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2019/07/22

第158回コラム「授乳と薬について」

渥美 景子 

  以前、新生児科部長の医師より、「お薬投与中に授乳可能かどうか、薬剤師さんが網羅的に情報を調べて教えてくれないか。」と言われた。その話が来た時に、誰が受けても同じように答えられるように、情報を改めて整理した。授乳婦への投薬に関する問い合わせはよくあることから、授乳と薬に関する基礎知識や問い合わせを受けた時に参考となる情報を今回まとめてみた。

1.母乳育児の重要性

  母乳育児のメリットとして、母乳に免疫学的感染防御作用や認知機能が高くなるなどの神経学的効果がある、母乳の成分が乳児に最適で代謝負担が少ない、母体の回復を早める、母子相互関係の良好な形成に役立つ、衛生的・経済的で手間もかからない、乳幼児突然死症候群の発症リスクが低下するなど様々なものがあり、母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養とされる。厚生労働省に加え、WHO、ユニセフ、米国小児科学会など様々な機関が母乳育児を推進しており、薬の投与により授乳ができない事態は可能な限り避けなければならないと考える。

2.授乳婦に対する薬物治療の原則

  アメリカ小児科学会が2001年9月に出した方針声明には以下のように書かれている1

授乳中の女性に薬を処方する前に、以下を考慮すべきである

  • その薬剤は本当に必要か?必要なら、母親の主治医と小児科医が相談してどの薬剤を

使用するかを決めることが有用である

  • できるだけ安全な薬剤を用いるべきである
  • 児に対するリスクの可能性がある薬剤なら、児の血中濃度を測定することを考慮する
  • 母親に授乳直後に薬剤を服用(または注射)してもらうか、児がまとまって眠る時間

の直前に内服(または注射)してもらうことによって、児への薬剤の影響は最小限にできる

児の血中濃度については測定されている論文は少ないようだが、リスクの可能性を予測するのに目安となる場合もあるようだ。また、薬の投与が短期間で済むのなら、授乳の一時中断も考慮できる。

3.授乳中の投薬について問い合わせが来た時の確認項目2

  以下の項目は判断するのに有用な情報であるため、可能な限り情報を集める。

  • 患者は薬品をすでに服用しているか。妊娠中から服用していたか。
  • 薬品の適応、投与量、用法、用量、施用期間
  • 患者母子の年齢、低体重、未熟児
  • 乳児の健康状態
  • 薬剤を中止することによる影響
  • すでに他の治療は考慮したか

4.授乳婦の投薬に関する医薬品情報源

  授乳婦への投薬に関して、様々な書籍や参考資料があるが、私が参考にしている主なものは以下の通りである。必ず複数の資料を参照してから返答している。

  • 添付文書
  • 授乳婦への投与の記載は、動物実験の結果に基づき書かれていることが多い。そのため、添付文書への授乳婦に関する記載事項を確認することは必要と考えられるが、添付文書のみでは情報が不十分と考えられる。
  • Medications and Mother milk
  • 授乳婦への投与時のリスクがL1~5で示されている。
  • Lact Med https://toxnet.nlm.nih.gov/newtoxnet/lactmed.htm
  • アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)が運営している、授乳中の薬剤服用と児に対する影響に関する無料のデータベース。エビデンスに基づく情報が文章でまとめられている。また、授乳婦への投与を避けたほうが良い時の代替薬も記載されている。
  • 母乳とくすりハンドブック2017 改訂第3版 大分県薬剤師会
  • 添付文書、Mother milk、Briggs、Lactmedの情報がまとまって載っている。そこから授乳可否をどう判断したかが記載されている。日本にしかない薬の情報も載っていることがある。
  • Drugs in Pregnancy and Lactation 11th edition(Briggs)
  • Micromedex
  • 薬物治療コンサルテーション 妊娠と授乳 第2版(南山堂)
  • 向精神薬と妊娠・授乳(南山堂)
  • Drugs During Pregnancy and Lactation: Treatment Options and Risk Assessment(Schaefer)

  もし情報がどれからも得られなければ、RID(相対的乳児薬物摂取量)を目安に考える。RID<10%であれば安全とされる34

  • RID=乳児薬物摂取量(mg/kg/day)/母親の薬物摂取量(mg/kg/day)

  RIDも不明であれば、以下のパラメータから薬の母乳への移行のしやすさを考え、判断の目安にする34

  • M/P(母乳/血漿薬物濃度比):比率が低いほうが、移行が少ない(<1:少ない、1~5:多い)

  ただしもともとの母体血中濃度が低ければ、M/P比が高くても実際の薬剤の絶対的移行量は少ないため、臨床上問題は少ないとされる。

  • MW(分子量): 分子量が低い(<200)ほど移行しやすい
  • PB(蛋白結合率):蛋白結合率が高い(>90%)ほど移行しにくい
  • Tmax:ピークに達する時間は授乳を避ける
  • T1/2 :半減期が短い(1~3時間)ほうが移行しにくい
  • Oral(経口バイオアベイラビリティ):低い方が乳児の薬剤接触が減る
  • pKa(酸解離定数):大きいと(pKa>7.2)移行しやすい

 医師の中には授乳に慎重な人もいる。過去に、複数の情報源より投薬しながらの授乳は可能であろうと判断して医師に情報提供したものの、患者に説明されることなく「念のため母乳はやめてもらう」指示のままになってしまったことがあった。薬剤師としては、可能な限り不要な授乳の中断がされないよう、授乳することのメリットや、今ある薬のデータを伝えて医師の理解を促していくよりほかはない。今後も適切な情報検索を行い授乳に関する情報をアップデートし、エビデンスに基づく情報提供を行っていきたい。

参考資料

  1. American Academy of Pediatrics. Committee on Drugs: The Transfer of Drugs and Other Chemicals into Human Milk, Pediatrics, 2001, 108, 776-789
  2. 聖マリアンナ医科大学病院薬剤部 医薬品情報提供のための基礎情報収集
  3. 母乳とくすりハンドブック改訂第3版2017 大分県地域保健協議会大分県「母乳と薬剤」研究会 編
  4. 「妊娠・授乳と薬」対応基本手引き(改訂2版) 2012年12月改訂 愛知県薬剤師会 妊婦・授乳婦医薬品適正使用推進研究班 発行

 

 

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