生涯教育(CE)

« 第182回コラム「英語の勉強方法」 | トップページ | 第184回 「知らざるを知らずと為す是知るなり ~米国からZoomを介して、日本の薬学生との意見交換~」 »

2021/07/31

第183回コラム「Ambulatory Care Pharmacist〜PGY-1レジデンシー経験を通して〜」

横田 麻衣

 2020〜2021年、マサチューセッツ州にある外来診療所にてAmbulatory Care薬剤師レジデントとして一年間の研修を行いました。今回は自身の経験を通して、Ambulatory Care薬剤師がどの様な役割をしているのか、症例を含めて紹介したいと思います。

アメリカの薬剤師レジデンシー制度について興味のある方は、過去のコラムで何度か紹介されているのでそちらもご覧下さい。

  • 第160回コラム: 米国における卒後研修制度とその役割(磯先生)
  • 第77回コラム: PGY-1レジデンシー出願から合格までの過程(廣島先生)
  • 第45回コラム: PGY-2 Critical Care Pharmacy Residency(前田先生)
  • 第36回コラム: レジデンシープログラムの面接(大友先生)

Ambulatory care pharmacist とは

 Ambulatory care clinicとは外来診療所の事であり、Ambulatory care pharmacistは多くの場合、外来診療所で働くclinical pharmacist(臨床薬剤師)のことを指します。医師(かかりつけ医)、看護師など他の医療従事者と共にチームの一員として患者のケアに携わります。

Ambulatory care pharmacistとしてのクリニック業務

 アメリカの薬剤師は薬を処方できると聞いたことがある方も多いと思いますが、薬学部を卒業した薬剤師全員が処方権を所持しているわけではありません。薬剤師の処方権に関しては州によっても異なり、マサチューセッツ州の外来診療所ではCollaborative Drug Therapy Management (CDTM) の元、医師と契約を結んでいる薬剤師に限り、契約書内に示されている疾患に使う薬のみに処方権(薬物を開始、調節、中断できる権利)が与えられます。また、処方権を所持することで医師の真似事をしているようにも思われがちですが、重複する部分(薬を処方する事)はあるものの、その役割はしっかりと区別されています。端的に説明すると、医師は診断をし、薬剤師はその診断に沿って薬物治療を中心に進めていきます。従って、薬剤師が新規の患者に対して診断することはありません。医師から依頼された患者さんを薬剤師が単独で診ますが、場合によっては治療方針を薬剤師の意見のみで変更するのではなく、多職種連携でのコミュニケーションをとった後に決断する事もあります。

 1日に診る患者数や訪問の長さは医療機関により異なります。私の職場では薬剤師1人につき毎日8〜12人の患者を、患者1人につき30〜60分の訪問時間で診ていました。また、訪問内容の例としては、糖尿病、高血圧、高脂血症、抗凝固薬、喘息、禁煙指導、medication reconciliation、アドヒアランスなどが挙げられます。

 以下の例を通して、ambulatory care pharmacistの役割を見ていきましょう。

例:糖尿病の薬物治療マネジメント

64歳男性、初めての薬剤師訪問である。以前、メトホルミン錠1000mg1日2回を空腹時に服用していたが、腹部の不快感を訴えた。6ヶ月前、担当医が現在のメトホルミン投与量に減量、その後腹部不快感は消失したが、それから空腹時血糖値はいつも上昇しており、180mg/dlほどである。食事にばらつきがあり食事を取らないことがあるが薬は毎日服用しており、度々、低血糖症状のふらつきと低血糖値を訴えている。

現在の服用薬:メトホルミン錠500mg 1錠1日2回、グリメピリド錠1mg  1日1回、リシノプリル20mg 1錠1日1回、アトロバスタチン20mg 1錠1日1回、ボルタレンジェル

既往歴:2型糖尿病、腰痛、尿路感染症(去年2回発症)、高血圧

検査値(6ヶ月前):A1c: 9.2%, SCr: 95 ml/min, ALT/AST: WNL (within normal limits)

<訪問の流れ>

初回訪問では薬剤師による訪問が依頼された経緯を説明した後、家での血糖値・食事・運動、糖尿病に対する知識、アドヒアランスなどを含めた患者情報を聞き出します。最後に、薬物選択、血液検査の必要性などをガイドラインと個々の患者の状態を考慮し、患者と共に治療方針を決めます。

<アセスメント>

A1c、空腹時血糖値共に上昇しているが、食事のばらつきによる低血糖も見られる。尿路感染症の既往歴があるため現時点でSGLT-2阻害薬は推奨されない。メトホルミン用量を再度増量するか、GLT-1受容体作動薬を開始するか患者と話し合ったところ、注射剤に抵抗があるとのことでメトホルミン錠の増量をする事となった。腹部不快感を防ぐため、メトホルミンSR錠へ変更・食事と共に服用。

  • メトホルミンSR錠500mg 2錠を朝食と共に、1錠を夕食と共に服用;1週間後に電話にてアドヒアランスを確認し、副作用がなければ2錠1日2回へ増量
  • 低血糖を防ぐため、グリメピリドを中止
  • A1c検査をオーダー;来週の医師による診察前までに検査するよう伝えた
  • 次回訪問:4週間後

<訪問後>

訪問ごとに電子カルテ上にノートを記載し、医師に転送します。医師に伝えるべき内容のある場合、医師が訪問ノートを全て読まなくても即座に意思決定ができるように、短くまとめたメッセージも送信します。血液検査をオーダーした場合は患者が確かに検査しに行ったかなど、その他のフォローもチームの一員としての役割です。

最後に

 薬剤師として薬学的介入・非薬学的介入を通してどのようにチームケアに貢献できるかが大切であると学び、この過程は処方権がなくても行えることであると感じました。外来での臨床薬剤師であるambulatory care pharmacistはまだ日本では聞きなれない領域ですが、現在の日本でも疑義照会や地域連携を通して活躍している薬局薬剤師の方々も多数見受けられます。また、レジデンシーでの経験を通して、薬剤師として必要な技能は薬学的知識だけではなくチームの一員として共に働きたいと思われるような人間であるかも重要な要素であると痛感しました。このような学びの場を提供していただいたGreater Lawrence Family Health Center PGY-1レジデンシープログラムに関わる全ての方々に感謝いたします。

« 第182回コラム「英語の勉強方法」 | トップページ | 第184回 「知らざるを知らずと為す是知るなり ~米国からZoomを介して、日本の薬学生との意見交換~」 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 第182回コラム「英語の勉強方法」 | トップページ | 第184回 「知らざるを知らずと為す是知るなり ~米国からZoomを介して、日本の薬学生との意見交換~」 »

2022年9月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  

薬学関連のサイト

最近のトラックバック

無料ブログはココログ