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2022/07/31

第194回コラム「オピオイドの使用と薬剤師の役割について―処方と注意点に関して」

武田 三樹子

 日本では2020年にオキシコドンの適応が拡大し、「非オピオイド鎮痛薬又は他のオピオイド鎮痛薬で治療困難な中等度から高度の慢性疼痛における鎮痛」に使用することが可能になった。日本でオピオイドが慢性疼痛に使用される時代が来た。アメリカでは非がん性の慢性疼痛によくオピオイドが使用されている。私が2006年にアメリカに来て、カリキュラムの一環で薬局実習に行くと、必ずと言っていいほどオピオイドの処方を見ていた。しかも当時はオピオイドにベンゾジアゼピンと筋肉弛緩薬の組み合わせがよく処方されていた。オピオイドは疼痛管理には最強の薬である反面、その害も多く、医療用麻薬の原因によるオピオイド中毒、そしてオピオイドの中毒死まで至る例も珍しくない。そのようなオピオイドによる中毒死を防ぐために様々な取り組みを行ってきたが、2016年にCDCから、疼痛管理を専門としない医療従事者向けのオピオイドのガイドラインが発行された。それには、オピオイドを処方する際の注意点が12項目にわたってまとめられている。私はpharmacist clinicianという立場で慢性疼痛の患者の診療に従事し、controlled substances (CS) に指定されている薬物(アンフェタミン、オピオイド、ベンゾジアゼピン、プレガバリンなど)の処方箋も書くことが多い。オピオイドの安全使用のためには、処方する側も、調剤をする側も、このガイドラインをもとに様々な安全対策を行っている。今回は、オピオイドを処方する側から、アメリカではどのような決まりになっているのか、オピオイド処方の手順、また、オピオイドの処方にまつわる様々なエピソードも紹介したい。

 アメリカには処方権を持つ医療従事者の種類は日本よりも多いが、オピオイドを処方できる医療従事者は限られている。オピオイドやその他のcontrolled substances (CS)を処方するには、その医療従事者が アメリカ連邦政府の機関であるDrug Enforcement Administrationのライセンス (DEA licenseと呼ばれています) を取得していることが絶対条件である。私はpharmacist clinicianという職種で患者を診療しており、CSを処方するためにDEA licenseを所有している(ちなみに、CSを処方しないpharmacist clinicianも存在する)。

 まず診療する側は、本当に患者にオピオイドが必要なのかを客観的に判断するために、患者からの症状の聞き取りだけに頼るのではなく、フィジカルアセスメントや画像診断を行い、患者の症状を調べることが大事である。そして、到達可能な治療目標を患者と共に決める。例えば、痛みが10段階でゼロになりたい、というのはあくまでも患者の希望であり、痛みの種類によっては、痛みが消えることはない、ということも珍しくはない。しかし、130分歩くことができるようになりたい、家事を1時間だけでもできるようになりたい、というのは到達可能な治療目標である。さらに、オピオイド以外の鎮痛薬やそれに準じた薬(NSAIDs, gabapentin, pregabalin, SNRIs, TCAsなど)も使用し、痛みのコントロールを試みる。また、薬物治療のみならず、PT、カイロプラクティス、鍼灸などの治療も勧めてみる。どれを試しても効果がない場合、または、オピオイド以外の薬での治療薬で副作用が出たり、腎機能や肝機能の低下が問題となってオピオイド以外の治療薬を服用できない場合にオピオイドの使用が検討される。オピオイドを処方すると決まっても、患者には、オピオイド使用の長所や短所を話し、副作用、特に、オピオイドによる中毒死の危険性も話しておかねばならない。そして、最初から高用量を処方するのではなく、少量の投与を行い、必要に応じて増量することや、投与の中止も推奨されている。

 クリニックでは、オピオイドを処方するにあたっては、Controlled Substance Agreement (CSA) と呼ばれる書類に患者から署名をもらっておかねばならない。このCSAに書いてある内容は、CSに指定されている薬物をこのクリニックで処方するにあたり、患者が厳守しなければならないことを挙げたものである。具体的には、処方されたCSは、処方箋の記載通りに服用し、それ以上の量は服用しないこと、他の医療機関からCSの処方があった場合は、クリニックにすぐに報告すること、処方する医療従事者は3か月に一度はPrescription Monitoring Report (PMP reportと呼ばれています。これに関しては下記に別途記載します) の確認をしていること、定期的な尿検査の必要性と、患者はいかなる理由に関わらず尿検査を断れないこと、さらには、CSAに記載してあることを守れなかった場合には、医療従事者はCSの処方を終了することなどが記載されている。

