尊重している模様。

担当医により、患者は条件を満たしていると判断され、薬剤が処方された。

 

薬剤を処方されても、服用するかしないかは患者の自由です。1026日現在、この患者はまだ薬剤を服用していない模様です。服用後は通常数分から2-3時間で死に至りますが、まれに数時間かかることもあるそうです。では、2017年一年間の間でこの『死ぬ権利』法案を活用した患者は一体どれくらいいたのでしょうか?報告によりますと、632人がこの法案を活用し、そのうち577人が、安楽死・尊厳死の薬剤の処方を受けています。2017年に安楽死・尊厳死の薬剤服用により死亡したのは合計374人です。(2016年に処方された分を含む)374人中256人が終末期のがん患者さんでした。その他の病気は、神経系の病気、心疾患、慢性呼吸器系の病気、脳血管疾患などでした。

  人間はいずれ必ず死にます。年齢を重ねれば、今まで出来ていたことが難しくなったりします。病気をすればなおさらです。

尊厳死、安楽死、自殺ほう助など様々な呼び方がありますが、カリフォルニア州で『死ぬ権利』が法律として成り立ち、実際にこの法律を使って死を選ぶ人たちがいるということをご紹介させていただきました。

参照文献

1https://coalitionccc.org/tools-resources/end-of-life-option-act/ (accessed on October 27th, 2018)

2. https://www.cdph.ca.gov/Programs/CHSI/CDPH%20Document%20Library/2017EOLADataReport.pdf(Accessed on October 27th, 2018)

 

2018/09/30

第148回コラム「Western大学でのEBM教育」

横田 麻衣 Pharm.D. Candidate 2020

私は昨年日本の薬学部を卒業し、Western大学のIBPBプログラム1に入学して現在3年次に在籍しています。今回は、アメリカに来て驚いたことの一つ、「Evidences Based Medicine教育」について紹介させていただきます。

【日本で薬学生だった頃のEBMの印象】

日本で薬学生だった頃、初めて『根拠に基づく治療』と聞いた時に大きな使命感に心が躍ったことを覚えています。EBMの授業を通して1~3次資料、研究の種類から生物統計のt試験やp値などを習いました。お恥ずかしいことに論文の読み方を知らなかった私は、習った知識を実際にどのように使うのかわからず、大切な知識を磨かず『石ころ』にしてしまい、あの時に感じた使命感は国家試験の勉強に埋もれてしまっていました。

Western大学のEBM教育】

Western大学1年次は免疫学、有機化学など基礎内容が中心ですが、2年次になると授業内容が一気に治療学に変わります。その一番最初のブロック*2が「EBM」です。学ぶ内容は日本の薬学教育モデル・コアカリキュラム*3とほぼ同じです。EBM の基本概念と実践のプロセスについて説明できる。

1. 代表的な臨床研究法(ランダム化比較試験、コホート研究、ケースコントロール研究など)の長所と短所を挙げ、それらのエビデンスレベルについて概説できる。

2. 臨床研究論文の批判的吟味に必要な基本的項目を列挙し、内的妥当性(研究結果の正確度や再現性)と外的妥当性(研究結果の一般化の可能性)について概説できる。

3. メタアナリシスの概念を理解し、結果を説明できる。

日本の教育との違いを感じたのは、実践練習がしっかりと組み込まれているところです。特に『批判的吟味』の練習は以下の過程を使用し、毎日のチーム課題を通して身につけていきます。

 Ask:質問や問題の種類を考える

 Acquire:問題に合った情報を手に入れる

 Appraise:手に入れた情報を評価する

 Apply:評価した上で情報を症例に使用できるか検討する

 Act:症例(患者さん)において実践する

この過程には上に記載した日本SBO14が全て含まれています。この中で特に集中して行うのが②Acquireと③Appraiseです。

Acquire

現在の患者さんからの質問・問題の種類から、どの情報がより良いのかを考えます。Background Question(薬や病態などの一般的な質問)とForeground Question(各患者に個別化された質問)それぞれにおいて使用する情報も異なってきます。最初は加工度の高い資料(3次資料)から使用し、加工度の低い資料(1次資料)へと掘り下げいきます。例えば、「心房細動とは何か?」というのがBackground Questionであり、3次資料情報源としてはUpToDateDynamedを使います。一方、「心房細動を罹患している患者において、ワーファリンとリバロキサバンどちらが効果的か?」というのがForeground Questionであり、3次資料情報源としてMicromedexLexicompで薬について調べた後にPubMedで論文検索をします。また、研究の種類、outcomeinclusion/exclusion criteriaなど、見つけた論文の種類が現在の問題に対して妥当かを吟味します。

Appraise

見つけ出した論文の信用性を批判的に確認します。この確認項目は研究の種類によって異なっていますが、バイアスの有無やサンプルに偏りがないかだけではなく、outcomeの種類なども考え、論文にかかれた結論に自身の結論を加えます。

