生涯教育(CE)

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2018/05/28

第144回「医療ICTについて~日本と諸外国の状況」

                     錦織 淳美

外来で患者さんの薬歴を確認する際、日々思うことがある。日本では「かかりつけ診療所・医院」が患者の身近に存在するが、欧米のホームドクター制度(ファミリードクターとも言われる、1家庭に1人の専属ドクターが、日常的に診察を行い、重篤化すれば専門病院や大病院への紹介もホームドクターを通して行うシステム)とは異なり、現状の医療制度では患者は自由に複数の医療機関を受診できる。そして、それぞれの医療機関には必ずと言ってよいほど、門前薬局が存在する。その結果、患者が複数の医療機関にかかれば、自動的に複数の薬局にもかかるという流れができてしまっている。そこで重要になるのが、患者自身の薬の管理能力である。それを助けるツールとして、お薬手帳や電子手帳が現在普及しており、その活用を促すために、診療報酬の保険点数がつくようになっている。しかし問題は、その手帳が十分機能しているかどうかである。

岡山大学病院の一部の患者さんを対象にお薬手帳について調査したところ、お薬手帳が交付されている患者は8割にのぼるが、実際に病院受診時などに持参している割合は5割にとどまる。残念ながら、患者自身がお薬手帳を持参(=管理)できなければ、病院・薬局ともに十分な薬歴管理ができない状況が発生している。それを打開すべく策として、各地域で医療情報連携の整備が始まっている。岡山でも、「晴れやかネット」とよばれる医療情報共有システムが数年前から活用されており、各医療スタッフが転院および紹介時に診療録や処方歴・看護記録・各種検査結果を情報共有しつつある。しかし、すべての医療機関がシステムを導入できていない現状もある。

昨今、高齢化が急速にすすむ中、「かかりつけ薬局・薬剤師制度」の活用・普及は、欠かせない方策の一つであると考える。かかりつけ医と同等に、患者の薬物療法に責任がもてるかかりつけ薬剤師の存在は、今後ますます重要になってくると思う。

一方、海外の状況をみると、エストニアや北欧の医療データ管理システムは2010年前後より急速に普及している1)。エストニアのeHealth国民の蓄積された医療情報を医療ビッグデータとし、新しい医薬品開発や医療サービスのため、リアルタイムに活用する医療分野の情報電子化システム)では、ICチップ搭載型のIDカードを所持するだけで患者および医療従事者の中で医療データが共有・参照できる仕組みになっている2)。また、ニュージーランド地域医療情報ネットワークでは、TONIQ(病歴・薬歴などを管理するソフトウエア)が整備されており、薬局に設置されているコンピューター端末への患者ID入力により、患者の病歴・処方歴・アレルギー歴やかかりつけ医療機関などがすべて管理・閲覧可能となっている。上記のようなITを活用した医療情報の共有により、より正確な病歴や薬歴管理が可能となり、適切な医療の提供および医療費の削減などが実行されている国々も存在している。

そのような状況のもと、ついに日本においても、診療録や検査データなどの個人の医療情報を集めて企業や研究機関に提供する新制度、医療ビックデータ化が始まろうとしている3)。医療ビッグデータの活用により、薬の副作用の発見や新薬の開発、病気の早期診断に役立つことが期待されている。この医療ビックデータを活用し、国民共通番号(マイナンバー)とからめて日本全国の末端の医療従事者にまで各患者の正確な病歴や薬歴が閲覧可能なネットワークが今後開設されることを期待したい。

 

参考資料:

1) Nøhr C, Parv L, Kink P, et al.  Nationwide citizen access to their health data: analyzing and comparing experiences in Denmark, Estonia and Australia. BMC Health Serv Res. 2017 Aug 7; 17(1):534

2) エストニア・北欧のICTについて

http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1802/16/news027.html

3)朝日新聞(2018422日)

https://www.asahi.com/articles/ASL4P7S7BL4PUBQU00R.html

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