生涯教育(CE)

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2018/06/30

第145回コラム「イギリスのクリニカルガバナンス」

宮道 二葉

イギリスの医療を学んだ時に心に残った言葉が二つある。一つはClinical Pharmacistとは何かとの問いに対し「Responsibility and Accountability(責任と説明義務)」と回答された時。もう一つは、NHS(国営の医療サービス)、NICEガイドラインを通じて「Clinical governance(クリニカルガバナンス)」という言葉が度々登場した時である。留学当時は、公的ガイドラインであるNICEガイドラインの存在に純粋に感動し、イギリスの医療を学ぶ中でクリニカルガバナンスという言葉がとてもしっくり自分の中に溶け込んでいったのを覚えている。後に調べてみると、クリニカルガバナンスという概念がイギリスの医療に特徴的であることを知ったため、今回はクリニカルガバナンスについて紹介する。

 クリニカルガバナンス=臨床統治とは、1997年にブレア首相が掲げた医療改革の概念で、「医療の質や安全性を担保しながら医療費抑制を実現すること」を目標としている。背景としては、サッチャー政権時代の医療費抑制政策によりNHSの歳出は削減されたが、待機者リストの問題、モラル低下、エビデンスのない地域ごとに異なる治療など、様々な問題が国民を苦しめていた。これらが招いた医療事故の代表として、ブリストル王立小児病院での心臓外科手術による死亡率が異常に高いことが公にされ、管理責任が問われた事例がある。こうした問題を受けて、NHS改革の報告書1)(2の中でクリニカルガバナンスは下記の通り定義づけられている。

`Clinical governance is a system through which NHS organisations are accountable for continuously improving the quality of their services and safeguarding high standards of care by creating an environment in which excellence in clinical care will flourish1.(クリニカルガバナンスとは、NHSの絶え間ないサービの質向上を担保し、優れた臨床ケアを生み出す環境づくりを通じて高水準な医療を守るための仕組みを構築することである。)

主な要素としては、

・科学的根拠に基づく医療、臨床ガイドライン

・教育、トレーニング

・臨床監査

・研究開発

・情報管理、公然性

・リスク管理

・リーダーシップ、チーム医療

などが挙げられ、個々にシステムが築かれている。例えば、ガイドラインに関してはNational Institute for Health and Clinical Excellence (NICE)3が請け負い、ガイドラインを作成している。そして、NICEガイドラインを元に費用対効果も考慮したBritish National Formularyが医師会・薬剤師会共同で作られている。私が実習していたSt.Thomas病院では、調剤に関してもエビデンスに基づき効率化を図っていた。イギリスの調剤は日本と異なり箱渡しであるが、28錠の処方では、一番近い30錠箱にラベルを貼り投薬するとのことだった。これは人件費や調剤過誤の観点から導かれた方法なのだと言う。

日本においても日本薬剤師会から薬剤師行動規範が提示され、新たに「薬剤師は、利用可能な医療資源に限りがあることや公正性の原則を常に考慮し、個人及び社会に最良の医療を提供する。4」が追加されており、有限資源の中で国民皆保険制度を持続可能とするために我々がクリニカルガバナンスを学ぶことは重要と考える。

(1) Scally,G. & Donaldson,L.J.(1998). Clinical governance and the drive for quality improvement in the new NHS in England. BMJ,61-65.

(2) A first class service: Quality in the new NHS http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20070305120455/http://www.dh.gov.uk/PublicationsAndStatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/PublicationsPolicyAndGuidanceArticle/fs/en?CONTENT_ID=4006902&chk=j2Tt7C(accessed on May 1, 2018)

(3) National Institute for Clinical Excellence (NICE)https://www.nice.org.uk/guidance (accessed on May 1, 2018)

(4)日本薬剤師会薬剤師行動規範・同解説: http://www.nichiyaku.or.jp/action/pr/2018/01/20180124pressreleasev2.pdf (accessed on May 1, 2018)

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