 毎回の課題では、これら全ての情報をCATCritically Appraised Topicsというテンプレート1枚にまとめ、提出します。CATとは、Inclusion criteriaExclusion criteria、薬物投与群とコントロール群、各確認項目の評価*、アウトカムのデータなど、論文を端的にまとめたものです。また、現在の問題点(Clinical Question)も記入することで、論文との比較ができるようになっています。EBMブロックが終わった後にもブロック毎に症例のEBMプレゼンテーション課題が組み込まれたおり、様々な分野でのEBM練習ができるようになっています。

*各項目の確認は論文の種類によって異なり、バイアスの大きさを記入します。例えばランダム試験では以下のようになります。

l Follow up

l Randomization and concealment

l Intention to Treat  

l Similar baseline

l Blinding

l Equal treatment

【最後に】

治療を進めていく上で、『根拠はなにか?』と聞かれることが多い反面、しっかりとした根拠が無いことも多々あります。そのような時に、情報の解析の方法と、その情報をどのようにして個々の患者さんに使用していくかを判断する能力が大切です。その基礎となるのが「EBM」であると、4年前に感じた使命感が再び蘇りました。最初は石ころになってしまっても、磨けば輝きが生まれ、自身の薬学のキャリアも光を増し、患者さんへの治療にも還元できる。この楽しさをもっとたくさんの領域でみなさんと共有できたらと思っています。

 

注釈

 

1. IPBPInternational Post Baccalaureate PharmD)プログラム

 

https://www.westernu.edu/pharmacy/pharmacy-academics/pharmacy-ipbp_about/

 

2. Block Plan制度

 

Western大学では、学期制度の代わりにBlock Plan制度が導入されています。Block Plan制度とは、1ヵ月を1ブロックとして1つの疾患を学びます。例として、2年次秋のカリキュラムは以下のようになっております。

 

8月:EBM

 

9月:腎疾患

 

10月:メタボリックシンドローム:高血圧・脂質異常症・糖尿病

 

11月:心疾患

 

12月:12年次の総まとめ

 

3. 文部科学省『薬学教育モデル・コアカリキュラム平成25年改訂版』http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/02/12/1355030_02.pdf (20188月アクセス) 

 

2018/08/27

第147回コラム「Pharm.D.取得後の薬剤師試験(NAPLEX/MPJE)について」

磯 友菜

 アメリカでPharm.D.プログラムを終えた場合、薬剤師として登録されるためにはほとんどの州でNAPLEXNorth American Pharmacist Licensure Examination)という実践薬学の知識を測る試験と、MPJEMultistate Pharmacy Jurisprudence Examination)という各州の法律の試験を受けなければなりません。これは日本の薬剤師国家試験に当たるものです。海外の薬学部を卒業していてPharm.D.プログラムに行かない場合、FPGECForeign Pharmacy Graduate Equivalency Examination)に合格してから州で定められた時間の実務研修を行い、NAPLEXMPJEを受験する方法もあります。

NAPLEX/MPJEは、日本のように1年に1回、一斉に試験を受けるのではなく、Pharm.D.プログラムを卒業後に自分でスケジュールを決めて受験します。Pearson VUE という様々なコンピューターベースの試験を請け負っている会社の施設から選択し、年間を通して自分の好きな時に受験することができます。(このPearson VUEは、日本でも、TOEFLGREなどの試験を受ける時に使われている会社です。)ただし、一度不合格になると、再度受験するまでNAPLEX45日間、MPJE30日間の期間を開ける必要があり、5回まで(1年間には3回まで)しか受験できません。 

NAPLEXはエントリーレベルの薬剤師として必要な知識や技術に関する問題が250問出題され、6時間(プラス10分の休憩2回)かけて受験します。250問中200問はスコアに換算されますが、50問はプリテストとして使用されます。プリテストとは、その問題を将来の試験に含めることが適切かどうかを評価するための問題で、スコアには反映されません。全体的に分散して配置されているため、受験者にはどの問題がプリテストか判別できないようになっています。200問の獲得スコアは0点から150点に換算され、75点以上で合格になります。MPJE120問出題され、20問がプリテストで、2時間半かけて受験します。スコアは0点から100点で、75点以上で合格になります。

NAPLEXのほとんどの問題はシナリオベース形式で、患者のプロファイル・薬歴・病状の経過が提示され、そこから患者の病態をアセスメントし、薬剤による副作用や禁忌、相互作用などが聞かれる基礎問題や、適切な薬物治療などの選択をする問題などが出題されます。適切な薬剤を選ぶためには、最新のガイドラインに沿った治療目標(検査値や治療期間)や、推奨されている第一選択薬、並存症がある場合に優先される治療薬、副作用やアレルギーがあった場合の代替治療などを把握している必要があります。問題は一般名だけでなく商品名でも出題されるため、主な薬品の商品名を把握している必要もあります。

 

 以下は、公表されているNAPLEXの出題分野です。

エリア1:安全で効果的な薬物療法と健康状態に対する成果の確保(約67%)

