生涯教育(CE)

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2022/09/30

第196回コラム「PGY1 Pharmacy Residencyを修了して①」

Megumi Howard, Pharm.D.

 この7月に、ワシントン州シアトル市にある「Swedish Medical Center」のPGY1(Post-graduate year 1)レジデンシープログラムを修了しました。Swedish Medical Centerは5つの系列病院をもつ地域病院で、メインのキャンパスは700床の入院施設を保有します。今回と次回のコラムでは、具体的にどのような内容をレジデントとして学ぶのか、病院薬剤師レジデントとしての7月から翌年6月末までの一年間を時系列で紹介したいと思います。今回は前半の7月~12月までの内容を中心に紹介します。

 PGY1レジデンシープログラムは、大きく次の4つに分類できます。Pharmacy(病院を中心とした一般的なプログラム)、 community(外来薬局を中心としたプログラム)、 managed care(保険や費用対効果を中心としたプログラム)、 combined PGY-1/PGY-2 training programs(2年間のプログラム、経営や運営を中心に学ぶ)です。私が修了したレジデンシープログラムは、一般的な病院を中心とした「Pharmacy」のプログラムで、第183回会員コラム(http://pharmd-club.cocolog-nifty.com/blog/2021/07/post-07c018.html)で横田先生が紹介された外来クリニック(Ambulatory Care)も含め、様々な分野で幅広く研修を行います。私を含めてPGY1レジデントが6名、PGY2レジデントが1名という、平均より少し大きめのプログラムでした。各レジデンシープログラムによって学べる分野や方法に差はあるものの、一定の質を担保するために、ASHP(米国病院薬剤師会)によって修了までに必須のスキルや研修内容など、細かい規定が定められています。

近年、米国のほとんどの病院や外来クリニックではレジデンシー経験を雇用条件として必須としており、専門薬剤師になるためには更にPGY2の経験を求められることも多くなってきました。米国の薬学生は、実習の際に「インターン免許」が与えられ、プリセプターの監督下で薬剤師の全ての業務を経験します。一方、レジデントは既に免許をもった薬剤師であり、独立して業務を行うことが可能です。疑問があれば指導薬剤師に質問をしたりディスカッションをしたりして確認はしますが、最終的には薬剤師としてレジデント自身が最終的な決断を下していくことになります。

7-9月

General Medicine(一般内科)

一般内科病棟での臨床研修は、プログラムの初期に行うことが多いです。ここで回診前の患者情報収集、病棟回診、Pharmacy Consult、処方監査、多職種への薬剤情報提供など、基本的な臨床薬剤師としての業務を学びます。Pharmacy ConsultはCDTA(Collaborative Drug Therapy Agreement)とも言い、あらかじめ作成・合意されたプロトコルを基に、定められた病態に対して医薬品の選択、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査オーダーを薬剤師の権限で行うことができます。

Solid Organ Transplant(臓器移植)

移植医療は日本と比べ件数が非常に多く、一部の高度医療を担う病院だけではなく地域病院でも一般的に行われています。私の病院では肝移植・腎移植が主に行われており、薬剤師の役割は移植候補者ミーティングや病棟回診への参加、移植日や移植後免疫抑制剤の用量やタイミング調節、患者カウンセリング、外来クリニックでの薬の調節やリフィル処方、服薬アドヒアランスの確認等でした。

Geriatric Medicine(老年内科)

老年内科は高齢者に特有の疾患を中心としたケアを提供します。認知機能チェック、社会的サポート、心理的要因など多方向からのケアを行うため、老年内科チームは老年内科専門医、研修医、ソーシャルワーカー、臨床心理士、薬剤師で構成されています。それぞれが1人ずつ患者さんを15分ずつ診察するため、一回の診察にじっくり2時間程度の予約時間を設けています。

薬剤師の業務としては、認知機能低下に寄与している市販薬やサプリメント、処方薬がないかどうか、Beers criteriaに載っている薬が不適切に使用されていないか、アルツハイマー型認知症などの診断がついた場合はどの薬物治療が最適かなどを確認し、その場で医師へのフィードバックを提供します。各々のチームメンバーからフィードバックを受け取った医師が最後に患者さんと30分程度まとめの面談をして診察終了となります。

臨床業務以外の研修

臨床研究テーマ選び

レジデントはLongitudinal projectと呼ばれる一年間をかけて行う長期プロジェクトに加えて、いくつかの短期プロジェクトを並行して勧めていきます。長期プロジェクトに関しては、研究の立案と申請、治験審査委員会(IRB)の承認取得、データ収集、統計分析、ポスター発表、全米各地域で行われるレジデント研究発表会でのプレゼンテーションを行うことが必須となっています。まずは興味のあるテーマを選び、それぞれにサポートする指導薬剤師がつきます。

