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2017/06/30

第134回コラム「米国IT専門薬剤師の役割と日本における人材育成の必要性」

 岩澤 真紀子, Pharm.D, BCPS

はじめに

 米国にはIT専門薬剤師」という職種があり「Informatics Pharmacist」、「IT Pharmacist」、「Pharmacy Informaticist」など、複数の用語が混在して用いられている。IT専門薬剤師は、医薬品マスターのメンテナンスだけでなく、電子カルテ導入時の部門システムとの調整、輸液ポンプの医薬品ライブラリーの作成、医薬品の院内でのプロセスを考慮した安全なシステムの構築などに貢献している。筆者が渡米した約15年前、当時インターン勤務していた病院薬剤部に、ITを専門とする薬剤師がいたことはとても印象的だった。米国で実習あるいは勤務した病院薬剤部では、いずれもIT専門薬剤師が雇用されていた。IT専門薬剤師は薬剤部スタッフの教育も担当しており、新規採用の薬剤師がコンピュータシステムのトレーニングを受ける際は、IT専門薬剤師が担当している薬剤部が多かった。これまで出会った優秀なIT専門薬剤師は、ITの専門知識だけでなく、臨床薬剤師としてのスキルも高いことが特徴だった。今回は、米国におけるIT専門薬剤師の役割と現状について紹介する。

日米における電子カルテシステム普及率の現状 

 厚生労働省の発表によると、平成26年(2014年)における電子カルテシステムの普及率は、一般病院で34.2%。病床数別にすると、400床以上の病院で77.5%、200399床の病院で50.9%200床未満で24.4%、一般診療所では35.0%と報告されており、年々普及率が高まっている1)

 アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が発表した20132014年の報告では、米国のプライマリーケア診療所における電子カルテの普及率は、74.1%であった2)。電子カルテの普及に伴い、ITを専門とする薬剤師の需要が高まっている。しかし、州によって普及率に差があり、アラスカ州では一番低く58.8%、ミネソタ州では一番高く88.6%であったと報告されている2)

米国におけるIT専門薬剤師の需要

 2013に行われた全米の病院を対象とした全国調査によると、2007年度の調査では薬剤部のITPharmacy IT)のポジションがある病院が35.8%であったのに対し、2013年の調査では49.0%と報告されており、7年間の間に13.2%上昇した3) 。これには電子カルテの普及が影響していると思われる。IT専門薬剤師だけの平均人数は、2007年度の調査では0.65±0.05人だったが、2013年の調査では1.24±0.08人に増加した3)。さらに、2013年度にITポジションがあった病院の割合を病床数別にみると、100199床では51.3%、200299床では76.2%、300599床では約89%、600床以上では、90.6%と報告されている3)600床以上の病院薬剤部における平均ITスタッフ数は10.08±1.31人、このITスタッフ数にはテクニシャンもプログラマーも含まれているが、IT専門薬剤師だけの平均雇用人数は4.43±0.64人であった3)7年間にIT専門薬剤師の人員が倍になっており、600床以上の病院ではIT専門薬剤師が約4.5人雇用されているように、IT専門薬剤師の需要は年々増加傾向にある。

米国におけるIT専門薬剤師の役割

 ASHP (The American Society of Health-System Pharmacists:アメリカ病院薬剤師会) は、IT専門薬剤師に求められるスキルを以下のように述べている4)  