· 患者情報の取得、解釈、評価:治療記録、検査所見、症状、危険因子など

· 個々の治療計画の作成と実施:薬剤独特の副作用、禁忌、相互作用、薬剤の重複や必要な薬剤の欠落の確認、セルフケアなど

· 個別化された治療計画の評価と修正:治療目標やその結果、安全性・有効性など

· 個別化された治療計画の効果的なコミュニケーションや文書化の技術

· 個人および集団(地域住民)の健康と安全の推奨:文献の評価、参考文献の選択、投薬エラーの評価やその対策など

エリア2:医薬品の安全で正確な調製、調剤、投薬、管理と提供(約33%)

· 計算問題:薬物濃度、調剤に必要な投与量・速度、静脈栄養のカロリー計算など

· 滅菌・非滅菌製剤:調製に必要な施設の条件、調製の手順、混合物の特性など

· 医薬品の調剤、管理:医薬品の包装、表示、保管、取扱いおよび廃棄など

 

PharmDプログラムを通して学んだことは、臨床に即した内容がほとんどで、これは薬剤師試験を通しても見られる傾向だと思います。卒業後にすぐに薬剤師として働くことを、学生、教員、薬剤師の認定機関も意識しているように感じます。

 

Reference

1. Nabp.pharmacy. https://nabp.pharmacy/wp-content/uploads/2018/05/NAPLEX-MPJE-Bulletin-May-14-2018.pdf. Published 2018. Accessed July 28, 2018.

2. Nabp.pharmacy.NAPLEX/MPJE Bulletin. https://nabp.pharmacy/wp-content/uploads/2018/05/NAPLEX-MPJE-Bulletin-May-14-2018.pdf. Published 2018. Accessed July 28, 2018.

3. Pharmacy F. Florida Board of Pharmacy- Licensing, Renewals & Information. Floridaspharmacy.gov. http://www.floridaspharmacy.gov. Published 2018. Accessed July 28, 2018.

4. Computer-Based Test (CBT) development and delivery: Pearson VUE. Home.pearsonvue.com. https://home.pearsonvue.com. Published 2018. Accessed July 28, 2018.

2018/07/23

第146回コラム「ポリファーマシーと包括的な薬物治療の見直し(Comprehensive medication reviews / Clinical medication reviews : CMR)*」

伊野 陽子

平成30年度の調剤報酬改定で「服用薬剤調整支援料(125点)」が新設されました。算定要件は、「6種類以上の内服薬が処方されていたものについて、保険薬剤師が文書を用いて提案し、当該患者に調剤する内服薬が2種類以上減少した場合に、月1回に限り所定点数を算定する」となっています1)。最近、高齢者における多剤併用(ポリファーマシー)の問題がよく取り上げられており、薬剤師によるポリファーマシーへの介入が期待されています。

 アメリカに留学していた頃、実習先の病院に日本人患者の処方薬の資料が持ち込まれたことがあり、短時間型や中間型のベンゾジアゼピン系の薬剤が併用されていることに実習先の薬剤師や学生達が驚いていました。日本ではBZ系薬剤の使用率が高いことが報告されており、国際連合の機関の1つである国際麻薬統制委員会は、2010 年の「国際統制薬物の医療・科学目的の適切なアクセス促進に関する報告書」で、日本におけるBZ 系薬剤の消費量が他のアジア諸国と比較して高いことについて、高齢人口の多さとともに、不適切な処方や濫用と関係している可能性があると指摘しています2)

 ポリファーマシーに対する薬剤師の取り組みは各国で報告されており、オランダの調剤薬局では、高齢者に対して薬剤師がCMRを行うことにより、ポリファーマシーを減らすことに貢献していると報告されています3)。中央値として2つの薬物治療に関連した問題が見いだされ、 その多くは「過剰治療」や「治療不十分」であったと報告されています。

アメリカにおいても薬剤師によるCMRが高齢患者の薬物治療における不適切処方を減らし、医療費の削減につながっているという報告がなされています4)CMRMTMmedication therapy management)の一つであり、以下の手順で行うとされています。

 全ての処方薬、OTC薬、健康食品の情報を入手する

 治療に関連する問題点を見つける

 薬物治療に関連する問題点に優先順位をつける

 問題点を解決するためのプランを作成する

 患者または介護者に対して直接(電話でも可能)カウンセリングを行う

ポリファーマシー対策では単に服用薬剤の数を減らすことを目的とするのではなく、適正使用に近づけることが重要であるといわれています。残薬などから患者の服薬状況を把握し、それぞれの薬剤の服用目的、効果、必要性などを考慮しながら適正使用へ近づけていく必要があります。薬剤師としての視点から薬の副作用を疑い、不要な薬剤・不適切な薬剤使用を減らすことを提案する力が、これからの薬剤師にとって重要なスキルとなると考えます。

 

*CMRは、オランダではClinical medication reviewsの略語、米国ではComprehensive medication reviewsの略語であり、両方とも「包括的な薬物治療の見直し」を意味する。

