生涯教育(CE)

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2021/02/28

第178回コラム「日米における薬剤師の雇用形態の違い」

岩澤 真紀子, Pharm.D.,BCPS

 欧米からアイディアを得た仕組みが、日本で上手く機能していない例は少なくない。この要因は様々あるが、「欧米ではなぜその仕組みができたのか?」という背景を考える視点や情報の欠如、雇用制度の違い等の文化を理解していないことが大きいと感じる。今回は、コロナ禍を機に日本で起こっている働き方の変化、米国薬剤師の多様な働き方、日米の薬剤師の雇用形態の違いについて紹介する。

 新型コロナウイルス感染症が流行する中、生活様式の変化に加え、働き方にも変化が迫られた。働き方の多様化、グローバル化、生産性向上意識の高まりと共に、これを機に改革を推進する組織も増えている。新型コロナウイルス感染症の収束をただ待っている組織と、これを機に前に進む組織とで、将来大きな差が出てくることは予想するにたやすい。中でも、急速に普及したテレワーク、リモート会議、遠隔診療、オンライン服薬指導などは、今後の働き方や医療サービスの方向性に大きな影響を与えると思われる。

 米国では、私がPharm.D.課程を卒業した15年前でさえ、薬剤師が多様な働き方をしていた。例えば、薬剤師は副業が可能であり、私の同僚の何人かは病院で正職員として働きながら薬局にも勤務し、経験・スキルを培うことが収入アップにもつながっていた。私の友人はメールオーダー薬局に勤務し、在宅で薬剤師業務(処方箋監査)をしながら子育てをしていた。家庭の事情で数週間通勤できなくなった薬剤師は、抗凝固薬薬剤師外来の業務(電話で患者インタビューをして服薬状況や薬剤師外来予約の確認等を行う)を在宅で行っていた。私が勤務していた病院では、電子カルテに家からアクセスすることが可能であり、家からも担当患者の臨床検査値や薬剤変更をフォローアップすることが可能であった。今回、Pharm.D.クラブの特別シリーズとして、COVID-19下における米国薬剤師の状況について情報提供をしていただいたが、病院のチーム回診をZoomで行ったとの紹介もあった。今回の経験で、どの薬剤師業務が在宅で可能なのか、業務効率の見直しにつながったとの声もある。米国では、近年バーチャル薬局サービスも広がっている。今回、日本でも遠隔診療やオンライン服薬指導が試されたことで、「新しい働き方」や「新しい医療サービス」を考える動きが加速することが予想される。

 一方、レノボが行った国際調査によると([プレスリリース]Withコロナ時代、在宅勤務の拡大にテクノロジーが貢献 |レノボ・ジャパン合同会社のプレスリリース (prtimes.jp))、在宅勤務での生産性がオフィス勤務より下がると答えた全回答者の平均が13%であったのに対し、日本は40%となっており、IT機器やソフトウェアへの投資も調査国10か国中日本は最下位であった。この理由として、欧米では「ジョブ型」雇用が一般的なのに対し、日本は「メンバーシップ型」雇用を採用していることがあげられる。「ジョブ型」は在宅業務に対応しやすいが、「メンバーシップ型」では一人が幅広く仕事をしているため、コミュニケーションが取れないと効率が下がる場合も多い。コロナ禍を機に、日本においても「ジョブ型」への関心が高まっている。

 欧米では薬剤師の雇用も「ジョブ型」である。私自身、日本と米国の複数の病院での勤務経験があるが、一度「ジョブ型」で働いてしまうと、「メンバーシップ型」は生産効率が悪く、働き方も個人のスキルも考え方も「常識がかみ合わない」というのが正直なところである。それぐらいに違う。「米国ではなぜレジデント制度が盛んなのか」、「なぜ日本では専門資格を得ても専門性のある仕事やインセンティブに繋がらないのか」、「なぜ米国薬剤師の給与は新卒でも高いのか」等、よく質問されるが、雇用制度の違いが大きい。米国では新卒薬剤師の一括採用がない。教育が必要な薬剤師は雇用されないため、新卒薬剤師は「レジデンシー」に進みスキルを養うのである。「ジョブ型」では仕事に対して人を割り当てるため、専門薬剤師資格やレジデンシーで専門スキルを持っていれば、専門薬剤師の公募があった際に応募すればよい。一方、日本はメンバーシップ型雇用のため、専門資格を活かせるかは職場都合である。いつ他の部署に異動するかは職場都合のため、インセンティブにもつながりづらい。さらに給与に関しては、米国は契約時に交渉する。勤務年数が給与に反映されないため、自分のスキルや経験を磨けばより良い条件を求めて転職がしやすい。その一方で、契約雇用のため、職務を遂行するスキルが不足していれば試用期間中に解雇される薬剤師も少なくない。このように、米国と日本では雇用形態が異なるため、米国における薬剤師教育の仕組みや仕事を日本に取り入れる際は注意が必要である。

 今後ますます少子化が進み人材確保が難しくなっていくことが予想される中、日本の雇用形態はこれまでの慣習から脱却する時を迎えている。薬剤師についても、現在のような流動性や多様性のない働き方では、どれだけの薬剤師が国の推奨する70歳まで働き続けることができるのかは疑わしい。加えて、このまま薬剤師が量産されれば、働きたくても雇用が飽和する恐れさえある。働き方の柔軟性の推進、既存の組織文化や価値観の意識改革を促すとともに、個人も変化に対応できる能力開発をしていくことが重要になると思われる。

日米の薬剤師雇用の比較

 

米国

日本

雇用形式

ジョブ型

メンバーシップ型

職務

仕事に対して人を割り当てる。

職務が限定される。

人に対して仕事を割り当てる。

職務が限定されない。

採用

中途入社型。ポストに空席ができた場合に公募採用。

新卒一括採用型。

教育

採用後すぐに実務。即戦力が求められる。教育はJob-Off(能力開発は個人の責任)。

ジョブローテーション、OJTで時間をかけて教育する。ジェネラリスト養成に向いている。

スキル

職務に求められる専門性(専門薬剤師資格、レジデンシー、MBA等)。

幅広い知識。

給与

契約時に交渉。勤務年数によって大きく変わらない。給与は高いがボーナスや退職金はない所が多い。有給休暇は、休暇取得しない場合はその分の給与を受け取れる。

年功序列。ボーナス・退職金あり。

 

試用期間

あり。契約違反や職務遂行に十分なスキルがなければ解雇。

なし。

 

労働契約・ジョブディスクリプション

ジョブディスクリプションで定義された範囲の仕事を行う。

終身雇用(前提)。ジョブディスクリプションがないため、仕事の範囲が曖昧で雇用側の都合による異動がある。

定年

なし

60歳(65歳)

メリット

(雇用側)

・条件交渉をしてから契約するため採用後のミスマッチが少ない

・業務効率が高い。

・専門性の高い薬剤師の確保。

・人材確保がしやすい。

・雇用側の都合で異動させて幅広い職務を遂行させる。

 

デメリット

(雇用側)

・転職リスクが高い。

・規定外の職務を依頼できない。

・異動させることができない。

・生産性が低い。

・在宅業務等、柔軟な働き方が難しい。

 

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