· 情報システムと薬剤部スタッフと密接に働き、システムの能力と限界を理解した上で必要なシステムプログラムを開発すること

· 薬剤管理システムに関するデータベースを開発・監督する

· システムやアプリケーションの問題を認識し、解決方法を提供し、問題を解決する

· 医薬品使用過程におけるメディケーションエラーを引き起こす脆弱性を評価し、メディケーションエラーの防止策を導入する

· 中核になる臨床決定サポートシステムの開発、優先順序の決定、最終決定に積極的に参加する

· 患者アウトカムを向上させるために、臨床情報システムからのデータを検索、収集、評価、解釈するのを手助けする

 これらのスキルの他、IT専門薬剤師には、院内委員会でのリーダーシップ、IT教育(薬学生および薬剤師)、医療情報に関連する研究等、様々な役割が求められている。

IT専門薬剤師に求められる採用条件

 米国では、病院薬剤部で必要な人員を新たに設けたり、あるいは今まであったポストに欠員ができたりした場合は、原則公募で欠員を補充する。必要とするスキルを持つ薬剤師を募集するのが普通であり、日本とは雇用の方法が異なる。一般的なIT専門薬剤師の募集要綱を紹介すると、まず、基本的な応募条件は、「Pharm.D.の学位と薬剤師経験を有し、ITの知識を備えていること」である。これに加えて好まれる条件として、一般レジデンシー経験あるいはそれに相当する臨床経験、専門レジデンシー(Pharmacy Informatics)、修士号(Health Care Informatics)を持っていることが挙げられている。応募してくる候補者が多い場合、より条件を備えているものが有利となる。このように、ITの知識だけでなく、薬剤師経験や専門レジデンシー、専門的な学位を持っていることが好まれるのが特徴である。

Pharmacy Informatics教育の現状と課題

 「Pharmacy Informatics」とは、薬学領域における情報学のことであり、内容としては医薬品の使用システムに関連する情報に関する要素、処方からモニタリングにいたる医薬品の使用過程に関する理解、臨床記録、患者安全、電子カルテ等の医薬品使用に関わる情報システムの理解等を学ぶことなどが含まれる。2008年のFoxらの調査によると、80あるPharm.D.プログラムのうち、「Pharmacy Informatics」のコースがある大学は2936%)だけだったと報告されている5)。また、カリキュラムへの導入が進まない理由として、既にカリキュラムが過密化していること、情報専門の教育者の不足が挙げられている6)。そのため、オンラインコースの開発、専門レジデンシー制度の立ち上げ等、学生だけを対象とするのではなく、薬剤師や他の医療従事者を対象としたコースの開発も進んでいる。米国においても、需要が高まっているIT専門薬剤師の養成プログラムは、発展途上段階である。

日本におけるIT専門薬剤師育成は急務

 日本は医療分野だけでなく、日本全体でIT技術者が不足している。経済産業省は2016610日、「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」を発表した7)2016年時点で、IT人材は約171000人不足しており、2030年には最大789000人が不足するといわれている。

 医療現場で情報システムを活用するためには、ITのスキルだけでなく、医薬品使用プロセスの理解、医療安全の知識、臨床的な視点などが重要であり、こういった特殊なスキルをもつIT人材の需要が今後一層高まることが予想される。医薬品使用プロセスと院内の医薬品関連のシステムに詳しいのは薬剤師であることから、深いIT専門知識に加えて、患者ケアと医薬品使用に関する臨床的な視点を備えたIT薬剤師を育成していくことは急務であると思われる。

参考文献

1. 厚生労働省ホームページ. 医療分野の情報化の現状」www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/index.html

2. Eric WJ et al. Adoption of certified electronic health record systems and electronic information sharing in physician offices: United States, 2013 and 2014. NCHS Data Brief No.236. January 2016.

3. Brent IF et al. ASHP national survey on informatics: assessment of the adoption and use of pharmacy informatics in U.S. hospitals-2013. Am J Health-Syst Pharm Vol 72 April 15, 2015. 636-655.  

4. ASHP statement on the pharmacist’s role in informatics. Am J Health-Syst Pharm Vol 64 Jan 15, 2007. 200-203.

5. Fox Bl et al. Pharmacy informatics syllabi in doctor of pharmacy programs in the US. Am J Pharm Educ.2008; 72(4): Article 89.

6. Brent IF et al. An approach for all in pharmacy informatics education. Am J Pharm Educ.2017; 81(2): Article 38.

7. 経済産業省. IT人材最新動向将来推計に関する調査結果. 平成28610

 

 

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