参考資料

1) http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=519669&name=file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000196304.pdf

2) Report of International Narcotics Control Board for 2010. suppl.1, 2010, 40

3) Sek Hung Chau, et al., Clinical medication reviews in elderly patients with polypharmacy: a cross-sectional study on drug-related problems in the Netherland. Int J Clin Pharm. (2016) 38:46-53

4) Kiel WJ, et al., Impact of Pharmacist-Conducted Comprehensive Medication Reviews for Older Adult Patients to Reduce Medication Related Problems. Pharmacy 2018, 6(1),2; http://doi.org/10.3390/pharmacy6010002

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2018/06/30

第145回コラム「イギリスのクリニカルガバナンス」

宮道 二葉

イギリスの医療を学んだ時に心に残った言葉が二つある。一つはClinical Pharmacistとは何かとの問いに対し「Responsibility and Accountability(責任と説明義務)」と回答された時。もう一つは、NHS(国営の医療サービス)、NICEガイドラインを通じて「Clinical governance(クリニカルガバナンス)」という言葉が度々登場した時である。留学当時は、公的ガイドラインであるNICEガイドラインの存在に純粋に感動し、イギリスの医療を学ぶ中でクリニカルガバナンスという言葉がとてもしっくり自分の中に溶け込んでいったのを覚えている。後に調べてみると、クリニカルガバナンスという概念がイギリスの医療に特徴的であることを知ったため、今回はクリニカルガバナンスについて紹介する。

 クリニカルガバナンス=臨床統治とは、1997年にブレア首相が掲げた医療改革の概念で、「医療の質や安全性を担保しながら医療費抑制を実現すること」を目標としている。背景としては、サッチャー政権時代の医療費抑制政策によりNHSの歳出は削減されたが、待機者リストの問題、モラル低下、エビデンスのない地域ごとに異なる治療など、様々な問題が国民を苦しめていた。これらが招いた医療事故の代表として、ブリストル王立小児病院での心臓外科手術による死亡率が異常に高いことが公にされ、管理責任が問われた事例がある。こうした問題を受けて、NHS改革の報告書1)(2の中でクリニカルガバナンスは下記の通り定義づけられている。

`Clinical governance is a system through which NHS organisations are accountable for continuously improving the quality of their services and safeguarding high standards of care by creating an environment in which excellence in clinical care will flourish1.(クリニカルガバナンスとは、NHSの絶え間ないサービの質向上を担保し、優れた臨床ケアを生み出す環境づくりを通じて高水準な医療を守るための仕組みを構築することである。)

主な要素としては、

・科学的根拠に基づく医療、臨床ガイドライン

・教育、トレーニング

・臨床監査

・研究開発

・情報管理、公然性

・リスク管理

・リーダーシップ、チーム医療

などが挙げられ、個々にシステムが築かれている。例えば、ガイドラインに関してはNational Institute for Health and Clinical Excellence (NICE)3が請け負い、ガイドラインを作成している。そして、NICEガイドラインを元に費用対効果も考慮したBritish National Formularyが医師会・薬剤師会共同で作られている。私が実習していたSt.Thomas病院では、調剤に関してもエビデンスに基づき効率化を図っていた。イギリスの調剤は日本と異なり箱渡しであるが、28錠の処方では、一番近い30錠箱にラベルを貼り投薬するとのことだった。これは人件費や調剤過誤の観点から導かれた方法なのだと言う。

日本においても日本薬剤師会から薬剤師行動規範が提示され、新たに「薬剤師は、利用可能な医療資源に限りがあることや公正性の原則を常に考慮し、個人及び社会に最良の医療を提供する。4」が追加されており、有限資源の中で国民皆保険制度を持続可能とするために我々がクリニカルガバナンスを学ぶことは重要と考える。

(1) Scally,G. & Donaldson,L.J.(1998). Clinical governance and the drive for quality improvement in the new NHS in England. BMJ,61-65.

(2) A first class service: Quality in the new NHS http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20070305120455/http://www.dh.gov.uk/PublicationsAndStatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/PublicationsPolicyAndGuidanceArticle/fs/en?CONTENT_ID=4006902&chk=j2Tt7C(accessed on May 1, 2018)

(3) National Institute for Clinical Excellence (NICE)https://www.nice.org.uk/guidance (accessed on May 1, 2018)

(4)日本薬剤師会薬剤師行動規範・同解説: http://www.nichiyaku.or.jp/action/pr/2018/01/20180124pressreleasev2.pdf (accessed on May 1, 2018)

