生涯教育(CE)

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2022/03/11

第191回コラム「ワーキングマザーを取り巻く環境-仕事と育児の両立の難しさの原因と対策-」

渥美 景子

 薬剤師は女性にとって働きやすい職業という人がいる。たしかに、薬剤師は国家資格であり離職しても再就職に有利かもしれない。パートで働くという選択肢もあり、子育て中などプライベートが忙しいときにも柔軟に働ける。しかし、それはある一面を指摘したに過ぎない。薬剤師は日々進歩する医療・薬の知識についていかなければならないなど、大変な面もある。また、女性の多い薬剤師の職場でも、他の職場と同様、「仕事と育児の両立の難しさ」は存在すると感じている。私は最近、育休や共働きの方が集まるコミュニティに所属し、他業種の方々と交流する機会を持った。そこで、仕事と育児の両立の難しさは、私だけではなく多くのワーキングマザー(以下:ワーママ)が感じているということに気づいた。それは個人の状況や職場環境の問題もあるかもしれないが、日本社会全体の問題なのだとようやく認識することができた。ワーママを取り巻く環境、仕事と育児の両立の難しさについて改めて整理してみようと思い、今回取り上げることにした。

  • 女性の労働力、共働き世帯の現状

 女性の労働力はM字型カーブとなっており、子育てで忙しい時期の離職が多いことはよく知られている。以前よりはかなりM字も緩やかになっており、離職数が少なくなってきていると考えられる1

 共働き世帯数は、1997年に専業主婦世帯数を上回った。共働き世帯の増加は著しく、2020年時点では、共働き世帯が1240万世帯と、専業主婦世帯が571万世帯の約2倍である1。▶

 一方、共働き世帯のうち、妻がフルタイム(週35時間以上)が495万世帯に対し、妻がパート(週35時間未満)が682万世帯と、パートの方が多い2。▶

 育児と仕事の両立はできてきているものの、心地よく両立できている人はどれくらいいるのだろう。検索エンジンで「ワーママ」と一緒に検索されたワードを確認すると、「しんどい」「疲れた」「休みたい」「退職」などが出てきてしまう。納得、安心して両立を継続できない原因は何なのか、状況を改善するにはどうしたらよいのかを考えてみた。

  • 育児と仕事の両立が難しい原因5

 両立が難しい原因の主なものとして、ここでは5つ取り上げた。

①長時間労働の社会

 日本の総労働時間は2020年時点で1人あたり1598時間/年と、OECD諸国平均1687時間/年より実は少ない3。これは日本のパートタイム労働者が25.8%でOECD諸国の第4位と多いこと、サービス残業が含まれないことなどが挙げられる。2014年時点では1564歳の男性の1日の平均労働時間は375分とOECD諸国で第1位であり、OECD諸国全体平均259分より約2時間も長い結果であった4。また、Expediaで行われた2018年の調査では、日本人の有給休暇取得率は50%と、19か国最下位であった5。長時間労働の社会となっているのは、以前このコラムでも紹介したメンバーシップ型雇用による生産効率の悪さも要因の一つと考えられ、根深い問題である(第178回コラム 日米における薬剤師の雇用形態の違い)。

 正社員は長時間労働が基本、有給休暇も十分に取れない状況であれば、女性が育児をしながら男性の正社員と同じように働くことは難しく、男性が家庭のための時間を割くことも難しいことは容易に想像できる。育児中の社員が取得できる短時間勤務制度(時短勤務)があるが、各事業主に導入を義務付けられているのは法律上3歳まで、制度があっても取れない雰囲気の職場もある。

 また、男性の育児休業取得率は近年増加しているものの、2019年では民間企業が7.48%、国家公務員が16.4%、地方公務員が8.0%といまだに低い水準である1。このことからも、男性が家庭よりも仕事を優先していることが伺える。

②男性の家事育児時間が少ない

 長時間労働の社会であることにも通じるが、日本は圧倒的に男性の家事育児時間が少ない。2016年における6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連に費やす時間は1日あたり83分、諸外国は約150200分である。その分、女性の家事育児時間は、諸外国は約348373分のところ日本は454分と長くなっている2

③社会の子育て支援が十分でない

 以前より社会の子育て支援は整備されつつあるものの、十分ではない可能性がある。例えば、保育園や学童の待機児童は減少傾向であるも、完全にはなくなっていない。また、子供の体調不良などで取得できる看護休暇の日数は、子供1人あたり年5日間。保育園の0歳児クラスの子供だと年19.3日は保育園を休むという報告6もあり、日数が十分とはいえない可能性がある。看護休暇が有休か無休かは法律で定められておらず、無休の職場が多いのが現状ではないか。女性就業率の高いスウェーデンの看護休暇は年間120日、休暇取得中も給料が80%保証される7ことに驚いた。

④育児自体が大変

 日本はもともと「自分のことは自分で何とかする」「人に迷惑はかけないように」という文化が根付いている。育児に関しても、人に助けを求められないと考えている場合が少なくない。また、子供が騒いだりすると冷たい視線を感じるなど、子供が社会に迷惑をかけないように親が管理しなければならない、という空気があるようにも感じる。また、従来はあった近隣との助け合いも近年は少なくなっており、育児の負担が増している可能性がある。

