第212回コラム「日本のワーママの現状に思うこと」
横田 麻衣
私は現在アメリカのカリフォルニア州で臨床薬剤師としてフルタイムで働いている。去年、第一子が生まれワーキングマザー(以下ワーママ)の一人となった。以前のコラムで日本においての働く女性の現状と困難を痛感した(コラム第191回参考http://pharmd-club.cocolog-nifty.com/blog/2022/03/post-70c2f2.html )。日本にいる友人にもたくさんのワーママがいるが、働きながら育児に追われて忙しいという声をたくさん聞く。
2023年のBureau of Labor Statistics調査によるとアメリカには74%の18歳以下の子供を持つ母親が働いており、そのうちの80%ほどがフルタイムで勤務している。2021年の厚生労働省の調査によると日本には75.9%の18歳以下の子供を持つ母親が働いており、そのうちの29.6%が正規雇用であった。
幸せな人生を送るためには自分・家族・仕事などのバランスを取る事が重要となってくるが、次々と出てくる困難や悩みは子供の年齢や自分の職業によって様々であろう。今回はアメリカで新米ワーママになった私が日本のワーママの環境について思う事を話したい。
産休・育休について
日本の産休・育休はアメリカに比べてかなり長い。どちらが良いのかは個々の考えによって違うだろう。私の住むカリフォルニア州では産休 (Disability Leave、以下DL、の一種) が出産予定日の4週間前から産後6週間 (問題のない経膣分娩の場合) となっている。しかしながら、仕事のため産休を出産予定日ギリギリまで取らない妊婦さんも多いのも事実である。
また、カリフォルニア州の育休 (Family Leave、以下FL、の一種) は12週間となっている。この権利を獲得するために、以下の二つの項目を満たさなければならない。
- 現職に1年以上勤務している
- 現職で1250時間以上働いている
以上が満たされない場合FLを受け取れない、すなわち復帰後に自分のポジションが確保される保証はない。日本の育休は最大2年間取得することが可能となった。子供と過ごせる時間が増えた一方、2年後復帰した際に浦島太郎状態に陥ってしまうという意見をたくさん聞く。合計4ヶ月の産休・育休を取った私でも復帰した際に元のコンディションに戻るのに時間がかかったので、2年のブランクから抜け出すのにはかなりの時間がかかりそうだ。
仕事復帰後の生活
アメリカでは母親が仕事に復帰してから赤ちゃんはどこに行くのか。私達の場合はベビーシッターにお願いをしたが、保育園などの施設に預けたり他の家族が面倒をみたりと色々である。アメリカでは施設にて生後6週間からの幼い赤ちゃんの受け入れも可能なため、早く仕事に復帰するワーママには助かる。
また、個人的な意見であるがアメリカでは有休も日本よりも取りやすい環境であると感じる。産休・育休は短いが、その後の子供のライフイベントに有休を使って参加できるのはありがたい。一方、日本は有休をとる事があまり良い事に捉えられていない場合が多いのではないだろうか。そうなると、最大2年の育休をできれば逃したくないと言う気持ちになるのかもしれない。また、子供が体調を崩せば自宅で療養となるが、日本では基本的にお母さん役目と認識されているだろう。アメリカでは両親で交互に休みを取る事でお互いの負担を減らすよう努めている家族もたくさん見かける。
ワーママの何が大変なのか?
友人達の話を聞いていて思う事は、日本のワーママは周りからのサポートが少ない、かつ助けを求めにくい雰囲気にある。家事・育児・仕事、ママはする事がたくさんあり、自分の時間を持てないどころか山積みの任務に追われて一日を終える。私は幸いにも夫と家事・育児を分担しているだけでなく、分担を可能とする環境が整っている。日本にも家事・育児を率先して一緒に行なってくれる旦那さんも多くなってきているが、仕事から家に帰るのが遅いため手伝えることも限られているケースも多々ある。以前のコラム(第191回)にも記載されていたが、日本の残業時間が原因の一つとなっているのだろう。
また、「他人に迷惑をかけない」と言う文化から、ワーママに限らず子育てに対して社会からの理解も薄いように感じる。例えば、通勤ラッシュ時の電車に赤ちゃんと乗車しなければならない場合の議論がSNSで繰り広げられている。「電車が混むのはわかっているのだから時間をずらすべきだ」、「ベビーカーなんて以ての外だ」、などの意見を見かけた。さらに、優先座席は満席であることも多く、赤ちゃんを抱っこしていても席を譲ってもらえることは少ない。アメリカでは、公共の交通機関で子連れ、妊婦さん、お年寄り、荷物が多い人などをみると直ぐに席を譲ったり助けてくれたりする。社会が子育てに協力する事も、ママ達にとってはとても助かるだろう。
セルフケアの大切さを知って欲しい
日本の独特な美徳として、「利他の心」という考えがある。まず子供や家族を優先して自分(母)は後回し。母に限らずアメリカではセルフケアがとても重要視されており、他人のケアをする前に自分をしっかりとケアしようと言う考えが広まっている。「自分の疲れているときのサインは何か」、「何をしたらエネルギーチャージができるのか」、「その時間をどのようにしてとるのか」、自分だけでなくパートナーや家族、または家事代行などにもっと頼ってもいいのではないか。
私はセルフケアが必要だと思った時、心のエネルギーを保つために仕事前の朝5時にプールに泳ぎに行ったり、娘の寝かしつけを夫に任せて早めに寝たり、心がしんどい時は、お昼休みにリモートでカウンセリングセッションを受けたりするなどしている。アメリカの子供を持つ夫婦には子供を祖父母に預けて2週間の旅行に行く人などもいる。日本のママ達はもう少し自分の肩から荷を下ろし自分のために生きて欲しい。
まとめ
今回は日本のワーママから聞いた話を元に私が思ったことを記した。今年、我が子と日本に一時帰国をした際、日本には至る所に綺麗な授乳室があったり、子供が遊べる場所があったり、トイレには赤ちゃんを座らせる椅子なんかも付いていて、社会全体の設備としてはとても子供に優しい国だと感じた。しかしながら、設備が整っていてもまわりの人々が子供を歓迎しているかと言われると難しい所である。
妊婦・赤ちゃんに対しての電車での優先座席・ベビーカー問題であったり、休暇申請の取りにくさであったり、地域や所属によって反応は様々であるがキャリアを持続していくためには肩身の狭い思いをしているワーママも多いだろう。
アメリカでは設備は充実していないが、子供・家族に対して社会の理解があると感じる。これを文化の違いと言ってしまえばそうなのかもしれない。また、根強い文化が絡んでいるからこそこの状況を変える事が難しい現実がなんとも歯がゆい。
フルタイムでもパートでも専業主婦でも、自分の納得できる環境でママ達が自分らしく輝けるようになって欲しい。そして、ママ達も自分が輝く権利があることを忘れないでほしい。
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