2018/05/28

第144回「医療ICTについて~日本と諸外国の状況」

                     錦織 淳美

外来で患者さんの薬歴を確認する際、日々思うことがある。日本では「かかりつけ診療所・医院」が患者の身近に存在するが、欧米のホームドクター制度(ファミリードクターとも言われる、1家庭に1人の専属ドクターが、日常的に診察を行い、重篤化すれば専門病院や大病院への紹介もホームドクターを通して行うシステム)とは異なり、現状の医療制度では患者は自由に複数の医療機関を受診できる。そして、それぞれの医療機関には必ずと言ってよいほど、門前薬局が存在する。その結果、患者が複数の医療機関にかかれば、自動的に複数の薬局にもかかるという流れができてしまっている。そこで重要になるのが、患者自身の薬の管理能力である。それを助けるツールとして、お薬手帳や電子手帳が現在普及しており、その活用を促すために、診療報酬の保険点数がつくようになっている。しかし問題は、その手帳が十分機能しているかどうかである。

岡山大学病院の一部の患者さんを対象にお薬手帳について調査したところ、お薬手帳が交付されている患者は8割にのぼるが、実際に病院受診時などに持参している割合は5割にとどまる。残念ながら、患者自身がお薬手帳を持参(=管理)できなければ、病院・薬局ともに十分な薬歴管理ができない状況が発生している。それを打開すべく策として、各地域で医療情報連携の整備が始まっている。岡山でも、「晴れやかネット」とよばれる医療情報共有システムが数年前から活用されており、各医療スタッフが転院および紹介時に診療録や処方歴・看護記録・各種検査結果を情報共有しつつある。しかし、すべての医療機関がシステムを導入できていない現状もある。

昨今、高齢化が急速にすすむ中、「かかりつけ薬局・薬剤師制度」の活用・普及は、欠かせない方策の一つであると考える。かかりつけ医と同等に、患者の薬物療法に責任がもてるかかりつけ薬剤師の存在は、今後ますます重要になってくると思う。

一方、海外の状況をみると、エストニアや北欧の医療データ管理システムは2010年前後より急速に普及している1)。エストニアのeHealth国民の蓄積された医療情報を医療ビッグデータとし、新しい医薬品開発や医療サービスのため、リアルタイムに活用する医療分野の情報電子化システム)では、ICチップ搭載型のIDカードを所持するだけで患者および医療従事者の中で医療データが共有・参照できる仕組みになっている2)。また、ニュージーランド地域医療情報ネットワークでは、TONIQ(病歴・薬歴などを管理するソフトウエア)が整備されており、薬局に設置されているコンピューター端末への患者ID入力により、患者の病歴・処方歴・アレルギー歴やかかりつけ医療機関などがすべて管理・閲覧可能となっている。上記のようなITを活用した医療情報の共有により、より正確な病歴や薬歴管理が可能となり、適切な医療の提供および医療費の削減などが実行されている国々も存在している。

そのような状況のもと、ついに日本においても、診療録や検査データなどの個人の医療情報を集めて企業や研究機関に提供する新制度、医療ビックデータ化が始まろうとしている3)。医療ビッグデータの活用により、薬の副作用の発見や新薬の開発、病気の早期診断に役立つことが期待されている。この医療ビックデータを活用し、国民共通番号(マイナンバー)とからめて日本全国の末端の医療従事者にまで各患者の正確な病歴や薬歴が閲覧可能なネットワークが今後開設されることを期待したい。

 

参考資料:

1) Nøhr C, Parv L, Kink P, et al.  Nationwide citizen access to their health data: analyzing and comparing experiences in Denmark, Estonia and Australia. BMC Health Serv Res. 2017 Aug 7; 17(1):534

2) エストニア・北欧のICTについて

http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1802/16/news027.html

3)朝日新聞(2018422日)

https://www.asahi.com/articles/ASL4P7S7BL4PUBQU00R.html

2018/04/25

第143回「小児薬物治療評価における医薬品情報」

    渥美 景子

最近小児の病棟業務に携わるようになり、小児薬物治療を評価する機会が多くなった。評価にあたり日本の情報のみでは十分な情報が得られないことも多く、海外の書籍や文献も参照している。もう10年以上前だが、私は英国の臨床薬学修士課程で選択科目としてPediatrics(小児科学)を履修した。今回は、当時の資料を元に英国ではどのように小児薬物治療を評価していたのかをまとめてみた。

英国における小児の医薬品情報源

英国では、成人だけではなく小児薬物治療においてもフォーミュラリー(適応や用法用量、副作用、薬価など、薬に関する情報が書かれている医薬品集)が使用され、国土全体、さらには病院ごとに、薬物治療が標準化されている。私が英国の臨床薬学修士課程で実習していたRoyal London Hospitalは、ロンドンでも大きな小児部門を持つ病院の一つだった。調剤室実習の際、小児の処方を調剤していると、近くにいた薬剤師が「これを参照するといい」と言って病院独自の小児フォーミュラリーを見せてくれた。小児でも薬の投与量などの目安が細かく明確になっていることに驚いたことを覚えている。また、当時お世話になっていた研究室の教授が、英国全土共通の小児版フォーミュラリー(小児British National Formulary(BNF-C))の編集に携わっており、2005年に初めて発行されたことは今でも私の記憶に残っている。現在、BNF-Cは毎年更新されており、英国の小児薬物治療の標準化に役立っているようである。

