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2021/04/18

第180回コラム「薬剤師のメンタルヘルスマネジメント」

渥美 景子

 薬剤師は、国民の健康を守るという役割が期待されていますが、その役割を果たすため、まず自身の健康を保つことが大切です。また、薬剤師に限らずどの職業にも言えることかもしれませんが、仕事を長く続けていくために、身体の健康はもちろん、精神の健康を保つことが重要であると感じます。メンタルヘルスマネジメントは国としても重要と考えられ、労働者の心の健康の保持増進のための指針や自殺対策基本法の策定、ストレスチェックの義務化などの様々な対策が行われています。今回は、日々仕事で頑張っている皆様の精神の健康を保つヒントになればと、メンタルヘルスマネジメントについて取り上げたいと思います。

・ストレスとは

日々の生活においてストレスがゼロの状態はないと思いますが、過剰のストレスはメンタルヘルスに悪影響を及ぼします。放っておくと疾患の発症につながるため、早期発見、対処が重要と考えます。

心理的あるいは身体的負担となるような出来事や要請をストレッサー、それに対する反応をストレス反応と言います。このストレッサーとストレス反応を総称してストレスと呼びます。

ストレッサーとしては主に以下3つが挙げられます。

・物理的・化学的ストレッサー:暑さ、寒さ、騒音、高温など

・生物的・生理的ストレッサー:感染、炎症、睡眠不足、肉体的・精神的疲労など

・心理的・社会的ストレッサー:対人関係、仕事の大変さ、不安、緊張、怒りなど

ストレス反応としては主に以下3つが挙げられます。

・身体的反応: 頭痛、微熱、動悸、胃痛、下痢、便秘、めまい、息切れなど

・心理的反応:自信喪失、不安、イライラ、怒りやすい、楽しくないなど

・行動的反応:過食、飲酒量や喫煙量が増える、浪費、事故、ミスが増えるなど

・職業性ストレスモデル

職業性ストレスモデルはいくつか種類がありますが、米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が提唱したものが包括的なモデルとして有名です(図1参照)。ストレス反応は職場のストレス要因だけでなく、仕事外の要因、個人要因、緩衝要因によって変化することが示されています。

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・薬剤師の職業性ストレス

 薬剤師の職業性ストレスの研究は数少ないのですが学会報告や論文投稿されており、論文は2報見つかりました。いずれもアンケート調査で、314人の病院薬剤師を対象とした研究2と、116人の保険薬局薬剤師を対象とした研究3です。

それらの研究によると、仕事でストレスを感じている病院薬剤師の割合は、男性 83.3%,女性85.4%でした。一方、保険薬局薬剤師においても男性81.3%、女性84.5%と同様の割合でした。厚生労働省の調査4では、仕事や職業生活に関して強い不安や悩み、ストレスがあるとする労働者の割合は58%であることから、ストレスを感じている薬剤師の割合は一般よりかなり高率であることが分かりました。

 ストレスを自覚している人は多いものの、仕事のストレス判定図から読み取った病院薬剤師の「総合した健康リスク」は、標準集団の100に対して、男性が102.3、女性が 97.4であり、標準に比べ特段高いわけではないことが示されています。この研究によると、病院薬剤師が感じるストレスの強さで上位5位内に入った項目は、男女共に「調剤ミス、医療過誤の不安」「調剤過誤による重大な事態を招く薬剤の調剤(抗がん剤など)」「仕事の責任が重い」「医師への気配り」「自分の知識・技術・経験不足による不安がある」でした。また、「心理的な仕事量による負担」「心理的な仕事の質による負担」「自覚的な身体負担度」「職場の対人関係でのストレス」が標準集団と比較し大きいことが示されました。さらに、ストレス緩和要因として、「上司からのサポート」「同僚からのサポート」が標準集団より良いという結果でした。一方、保険薬局薬剤師を対象とした研究では、ストレスを感じる人の割合が高い項目に「仕事の責任が重い」「調剤過誤により重大な事態を招く薬剤の調剤」「患者からのクレーム対応」「備蓄していない薬剤の処方箋対応」「自分の知識・技術・経験不足による不安がある」「調剤ミス、医療過誤の不安」「医師からの指示内容の矛盾」「医師への気配り」などが挙げられました。  