 Prescription Monitoring Report (PMP report) は、州の薬務課のようなところが提供している、CSの処方状況が把握できるウェブサイトである。このウェブサイトは、医療従事者と薬局や薬剤師がアクセス可能である(使用者の登録とパスワードが必要です)。このウェブサイトでは、患者のCSの処方記録と、薬局で実際に調剤されたかを調べることができる。このPMP reportのシステムは個々の調剤薬局とつながっていて、薬局はCSの処方があった場合には、24時間以内に薬務課へ情報を送る義務がある。これは、患者がいくつものクリニックや薬局を回って、オピオイドなどの乱用されやすい処方薬を過量に入手することを防ぐために行われている。ちなみに前者はドクターショッピング、後者をファーマシーショッピングと呼ばれている。また、PMP reportからは、患者が早めにCSの処方を医療機関にリクエストしていないかを調べるために、前回の処方日を確認することにも利用されている。通常、オピオイドを処方する医療従事者は、最低でも3か月に一度はPMP reportの確認をしなければならない。

 オピオイドを処方する前には尿検査をし、違法薬物(メタンフェタミン、コカインなど)の摂取がないか、また、アルコールの接種がないかを調べておく必要がある。その理由は、それらの違法薬物の摂取を行っている患者は、一般的にオピオイドの中毒になりやすい傾向があり、また、それらの薬物をオピオイドと一緒に服用すると、中毒の危険性が高くなるからである。また、初回以降の尿検査は、最低でも6か月ごとに行わねばならない。初回以降は、違法薬物の他に、処方されている薬物とその代謝物が尿中で検出されたかも確認をする。信じられないかもしれないが、処方されたオピオイドを、市中の薬物中毒者に売って金銭を得る行為も珍しくないので、処方された薬物が定期的に処方されているにも関わらず、陰性結果が続くときには、この可能性を疑うこともある。

 オピオイドの処方をする際には、オピオイドの拮抗薬であるナロキソンの処方も推奨されている。アメリカでは、ナロキソンの経鼻投与は広く使用されている薬で、オピオイドの中毒死の予防のためには、医師の処方箋がなくても、薬局において薬剤師の判断で処方をすることができる。また、私が住んでいるニューメキシコ州では、オピオイドを処方する医療従事者は、処方した患者に対して、最低でも年に1回はオピオイド中毒に関する患者教育とナロキソンの処方が義務付けられている。

 実際にオピオイドの処方が始まっても、PMP reportは患者の安全のために頻繁に見ることが多く、私は処方する際はほぼ毎回確認しているといっても過言ではない。また、定期的にオピオイドの効果として痛みの具合の改善度や便秘や呼吸困難などのどの副作用の確認も行わねばならない。必要に応じて、OTC薬を用いた便秘の対処方法なども患者教育の一環として行う。

 恐らく、疼痛コントロールに関わっている医療従事者に、これまで診療した患者の中で印象に強く残っている患者の話をしてほしいと聞くと、幾通りもの興味深い話が聞けると思う。私自身、疼痛コントロールに関わるようになってから、患者さんの状態がよくなってよかったと思う経験もあれば、オピオイドによって人生が狂ってしまった患者にも出会った。日本では考えられないかもしれないが、アメリカではかなりの高用量のオピオイドを服用している患者に、hyperalgesiaという状態が引き起こされる場合かある。オピオイドは、高用量を飲み続けることで、余計に痛みの度合いが強くなる症状を引き起こすのである。この症状の解決には、投与量を減らすことしかないが、患者からの抵抗は想像以上に強い場合が多い。患者に根気強くhyperalgesiaのことを説明し、少量ずつ減量していく必要がある。また、尿検査をオーダーした際にありがちなことが、患者が尿検査を拒否したり、思わぬ行動をすることである。例えば、患者がCSの服用なしの家族と一緒にトイレに入り、その後尿を提出したケース、患者が検査カップを自宅に持って帰り、冷たい尿をクリニックに持ってくるケース、また、クリニックで採取した尿に、水道水を入れて尿のサンプルを薄めて提出するなどだ。もちろん、どの例も却下である。尿検査は、必ずクリニックで予告なしに行い、検体の温度は体温に近い温度のものを提出しなければならない。また、尿検査の際には、薬物の種類と濃度の測定だけではなく、薄めた尿の検体かどうかを見極めるために尿中クレアチニンの濃度も自動的に測定されている。

 ここまで読まれた方は、アメリカではオピオイドを含むCSの処方は煩雑だと思われる方が多いと思う。確かに煩雑で、用量・用量の確認や、CSの処方箋を書くのに必要な事項が書かれているかなどの確認を入れると、一人に処方箋を書くまでに、恐らく5分以上はかかっているいると思う。しかし、全ては薬の安全使用のためであり、患者にオピオイド中毒の犠牲にはなってほしくないという強い思いがある。

 

参考文献

Dowell D, Haegerich TM, Chou R. CDC Guideline for Prescribing Opioids for Chronic Pain — United States, 2016. MMWR Recomm Rep 2016;65(No. RR-1):1–49.

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