英国臨床薬学修士課程におけるPediatrics

英国で選択科目として履修したPediatricsでは、学校での授業は3回しかなく、その合間に病院実習を行ったり、授業に向けての準備や課題を提出したりする形式だった。大学の授業では、小児薬物治療の評価方法、鎮痛・鎮静、感染症、新生児などに関するものの他、患者と患者の親への服薬指導のロールプレイ、学生各自が実習先の患者を評価したものをグループ内で発表しディスカッションするPBLのセッションなどが盛り込まれていた。また、課題として、PBLの授業に備えて患者の評価をまとめたレポートの事前提出や、授業とは別に、患者の薬物治療の評価や退院後のフォローの計画をまとめたPatient Profileの提出などがあった。Royal London hospital の小児病棟実習の初日には、指導薬剤師から新人薬剤師向けのイントロダクションの資料を頂いた。そこには薬剤師としての小児処方の確認方法、確認する上での注意点がいくつか記載されていた。そのうち医薬品情報検索については、病院の小児フォーミュラリーと病院の疾患ガイドラインがあるものはそちらを参照すること、記載がなければ他の施設のフォーミュラリー(Guys and St Thomas病院(ロンドン市内の大きな教育病院の一つ)のフォーミュラリーなど)を参照すること、それでも見つからなければMicromedexを参照せよと記載があった。その他いくつか情報源となる英国のサイトや連絡先が記載されていたが、いずれもオープンアクセスではなく、この記事を書いた時点で私が日本からアクセスすることはできなかった。実習期間が短かったことも影響していると考えられるが、実習中はMicromedexまで必要としたことはなかった。英国では小児の薬物治療について多くはフォーミュラリーで網羅されており、どの薬剤師でもある程度同じ評価が出来る仕組みになっていた。実際、学生だった私も評価しやすく感じたのを覚えている。

日本での小児の医薬品情報源

日本では英国のフォーミュラリーのようなものは存在しないので、自分で情報を集め、評価しなければならない。私が小児薬物治療評価の際によく参照している主な資料・データベースは以下の通りである。

l 新小児薬用量 改訂第7版(診断と治療社出版)

l 新生児室・NICUで使う薬剤ノート 第4

l 神奈川県立こども医療センター 新生児診療マニュアル 第6版

l Pediatric & Neonatal Lexi-Drugs (小児Lexicompweb)

l ハリエットレーンハンドブック第2

l 小児BNF 2017-2018

l NEOFAX

l Micromedex

l Up to date

l Stockley’s Drug Interactions11版(相互作用に関して)

l ネルソン小児感染症治療ガイド

l 最新感染症ガイドR-book(日本版Redbook

l 小児疾患の各種ガイドライン

l 医中誌Web

l Pubmed

情報が散らばっており、必要な情報を網羅するのがやや大変な時もある。しかし、医薬品情報を収集し、治療を評価することは、薬剤師としての重要な役割の一つである。今後も適切な情報収集、評価に努め、小児薬物治療の適正化に貢献していきたいと思う。

2018/03/25

第142回コラム 「医薬品集との付き合い方」

上塚 朋子, Pharm.D.

「今年は何色かな?」 

 この時期になると,新年度の治療薬マニュアル(医学書院)の表紙の色を予想するのがちょっとした楽しみなのです.各出版社から様々な医薬品集が出版されていて,毎年いろいろな特徴が付加され進化していますので,そんな医薬品集との付き合い方を取り上げたいと思います.

 お薬110番のサイト(1で紹介されている医薬品集(医療用医薬品)の中から,2018年度版の発売が確認できたものを挙げると;

 

 今日の治療薬 解説と便覧(南江堂)

 治療薬マニュアル(医学書院)

 治療薬ハンドブック(じほう)

 ポケット医薬品集(白文舎)

 ポケット版 治療薬UP-TO-DATE(メディカルレビュー社)

 治療薬インデックス(日経BP社)

 Drugs-NOTE ドラッグノート(じほう)

 

 筆者自身,すべてに目を通した訳ではないですが,それぞれの医薬品集は大まかに,添付文書情報の抜粋と付録の構成になっています.実務実習で薬学生にその他の資料と比較して,医薬品集の利点・欠点を挙げてもらうと,重い・字が小さくて見にくい,図がなくて分かりにくい,情報の更新が年1回に限定されるなどといった欠点が挙がります.近年は,Web電子版の使用が可能な医薬品集があったり,携帯性を高めることに主眼を置き,ポケットサイズを維持しているものもあり,その欠点をカバーしています.一方で,オンラインの医薬品集や電子カルテに搭載されている医薬品集と比較すると,手元にもってさえいればログインの手間無く,どこでもすぐに調べられる,停電や災害時にも強い,自分で書き込みができるなど,利点も多く挙げられます.「手元にあると,なんとなく安心」という感覚を持つ薬剤師も多いのではないでしょうか.

 どの医薬品集が良いかは,経験年数,どんな場面で使用することが多いか,個人的な好み等によって一概には言えないので,書店で手に取ってみたり,同僚のものを見せてもらったりして,比較してみるとよいです.これといったものが決まらない間は,毎年違う医薬品集を試してみるのも面白いです.