・ライフイベントのストレス

 ライフイベントのストレス指数の有名なものに、1968年にアメリカの精神科医Thomas HolmesRichard Raheによって発表された社会的再適応評価尺度5)6があります(表1参照)。376人のアメリカ人を対象として、個人が感じるストレスのうち結婚を50としたときに、他のライフイベントを0100までのストレス値で表したものです。ライフイベントの回数×ストレス値が300点以上になると、79%の人に疾患の発症がみられるとしています。この尺度を見ると、ストレス値が高いのは仕事以外のイベントが多いことがわかります。

・メンタルヘルスマネジメントの方法

 メンタルヘルスマネジメントの方法として、まずはストレス状態に気づくことが第一だと思います。気分が沈むなどの心理面に出る人や、食欲不振、腰痛など身体面に出る人、人それぞれストレス反応は異なり、他の人が気づくのが難しいことも多く、自分自身で気が付くことが重要だと思います。その人の経験や性格などからストレス反応も変わり一概には言えませんが、Holmesの社会的再適応評価尺度もストレス状態に気づく目安になるかもしれません。また、ストレスを自身で気付くのが難しい場合もあり、周囲の人が気にかけることもその人のストレスの気づきの助けになることもあるでしょう。

ストレス状態に気づいた後の具体的な対処方法は、自分にあったものを見つけるのが望ましいです。NIOSHが示した職業性ストレスモデルからも、取り除けるストレスは取り除くこと、緩衝要因を増やすことが有効です。ストレスを完全にゼロにすることは不可能だと思いますが、健康に悪影響となるような状況は早急に改善する必要があります。以下は私が考える方法です。

 まず、睡眠や休養を十分にとること、適度な運動、食事をすることです。また、ストレス発散や気分転換できる好きなことや趣味を見つけておくのも大切だと思います。職場においては、上司・同僚のソーシャルサポートが緩衝要因となるので、同僚の困りごとなどにはお互い様で助け合いの精神が、職場のストレスを減らしてくれることを頭の片隅に置いておくとよいかもしれません。

 薬剤師の職業性ストレスの研究からも分かるように、職場におけるストレスは、仕事内容や勤務環境など仕事そのものに起因することも多いです。そのため、自身でコントロールすることに限界がある場面も多く、上司に相談し対処できる場合もあると考えられます。厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」には、セルフケアとともにラインケア(管理者によるケア)についても記載されており、管理者も日ごろから部下のストレスについて気にかける必要があります。また、ストレス反応が出てからの対処のみでなく、ストレスのかかりにくい環境を整えるなど、組織としての管理も重要です。

 忙しいと自身のケアがおろそかになりがちですが、薬剤師として国民の健康を守る役割を全うできるように、また長く働き続けられるように、時々振り返って自身のメンタルの状態を評価し、意識的にケアしてみてはいかがでしょうか。 

参考文献)

  • 東京都労働相談情報センターホームページ 20213月アクセスhttps://www.kenkou-hataraku.metro.tokyo.lg.jp/mental/about/material/niosh.html
  • 井奈波良一・日置敦巳・近藤剛弘(2014)病院薬剤師の職業性ストレス.日本職業・災害医学会会誌,62(5):322
  • 中嶋正憲・西口工司・三木純平(2008)保険薬剤師の職業性ストレスの現状について.日本薬剤師会雑誌,60(4):483488
  • 平成30年「労働安全衛生特別調査(労働者健康状況調査)」の概況
  • Holmes TH and Rahe RH.(1967) The Social Readjustment rating scale. Journa1 of Psychosomatic Research,11,213-218
  • 夏目誠・村田弘(1993)ライフイベント法とストレス度測定,大阪府立公衆衛生研究所報,42(3), 402-412

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