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2018/02/28

第141回コラム「米国のフォーミュラリーについて」

上田 彩

わが国の国民皆保険制度を維持するために、医薬品使用において有用性・安全性および経済性も考慮した選択をすることが必要とされている。10月に行われた内閣経済財政諮問会議においても、有効性と経済性を考慮した医薬品使用基準であるフォーミュラリーを作成した成功例として聖マリアンナ医科大学病院が取り上げられ、他の病院等へ横展開していくことが重要であるという議論がされている1)。現在の医療制度において、DPC病院がフォーミュラリーを導入する経済的なインセンティブは大きく、入院期間のみ病院の採用薬を使用する点については病棟薬剤師が患者持参薬から入院薬へ切替等を適切に行うMedication reconciliationが定着しており、患者からの理解も得やすい状況がある。昨年度の病院薬剤部門の現状調査の報告によると、院内フォーミュラリーを作成している施設は、全体の8%318施設のみであった2)。そのうち、フォーミュラリーで使用する医薬品の順序などの使用方針が決められているのは約半数で166施設であった。フォーミュラリーを作成している施設の94.3%は薬剤部門が主導的に作成していると回答した。昨年11月の医療薬学会年会においても、フォーミュラリーの取り組みについて発表が数件あり、フォーミュラリーの概念は、日本においても浸透しつつあるのでないかと考える3)4)

今後、フォーミュラリー作成を展開する上で薬剤師が大きな役割を果たせなければならない。欧米では経済性を重視したフォーミュラリーが一般的に行われている。英国では、国営医療サービスにおける財源の有効活用のため経済性が重要視されることは、以前にコラムでも紹介した。今回は、米国におけるフォーミュラリーの現状について報告したい。

米国の医療制度は、雇用主提供保険などを代表とする民間医療保険が主である。公的医療保障制度は、高齢者(Medicare)と低所得者(Medicaid)を対象とした制度はあるが、2015年で無保険者が人口の10%と報告されている5)。米国においては、2014年入院平均日数6.1日、日本の29.1日(2015年)と比較し短く、病院では急性期治療に限定した医療を提供する 6)。病院に対する支払制度の例を挙げると、MedicareDRG包括支払いを行っている。これは日本のDPC制度のモデルとなった制度であるが、より厳格な包括払い制度である 7)。米国における後発医薬品使用割合の数量ベースは91.6%( 2015)である 8)。病院においての採用薬は、在庫管理の面からも採用品目の制限をしており、therapeutic interchange とよばれる院内プロコトールにより、同効薬を自動的に院内採用の薬品に変更することが一般的に行われている。米国の病院でtherapeutic interchangeが行われている代表的な薬効群は以下である。H2受容体拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬、制酸剤、キノロン系抗菌剤、カリウム製剤、セフェム系抗菌薬、インスリン、緩下剤、HMG-CoA還元酵素阻害剤 9)

外来や一次医療においては、患者個人の保険のフォーミュラリーにより処方可能な選択肢が異なる。医薬品は、有効性、安全性、経済性によりTier levelに分類され、患者の負担額が変わる。医師は原則Tier1から使用することが推奨されており、効果や副作用などの理由で次のTier2から選択することになる。保険会社と医療提供部門が統合した事業体であるKaiser Permanente(KP)のフォーミュラリーのTierを以下に示す。10)

Tier 1 推奨後発医薬品

Tier 2 後発医薬品

Tier 3 推奨先発医薬品

Tier 4 非推奨先発医薬品

Tier 5 専門医薬品

Tier 6 ワクチンなどの注射

 

KPは、カリフォルニア州オークランドを拠点とし、保険料前払い方式の医療提供プランであるHealth Maintenance Organization(HMO)である。保険加入者はKPの医療施設のみを利用し、KPの医療施設は保険加入者しか診療しない。保険部門と医療提供部門が完全統合しているメリットは、レセプトが不要であり、保険と医師との対立が解消される。医師をはじめとする医療スタッフの債務は与えられた予算の範囲でベストプラクティスを実施することにある。

例えば、KPの北カルフォルニア州のフォーミュラリーの例としては、レニンアンジオテンシン系薬では、ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリラート、ENTRESTO、リシノプリル、ロサルタン、ラミプリル、スピロノラクトンとバルサルタンのみである。先発医薬品は、ネプライシン阻害剤のSacubitrilとバルサルタンの合剤のENTRESTのみであった。11)

米国においては、民間保険を主体とした医療が提供されている点は日本と異なるが、エビデンスと経済性を重視した標準治療が行われている。本邦においては、医療機関、地域や保険等でのフォーミュラリーの作成望まれるが、その実践に向けて米国の医薬品のTier levelsによって患者負担が変わるなどのシステムは参考となると考える。

引用文献

1) 14回経済財政諮問会議平成291026日 http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2017/1026/gijiyoushi.pdf

2) 平成28年度「病院薬剤部門の現状調査」集計結果報告 日本病院薬剤師会雑誌Vol.53 No.7 2017

3) 寺井 宏太他 院内での DPP-4 阻害薬 2剤(フォーミュラリーの視点から)における適正使用の検討 

4) 長橋 かよ子 直接経口抗凝固薬(DOAC)のフォーミュラリー作成と適正使用 

5) 医療経済研究機構 アメリカ医療関連データ集2015年版

6) OECD (2017), "Health care utilisation", OECD Health Statistics (database).http://dx.doi.org/10.1787/data-00542-en(Accessed on 07 December 2017)

7) J. Natl. Inst. Public Health, 636: 2014 https://www.niph.go.jp/journal/data/63-6/201563060002.pdf200171218日にアクセス)

8) 医療経済研究機構 平成28年度 薬剤使用状況等に関する調査研究 報告書

9) Guidelines for Therapeutic Interchange—2004: American College of Clinical Pharmacy. Pharmacotherapy: The Journal of Human Pharmacology and Drug Therapy. 2005 Nov 1;25(11):1666-80.

10) カイザーパーマネンテフォーミュラリー

https://healthy.kaiserpermanente.org/static/health/en-us/pdfs/nat/Medicare_2018_NAT/comprehensive_formulary.pdf

11)https://healthy.kaiserpermanente.org/static/health/pdfs/formulary/cal/2017_ca_marketplace_formulary.pdf200171218日にアクセス)

参考資料

フォーミュラリー -エビデンスと経済性に基づいた薬剤選択- 2017年 薬事日報社

ISBN978-4-8408-1409-6 C3047 

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