 購入したらまず,使い方が記載されたページを読みましょう.学生や新人薬剤師から,「◆のマークって,●●っていう意味ですか?」と凡例について質問されることが時々ありますが,それらの凡例は各医薬品集独自の定義であって,普遍的ではありません.感覚で誤った解釈をしてしまわないためにも,一つ一つを覚える必要はないですが,疑問に思った時はどのページに戻ればよいかを確認しておきましょう.膨大な添付文書情報を限られたスペースに収めるために,各社アイディアを凝らして工夫しているので,見せ方が異なります.省かれた情報が必要となった場合や記述が不十分で正確に理解できているか不安な場合は,あたりまえですがオリジナルの添付文書を参照する必要があります.

 紙媒体の医薬品集の好きなところは,薬効群ごとに薬剤が一覧表で掲載されているページと,その先数ページ続く解説ページです.院内採用薬に印をつけて,薬効群ごとに頭の整理をするには最適です.経験の浅い時期は,薬効群ごとに薬や疾患の治療の概要がまとめられているので,全体像をつかむために利用していました.

 添付文書情報以外の付録の部分は,各医薬品集の特徴が出るところでしょう.処方箋の記載方法等の基本的知識であったり,妊婦・授乳婦への薬剤の投与といった情報が掲載されています.本来詳細に解説した成書はあるものの,いきなり立ち向かうにはハードルが高く先延ばしにしているという方には,付録として専門の先生方によりまとめられたエッセンスに目を通すのをおすすめします.会議や勉強会で会場に早く着いてしまい手持ちぶさたな隙間時間に読んでみると,有意義な時間を過ごせます.

 紙媒体として捨てがたい点は,書き込みができるということです.実際にはページは情報で埋め尽くされていて空きスペースがないので,蛍光ペンで印をつけるか,付箋を貼ったり,別紙を挟むことになります.筆者はPMDAからの添付文書改訂の情報の中で,大きなものがあった場合(最近だと例えば,ガドリニウム造影剤)やFDAで副作用情報が出された場合等に,その内容を該当薬剤のページに挟んでいます.先日,センター試験の世界史で満点をとった受験生の参考書が付箋や書き込みですごいと,某予備校の先生は「もはや原形をとどめず,凄まじいオーラを放っている」と称してTwitterで話題になり,似たような医薬品集を持っていた後輩を思い出してしまいました.ただし,医薬品集の場合,翌年この情報をどのように継承していくかというのが問題なのです.1年かけて育て上げた相棒との別れは惜しいのですが,手作業で引き継ぐのもなかなか面倒というもの.毎年の恒例の儀式のように,丁寧に作業する同僚もいましたが,私は適当に間引いて更新しています.

 最後に,こんな格言を通して医薬品集の守備範囲を考えてみましょう.

“The telephone book is full of facts, but it doesn’t contain a single idea.”

(電話帳は事実で満載だが,アイディアは一つとして含まれていない)
 
                             Mortimer Adler(哲学者・教育者)

 医薬品集は電話帳のようなものです.薬剤師のよい相棒ではありますが,薬剤師として必要な知識を得るだけでなく,使いこなすためには, その他の相棒も見つけないといけません.今のあなたにとっては何でしょうか?

 

参考文献

 1. おくすり110番 くすり本NAVI http://www.okusuri110.com/book/book_100_top.html

2018/02/28

第141回コラム「米国のフォーミュラリーについて」

上田 彩

わが国の国民皆保険制度を維持するために、医薬品使用において有用性・安全性および経済性も考慮した選択をすることが必要とされている。10月に行われた内閣経済財政諮問会議においても、有効性と経済性を考慮した医薬品使用基準であるフォーミュラリーを作成した成功例として聖マリアンナ医科大学病院が取り上げられ、他の病院等へ横展開していくことが重要であるという議論がされている1)。現在の医療制度において、DPC病院がフォーミュラリーを導入する経済的なインセンティブは大きく、入院期間のみ病院の採用薬を使用する点については病棟薬剤師が患者持参薬から入院薬へ切替等を適切に行うMedication reconciliationが定着しており、患者からの理解も得やすい状況がある。昨年度の病院薬剤部門の現状調査の報告によると、院内フォーミュラリーを作成している施設は、全体の8%318施設のみであった2)。そのうち、フォーミュラリーで使用する医薬品の順序などの使用方針が決められているのは約半数で166施設であった。フォーミュラリーを作成している施設の94.3%は薬剤部門が主導的に作成していると回答した。昨年11月の医療薬学会年会においても、フォーミュラリーの取り組みについて発表が数件あり、フォーミュラリーの概念は、日本においても浸透しつつあるのでないかと考える3)4)

