生涯教育(CE)

« 第178回コラム「日米における薬剤師の雇用形態の違い」 | トップページ | 第180回コラム「薬剤師のメンタルヘルスマネジメント」 »

2021/03/27

第179回コラム「お勧めの薬物治療の教科書」

上塚 朋子

 新型コロナウイルスによる新しい生活様式の実践により、薬学生も薬剤師の皆さんもオンラインの講義や講演が増えたりと、自宅で一人で学ぶ時間が増えた方が多いのではないでしょうか?こんなご時世なので、教科書をじっくり読むのもよいかと思い、今回は米国の薬学部で長い間使われている薬物治療の教科書をご紹介します。

 “Pharmacotherapy -A Pathophysiologic Approach, 11th edition. Josheph T. Dipiro, et al. McGrawHill.”

 大きさは22x28x8cm, 重さ 5.2kg、総ページ数2635ページと気軽に持ち運ぶことが困難なサイズなのが難点ですが、Kindle版も発売されています。内容は、心・血管系から始まる器官系統別に主な疾患を取り上げた17のセクションにFoundation issue, Common Health Problems, Special Populationsの3セクションを加えた、20のセクションで構成されています。掲載されている病態・疾患は161にわたり、さすがに2635ページのページ数でもまかないきれず、そのうち45章は教科書には最初のページのみで、続きはオンラインで閲覧するような仕組みとなっています。

 私がテネシー大学薬学部在学中の2002年に第5版が出版されたのですが、その1つ前の第4版は今の本より縦横5cm位小さく、厚みも8割程度だったのを覚えています。第5版は第4版よりも大きくなり、クラスメイトとともに驚いていましたが、今思えば、取り上げる疾患数も今と比べ少なく、一部をオンラインで閲覧することもありませんでしたので、内容を充実させてきた過程が伺えます。

 “Acute Management of the Brain Injury Patient”の章を執筆したDr. Bradly Boucherには大学の講義や臨床実習の指導者としてお世話になりました。先生が、”Pharmacotherapyの教科書に頭部外傷の章がないと言ったら、自分が書くことになったんだよ。“と話してくださった、ゼロからの執筆の大変さはとても興味深い話でした。この章は全体で15ページの内容に99の文献が引用されています。更に、ほぼ3年ごとに改訂されているので、その作業が大変なのは想像に難くありません。読む側から見れば、充実した内容が期待できるということです。

 各章の内容は、疫学、病因と病態生理、臨床所見のあとに、治療(非薬物治療・薬物治療)と続きます。特徴は、治療の項に割く割合の大きさでしょう。ガイドラインの概要に加え、それぞれの薬剤の作用機序から始まり、臨床試験の結果、副作用やモニタリング項目、場合によっては治験中の薬剤についても詳しく書かれています。

 日本語で書かれた教科書やガイドラインが存在する中で、あえて英語の教科書を読む価値があるのかと尋ねられることもありますが、やはりこの治療の項を読むと、こんなにコンパクトに情報がまとめられたものを他に見ることは稀なので、一読の価値はあるとお勧めしたいです。ここまでの内容は、私が最初に手にした第5版から大きく変わることはないのですが、第11版で新しく導入された、preclass engaged learning activityとpostclass engaged learning activityがよく考えられているのでご紹介します。

 Preclass engaged learning activityとは章の冒頭に書かれている課題です。例えば、高尿酸血症・痛風の章では、使用される薬剤の特徴が分かるような一覧表の作成が課題となっています。発作時・再発予防・予防の場面別に、患者の背景によって使用制限がある等の違いが分かるように作るよう指示があります。また、安定狭心症の章の課題は冠動脈疾患の病態生理や心筋の酸素需要などを解説した動画サイトを視聴することとなっています。ただ書かれている教科書の文章を読むだけでなく、自分でまとめることで要点も頭に残りやすくなりますし、動画で伝えられるイメージは理解を助けてくれるので、学習者の理解を増強させるのに役立つ課題だと思います。

 もう一つのpostclass engaged learning activityは章末の課題です。多くは文献検索をして、要約せよというタイプです。同じく高尿酸血症・痛風の章では、「過去12ヶ月に発表された高尿酸血症・痛風の治療・予防の薬剤に関する文献を検索し、試験の方法、主な結果をまとめ、それらが現在の治療指針を今後どのように変えるかについて述べなさい。」という課題です。教科書の欠点の一つである、最新の情報が反映できないことを補う、よい課題だと思います。しかも、文献の批判的吟味のスキルを実践で試すことができます。

 薬学部5年の実務実習生にはレベルが少し高いかなと感じますが、レジデント薬剤師などには是非とも挑戦していただきたい課題です。是非、手に取ってみてください。

« 第178回コラム「日米における薬剤師の雇用形態の違い」 | トップページ | 第180回コラム「薬剤師のメンタルヘルスマネジメント」 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 第178回コラム「日米における薬剤師の雇用形態の違い」 | トップページ | 第180回コラム「薬剤師のメンタルヘルスマネジメント」 »

2022年11月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      

薬学関連のサイト

最近のトラックバック

無料ブログはココログ