学生指導

米国薬学生もそれぞれ興味のある分野を選んで実習を行うため、レジデントと同時期に同じ科で実習を行うことがあります。そのような実習生指導もレジデント業務の一環です。個々の患者の薬物治療プランを考えてもらいディスカッションをしたり、実習生の書いたカルテの確認、トピックディスカッションと呼ばれる病態や症例に関しての発表、ジャーナルクラブなどを一緒に行います。レジデントと学生だけで行うこともあれば、薬剤部や看護部など全体に向けて発表することもあり、準備中に質問やアドバイスが欲しい時の基本的な連絡先はレジデントになります。

10-12月

Staffing開始

病院内で独立した臨床薬剤師として働くこともレジデント業務の一環です。Staffingと呼ばれ、臨床研修に影響がないよう隔週末に行われるため、開始後は12連勤2連休の繰り返しとなり、レジデンシーが過酷なものだと呼ばれる一因となっています。一般内科病棟を担当することが多いですが、シフトによって病棟ではなく院内薬局で働くこともあります。当日は完全に一薬剤師として扱われ、指導薬剤師やダブルチェックをする薬剤師などはいませんが、それぞれに担当指導薬剤師がおり、後ほどフィードバックをもらうことができます(例えば、私がバンコマイシンの用量変更をした後、実際の血中濃度の情報を再確認してくれたり、場合によってはアドバイスをくれたりします)。

アメリカでは、Pharm.D.課程を卒業して初めて薬剤師国家試験受験資格が得られます。毎日のように試験が行われているため(コンピュータ試験)、試験会場や試験日は自分で決めることができます。もし最初の挑戦で受からなくても、定められた期間を空ければ(薬剤師試験の場合3か月)再度挑戦することができます。レジデントは9~10月からStaffingが始まるため、それまでに試験に受かり薬剤師免許を取得することが必須となっています。あまりに遅くならない限りは自分のタイミングに任されており、私は7月末に免許を取得しましたが、6月に取得したレジデントもいれば9月に入ってからのレジデントもいました。

Anticoagulation Clinic(抗凝固療法外来)

最近の米国では薬剤師による抗凝固療法クリニックが一般的になり、ワーファリンの用量を決めたことがない若い医師が少なくないと聞きます。処方医から、病名、INRターゲットなどの情報を含んだ依頼を受け、患者さんの希望や病態に応じて対面、電話、オンラインなど受診方法や受診間隔を決めます。2~3週に一度クリニックに直接来てもらいINRを測定して用量決定する患者さんもいれば、INR測定器を家で使用してもらい、オンラインで毎日INRや食事、生活スタイルの変化などのアンケートを送信してもらい、週に一度メッセージで用量変更を伝えることもあります。この家で測定してもらうスタイルの場合、初回の一回だけ器具の使い方やオンラインシステムをきちんと使えることを確認すれば良いだけなので、患者さんが病院やクリニックの少ない地域に住んでる場合にも重宝されています。患者さんが手術や処置などを控えていて抗凝固療法が好ましくない場合なども、抗凝固療法担当薬剤師がエノキサパリンを処方したり、ワーファリンを中止する日を指定したりといった調整を行います。

Oncology(腫瘍学)

米国は日本と比べ、かなり多くの種類の抗がん剤治療を外来で行うため、入院治療は一部の血液がんなどに限られます。私の臨床研修は外来3週間、院内1週間の外来寄りで、レジメンとサポートするエビデンスの確認、用量や間隔、ケモ前投与薬剤の確認などを行いました。ケモ投与日の患者さんは毎回診察がある訳ではなく、薬剤師による検査値確認が出来次第投与開始、というスケジュールになることも多いため、看護師さんとのコミュニケーションが必須で、薬に関する質問を受けることも一番多かったように感じました。通常業務に加え、日々の薬物治療プランのディスカッションや症例発表なども並行して行い、私は“Targeted Therapy for Cholangiocarcinoma”というテーマでプレゼンテーションを行いました。治験薬の使用が多い大学病院や規模の大きい病院ではInvestigational Drug Servicesと呼ばれる治験薬の管理や患者カウンセリングを専門とした薬剤師が常在することが多いですが、小規模な病院では抗がん剤専門薬剤師が兼務することもあります。

(次回に続く)

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