今後、フォーミュラリー作成を展開する上で薬剤師が大きな役割を果たせなければならない。欧米では経済性を重視したフォーミュラリーが一般的に行われている。英国では、国営医療サービスにおける財源の有効活用のため経済性が重要視されることは、以前にコラムでも紹介した。今回は、米国におけるフォーミュラリーの現状について報告したい。

米国の医療制度は、雇用主提供保険などを代表とする民間医療保険が主である。公的医療保障制度は、高齢者(Medicare)と低所得者(Medicaid)を対象とした制度はあるが、2015年で無保険者が人口の10%と報告されている5)。米国においては、2014年入院平均日数6.1日、日本の29.1日(2015年)と比較し短く、病院では急性期治療に限定した医療を提供する 6)。病院に対する支払制度の例を挙げると、MedicareDRG包括支払いを行っている。これは日本のDPC制度のモデルとなった制度であるが、より厳格な包括払い制度である 7)。米国における後発医薬品使用割合の数量ベースは91.6%( 2015)である 8)。病院においての採用薬は、在庫管理の面からも採用品目の制限をしており、therapeutic interchange とよばれる院内プロコトールにより、同効薬を自動的に院内採用の薬品に変更することが一般的に行われている。米国の病院でtherapeutic interchangeが行われている代表的な薬効群は以下である。H2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬、制酸剤、キノロン系抗菌剤、カリウム製剤、セフェム系抗菌薬、インスリン、緩下剤、HMG-CoA還元酵素阻害剤 9)

外来や一次医療においては、患者個人の保険のフォーミュラリーにより処方可能な選択肢が異なる。医薬品は、有効性、安全性、経済性によりTier levelに分類され、患者の負担額が変わる。医師は原則Tier1から使用することが推奨されており、効果や副作用などの理由で次のTier2から選択することになる。保険会社と医療提供部門が統合した事業体であるKaiser Permanente(KP)のフォーミュラリーのTierを以下に示す。10)

Tier 1 推奨後発医薬品

Tier 2 後発医薬品

Tier 3 推奨先発医薬品

Tier 4 非推奨先発医薬品

Tier 5 専門医薬品

Tier 6 ワクチンなどの注射

 

KPは、カリフォルニア州オークランドを拠点とし、保険料前払い方式の医療提供プランであるHealth Maintenance Organization(HMO)である。保険加入者はKPの医療施設のみを利用し、KPの医療施設は保険加入者しか診療しない。保険部門と医療提供部門が完全統合しているメリットは、レセプトが不要であり、保険と医師との対立が解消される。医師をはじめとする医療スタッフの債務は与えられた予算の範囲でベストプラクティスを実施することにある。

例えば、KPの北カルフォルニア州のフォーミュラリーの例としては、レニンアンジオテンシン系薬では、ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリラート、ENTRESTO、リシノプリル、ロサルタン、ラミプリル、スピロノラクトンとバルサルタンのみである。先発医薬品は、ネプライシン阻害剤のSacubitrilとバルサルタンの合剤のENTRESTのみであった。11)

米国においては、民間保険を主体とした医療が提供されている点は日本と異なるが、エビデンスと経済性を重視した標準治療が行われている。本邦においては、医療機関、地域や保険等でのフォーミュラリーの作成望まれるが、その実践に向けて米国の医薬品のTier levelsによって患者負担が変わるなどのシステムは参考となると考える。

引用文献

1) 14回経済財政諮問会議平成291026日 http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2017/1026/gijiyoushi.pdf

2) 平成28年度「病院薬剤部門の現状調査」集計結果報告 日本病院薬剤師会雑誌Vol.53 No.7 2017

3) 寺井 宏太他 院内での DPP-4 阻害薬 2剤(フォーミュラリーの視点から)における適正使用の検討 

4) 長橋 かよ子 直接経口抗凝固薬(DOAC)のフォーミュラリー作成と適正使用 

5) 医療経済研究機構 アメリカ医療関連データ集2015年版

6) OECD (2017), "Health care utilisation", OECD Health Statistics (database).http://dx.doi.org/10.1787/data-00542-en(Accessed on 07 December 2017)

7) J. Natl. Inst. Public Health, 636: 2014 https://www.niph.go.jp/journal/data/63-6/201563060002.pdf200171218日にアクセス)

8) 医療経済研究機構 平成28年度 薬剤使用状況等に関する調査研究 報告書

9) Guidelines for Therapeutic Interchange—2004: American College of Clinical Pharmacy. Pharmacotherapy: The Journal of Human Pharmacology and Drug Therapy. 2005 Nov 1;25(11):1666-80.

10) カイザーパーマネンテフォーミュラリー

https://healthy.kaiserpermanente.org/static/health/en-us/pdfs/nat/Medicare_2018_NAT/comprehensive_formulary.pdf

11)https://healthy.kaiserpermanente.org/static/health/pdfs/formulary/cal/2017_ca_marketplace_formulary.pdf200171218日にアクセス)

参考資料

フォーミュラリー -エビデンスと経済性に基づいた薬剤選択- 2017年 薬事日報社

ISBN978-4-8408-1409-6 C3047 

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