第205回コラム「米国リフィル処方と薬剤師の役割」
横田 麻衣
日本では2022年度診療報酬改定からリフィル処方箋が導入され、2022年12月の日本保険薬局協会のデータによると、総受付件数に対するリフィル割合は0.102%であった1。一方、アメリカ合衆国カリフォルニア州では1951年にリフィル処方が開始されており、 現在ではかかりつけ医から処方される慢性疾患薬の多くにリフィル処方が使用されている。
今回は、日本と米国(カリフォルニア州)のリフィル処方について利点・欠点を比較し、米国薬剤師がリフィル処方に対してどのような役割を担っているか、そして日本における今後の課題について考察する。
日米リフィル処方の比較
日本と米国カリフォルニア州のリフィル処方を以下に比較する。
|
日本 |
米国(カリフォルニア州) |
形式 |
紙媒体 |
主に電子媒体 |
有効期間 |
1回目:4日以内 2回目以降: 次回調剤日から7日前後 |
1年 |
リフィル回数制限 |
最大3回 |
制限なし(最長1年) |
有効なリフィルの管理 |
患者 |
薬局 |
失効したリフィルの管理 |
薬局 |
薬局 |
対象外薬 |
麻薬、劇薬、新薬、 向精神薬、等 |
麻薬(CS II) *CS III~IV制限あり* |
CS: Controlled Substance
リフィル処方の利点・欠点
日米のリフィル処方において多少の違いはあるが、共通している利点・欠点を以下に挙げる。
1.利点
・医師の業務負担の軽減とそれによって医師の診察を必要とする患者が診察される
・医療費削減
・患者の通院にかかる費用と時間の軽減
・薬剤師が患者ケアに、より携わることができる
2.欠点
・医師の診察が減ることで効果の確認や副作用を見逃してしまう可能性がある
・患者自身も効果・副作用の症状をモニタリングし報告しなければならない
・薬剤師への負担が増える(業務・責任の増加)
リフィル処方の欠点を補う米国薬剤師の役割・職種
アメリカではこれらの不利点をどのように補っているのか。リフィル処方に携わる米国薬剤師の役割を職種別に紹介する。
1.薬局薬剤師
日本の薬局薬剤師と同様、リフィル処方の調剤・監査、新しい処方箋の服薬指導に携わる。また、患者がリフィル薬を受け取る薬局を変更したい場合、リフィルの移行をする。新しい処方箋の場合、患者へ服薬指導を行うことが法律で定められているが、リフィル薬のカウンセリングに対しての規定はない。患者側から質問や気になる症状を訴えてきた場合は薬剤師がカウンセリングを行い、副作用が疑われる場合は患者にかかりつけ医に報告するよう促すか、緊急性が高いものであれば救急外来に行くことを勧める。患者が副作用に気づかない場合を含め患者から何も訴えがない場合、リフィルに対してカウンセリングを行うことがないのが多くの薬局での現状である。
2.Medication Therapy Management (MTM;薬物治療管理)
薬の適切な使用を促すためにMTMの基盤となるものが1990年代 pharmaceutical careという名の下に始まったが、2003年に行政によって公的にMTMとして知れ渡った。主な目的としては薬物治療の最適化、副作用削減、医療費の削減が挙げられる。現在では Medicare Part D*の保険プランを提供している保険会社はMTMを患者に提供しなくてはならない。MTM薬剤師の役割は薬の調剤・監査は含まれず、患者に電話越しでインタビューをし、処方薬の用法・用量の確認だけではなく、効果・副作用・アドヒアランスの確認などの情報を収集する。収集した情報と解決策をまとめた用紙(Medication Action PlanとMedication List2)を患者に提供することで、患者がかかりつけ医・薬剤師と情報共有できるようにする。また、患者への薬に関する教育を通して患者自身が効果・副作用のモニタリングをできるようになることもMTM薬剤師の役割の一つである。
*Medicare Part Dとは:アメリカの健康保険制度の一部で、高齢者や一部の障がい者が処方される処方薬の費用を補助するためのプログラム
3.Ambulatory care pharmacist
以前のコラムでAmbulatory care pharmacistの概要について記述した(第183回参照)。毎回の外来訪問で全ての薬をモニタリングしているわけではないが、かかりつけ医と共に働いているAmbulatory Care薬剤師は患者が気になっている症状を話しやすい存在であると思う。筆者は糖尿病罹患患者の外来訪問を主に担当しているが、糖尿病薬の副作用だけではなく向精神薬や高血圧薬など、糖尿病薬以外の副作用と思われる症状、または効果の不足などの訴えを患者から聞くことがある。関与していると思われる薬または症状が同意書の範囲外である場合、かかりつけ医に情報共有し対策を考える。緊急性の高い場合は救急外来を勧める。
まとめ
リフィル処方の欠点を補い、より良いものにしていくために活躍するのが薬剤師ではないだろうか。しかし、他の日常業務で忙しいにも関わらず、更なる業務の加担によって、薬局薬剤師への責任が増えることが問題の一つとなっている。薬剤師の対人業務を増やすためには薬剤師補助またはテクニシャンなどの存在が大切になってくるであろう。また、薬局薬剤師のみならず職種の細分化をすることで負担の分散や、職種の選択肢の幅が広がることで各々のやりがいを見出すことができる。しかしながら、米国においてもMTMやAmbulatory care薬剤師等による患者へのカウンセリングのみでビジネスを継続して行くことは難しいため、このような業務を行える場所は限られているのが現実である。また、最近リフィル処方が導入された日本では、今後タスクシェアによる安全性の担保と責任の所在という点も課題になるだろう。「医師のみの責任」、「薬剤師のみの責任」、ではなく、患者を含め全員が責任を持ちつつ多職種連携することが成功の鍵になってくるのではないだろうか。今後、日本においてリフィル処方の使用割合はどうなるのか、また、それによって薬剤師の役割はどのように変わっていくのかが興味深い。
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