第206回コラム「学生やレジデント指導は職業上の義務か?」
城戸 和彦
このシンプルな質問について、指導薬剤師として一度は直面したことがあるのではないでしょうか。今回は、このテーマについて議論した「Precepting as a Professional Obligation」という記事を、アメリカ病院薬剤師団体(ASHP)から共著者として出版する機会を得たので、その内容を紹介します。
まず、この声明でASHPは、「全ての薬剤師に学生やレジデントを指導するプリセプターとしての責任がある」としています。「全ての薬剤師は、学生やレジデントを指導し、薬剤師の実務と患者ケアを発展させるためにプリセプターの責任を受け入れるべきである」と記しており、加えて「全ての薬剤師にプリセプターとしてのスキルを発展させ、指導のための時間と資源を提供する」よう奨励しています。
「プリセプターの価値」についても述べています。プリセプターの価値は、学習者、プリセプター自身、医療機関、患者にとって多くの利益をもたらします。学習者にとって、プリセプターは将来薬剤師として働く際のアイデンティティ形成やキャリア選択などに大きな影響を与えます。プリセプターにとっても、学習者を実地現場で指導することで臨床的な生産性が向上します。医療機関と患者にとっても、学生やレジデントが患者ケアの向上に貢献し、医療機関の薬剤業務を改善することが期待されています。
プリセプターの所属先の責任についても、「薬学部や所属する医療機関は、プリセプターの発展を支援し、指導者スキルの向上を奨励し、学生やレジデントを実地実務に組み入れる文化を促進する責任がある」と述べています。学生指導は薬剤師の未来に貢献する貴重な経験であり、将来の薬学臨床家に影響を与えます。プリセプターには日常の実務にプリセプターの役割を統合し、学術的な業績を文書化することが奨励されています。
プリセプターは、プロフェッショナリズム、コミュニケーション能力、スキルと知識の実践のアドバイス、指導、実地実習中のフィードバックを提供する役割を果たします。実務経験のあるすべての薬剤師は、卒後研修(レジデント研修)を受けていない場合でも、薬剤師としての責任があると認識されています。プリセプターは、学習者のトレーニングだけでなく、トレーニングの継続的な品質向上プロセスにも参加する責任があります。プリセプターとしての価値、学習者が薬剤師として果たす拡張的な役割、学習者が患者の結果に及ぼす影響について、学術的な業績を通じて文書化することが奨励されています。
ASHPの「プリセプターの責任」に関する声明は、プリセプター、所属する医療機関の責任、さらには薬学部の責任についても述べています。学習者の指導が、プリセプター、医療機関、そして患者にとっても有益な形態をとることの重要性を再認識する内容になっています。是非、新しいプリセプターのオリエンテーションやプリセプターの研修資料としてご活用ください。
引用先
Wisniewski J, Williams C, Carroll D, Richter L, Eudaley S, Kido K. ASHP Statement on Precepting as a Professional Obligation. Am J Health Syst Pharm. 2023 Oct 16 [Online ahead of print].
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