⑤性別のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が残っている

 日本には性別のアンコンシャスバイアスが根強く残っている。2021年度に行われた性別役割意識に関する調査研究では、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた割合が男女共に高い項目として、「女性には女性らしい感性があるものだ」「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」「女性は感情的になりやすい」「育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきでない」「共働きでも男性は家庭より仕事を優先するべきだ」「家事・育児は女性がするべきだ」「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」が挙げられた8。このうち4つが家事育児、仕事に関する項目である。また、この結果から性別役割意識は異性に対する思い込みのみでなく、男性・女性自身も自分の性別に関して思い込んでいることがわかる。2019年の調査では、性別役割分担意識に反対する人が女性で63.4%、男性で55.7%となっており2、世の中の認識も変わってきている。しかし、実際は男性の家事育児負担時間が少なく女性が多いことなど、実態が伴っていない。

  • 育児・介護休業法の改正とワーママの現状

 法改正は繰り返し行われ、世の中は共働きを支援している。ワーママに関する主な改正点を以下にあげた。

2005年:子の看護休暇の義務化、育休延長16か月まで可

2010年:3歳までの時短勤務義務化

2017年:育児休業期間が最長2年に延長

2021年:子の看護休暇が時間単位で取得可能に

2022年(4月予定):男性の出生時育児休業(男性版の産休)創設、育休の周知、取得の意向確認の義務化

 また、2014年より育児休業給付金の額が最初の180日間50%から67%に増加している。このような法整備などの影響もあってか、共働き世帯は増加し続けている。そんな中、ワーママへの問いは以下のように変化してきている9)

1.妊娠、出産しても仕事を続けるか?

2.どうすれば両立できる?

3.自分らしい働き方は?

2010年頃はまだ1であったといわれるが、この10年間で大きく変化した。近年、ワーママに限らず、世の中全体が自分らしく生きたいと願う時代となってきているのを感じるが、それがワーママにも及んでいるともいえる。

  • 納得、安心して仕事と育児を両立する対策4

法整備などが進んでいるものの、社会が整えられている最中である。待機児童問題など社会が改善しないとどうにもならないこともあるが、自分達でできる対策も多くあると思う。ここでは、私が注目した4つの対策を挙げた。

①時間確保のためにお金を使う、ヘルプを出す

 多くの共働き家庭でまず問題になるのが、日々の時間が足りないことではないか。時短家電を購入する、家事を外注する、ファミサポやベビーシッターなどに送迎や育児を頼む、家族やママ友、近隣の方を頼る、仕事でもヘルプを出す、などして時間を確保すると心身共に余裕が生まれ、両立を継続しやすくなるだろう。

②「~すべき」というマインドセットを手放す

 私たちは「~すべき」にとらわれやすい。育児に関しては、例えば「手作りのご飯を食べさせるべき」「何時までに寝かせるべき」「絵本くらいは読んであげるべき」など。仕事でも「~すべき」は多くの場面であるだろう。時に「~すべき」にとらわれていることすら自覚していないこともある。仕事においては業務に支障が出るくらい手放すと問題になるかもしれないが、「~すべき」を可能な限り手放していくと楽になる。私自身も「~すべき」を認識して手放すように意識したら楽になった経験がある。

③性別のアンコンシャスバイアスを減らす

 女性の働きづらさは、性別のアンコンシャスバイアスが大きな原因となっているように感じる。アンコンシャスバイアスが自分の中に存在していることを男女ともに認識し、減らすことを意識すると世の中が変わるのではないか。20224月からの育児介護休業法の改正で、男性育休取得率が上がり、家事育児への多く関わる男性が増えて、世の中の意識が変わるきっかけになることを期待している。

②一人一人のキャリア形成を大切にする

 キャリアとは仕事のみでなく人生そのもの。どんな人生にしたいか、仕事とプライベートのバランスなども一人一人異なり、同じ個人でも時期によって違うこともある。そもそも自分の望みがわかっていない場合も少なくない。自分の望みを大切にするように意識すれば、納得して過ごせるだろう。また、自分の望みがかなわない時期があったとしても、長い目で見た方がいいかもしれない。キャリアを大切にするには、職場の理解も時に必要である。男性には、女性である同僚や部下のキャリアを応援する視点を持っていただけたら嬉しいと思う。

 

最後に

 この記事を書くために各情報を調べていると、日本は少子化問題解決の一環として、仕事と育児を両立しやすい環境を作ろうと様々な取り組みをしていることが伺えた。今回は薬剤師の記事というよりワーママの一般論として書いてみようと思ったが、薬剤師のワーママに関しても共通する部分が多いと感じた。冒頭でもお伝えしたように、薬剤師は女性にとって働きやすいという人がいるが、単純にそういえるだろうか。薬剤師は女性が多いため、必然的に女性が働きやすい環境が整えられている可能性はあるが、実際の職場環境や人間関係、パートナーや家族の協力度などによるところが大きいような気もする。世の中がよりよい方向に変化し、より多くの人が納得、安心して仕事と育児の両立ができる社会になることを願っている。

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