生涯教育(CE)

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2017/05/13

第133回コラム「病院実習で体験したアメリカ医療制度の改正と病院での対策」

磯 友菜  

はじめに

 私は昨年、アメリカのフロリダ州にあるNova Southeastern Universityに入学し、もうすぐ二年目が終わろうとしています。昨年は薬局での実習について書かせていただきましたが、今年は病院で実習をしました。私の実習先はフロリダでもかなり大きい病院だったので、 さまざまな薬剤師に付いて勉強させていただいた素晴らしい期間でした。その中でも特に印象に残っている実習について報告させていただきます。

 

Transitional Care

 日本でも、地域医療連携、薬薬連携、病薬連携などさまざまな取り組みがなされていますが、アメリカにおいても退院後のマネジメントがとても重要視されています。これはアメリカの保険医療制度に密接に関係しています。Centers for Medicare Medicaid ServicesCMS)と呼ばれる高齢者や低所得者の医療保険を担当する政府組織が、2012年からHospital Readmissions Reduction Program1)という制度を始めました。これは、特定の疾患がある患者を対象に、退院後30日以内に再入院した場合に、医療機関への支払いを減額するというものです。対象疾患には、肺炎、COPD、心不全、心筋梗塞、膝/股関節全置換、冠動脈バイパス移植が含まれています。これらの疾患がある場合、再入院はどんな原因(交通事故を含む)による入院でも適応されます。これは、「病院は入院の原因となった主病だけを治すのではなく、患者を包括してケアしなければならない」という考えのもとです。ただ、主治医が主病以外をケアすることは困難です。そのため、Transitional Care薬剤師は、看護師、ソーシャルワーカーと連携して、再入院防止のための患者マネジメントを行います。 薬剤師の主な業務は患者教育や服薬指導になるので、自宅で患者が服用している薬を確認し、既往歴と処方内容があっているか、過少・過剰治療になっていないかなどをチェックします。日本のようなお薬手帳といったシステムはないのですが、Surescripts2)DrFirst3)という処方内容を確認できるシステムがあります。これらの会社が提携しているドラッグストアの調剤内容には病院からアクセスができ、電子カルテに取り込めるというシステムです。ただし、提携されていない薬局から処方されている場合や、患者判断による服薬中止や用法用量の変更などもあるので、患者インタビューによる聞き取りを大切にしていました。患者は普段、Primary Care Physician (PCP)という、かかりつけ医に診てもらっているので、1週間以内にPCPに退院後のフォローアップをしてもらうことも大切になります。大抵の場合、PCPは予約が必要なので、予約がすぐに取れない場合は薬剤師が電話してなんとか割り込ませてもらうこともありました。また、退院後は電話によるフォローアップを行います。私の実習先では、先に発表された論文4)などを元に、ソーシャルワーカーは退院31428日後に、薬剤師は7日後と決めていました。 まだ取り組みは始まったばかりですが、薬剤師業務の拡充に向けて、これからエビデンスがたくさん出てくることを期待しています。

 

リーダーシップ 

  病院実習では、指導薬剤師からいくつか課題が出されます。先学期は、一緒に実習している学生と二人で、メインの薬局業務の改善についてのプレゼンテーションを課されました。プレゼンテーションは、数名の薬剤師やテクニシャンの前で行い、プレゼンテーションが終わると出席していたスタッフによる実現性についての評価がありました。私たちは3つの提案をし、そのうちの一つにとてもいい評価をいただき、その場ですぐに実行に移していただけました。学生のプレゼンテーションを、学生と侮らずに真剣に吟味して受け入れる体制があるということに驚きました。レジデントや学生が、毎週のように何らかのプレゼンテーションを行なっており、教育目的だけに課しているのではなく、彼らがイニシアティブをとり業務に還元させる目的もあり、有効活用されていると感じました。他には、「Drug Supply Chain Security Act5)について調べてディスカッションできるように準備するように」との課題が出されました。これは2013年に制定された法律で、薬剤が生産されてから患者に渡るまで追跡できるようにしなければならないというものです。日本では最近、ハーボニー配合錠の偽造品が出回り大きな問題となっていましたが、アメリカにおいても偽造品や不純物混入の防止はとても重要です。こういった違法薬品の流通を防ぐために取られた措置で、この法律改正でのキーポイントは、薬のパッケージにつけるバーコードが従来の一元バーコードから二次元バーコードへ変更されることです。二次元バーコードに変更することで、従来のバーコードでは保持できなかった様々な情報が一括管理できるようになります。一元バーコードではNDCナンバーという薬の識別番号しか保持できなかったのに対し、二次元バーコードに変更することで、ロットナンバーや使用期限なども保持できるようになります。そのためには、バーコードを読み取るための在庫管理システムや、再包装した際にバーコードを印刷するシステムの変更が必要になります。指導薬剤師とのディスカッションで強調されたのは、円滑なシステムの移行と混乱回避のための他のスタッフ(主にテクニシャンや看護師)への指導とリーダーシップでした。ただ変更になることを伝えるのではなく、変更の意義や自施設への利点なども含めた指導をしないといけないと教わりました。私たちはその点の考察が足りませんでした。そのため、今学期の最後のプレゼンテーションでは、法律の改定による薬局への影響と指導プランについて再考することになりました。学校でも実習先においても、常にイニシアティブとリーダーシップが求められます。これは薬剤師にテクニシャンを管理することが求められていることと、他職種と共同して働く時に、薬剤師の職能を十分に発揮することがとても重要だからです。

 

終わりに

 早期から実務実習をすることで、学生は実際の医療を体験し、薬剤師の仕事や役割、薬物治療を実感できるのだと思います。私が日本で薬学部に通っていたときと比べると、授業自体もそうですが、学生から出る質問もかなり臨床に沿っています。Pharm.D課程の最後の一年は全て実習に当てられるのですが、1ヶ月ごとに9つローテーションがあり、Transitional Careや感染症、循環器、救急などの興味のある分野を選んで実習します。今年の病院実習では、様々な専門薬剤師のもとで研修することができたので、その実習先の選定にも参考になりました。幸運なことに、私は興味のある分野で全てのスケジュールを組めたので、今からとても楽しみにしています。 

参考

1) Readmissions-Reduction-Program. (2016, April 18). Retrieved March 25, 2017, from https://www.cms.gov/medicare/medicare-fee-for-service-payment/acuteinpatientpps/readmissions-reduction-program.html 

2) The Nation's Most Trusted Health Information Network. Retrieved March 25, 2017, from http://surescripts.com/

3) Healthcare Solutions & Medical Record Software. Retrieved March 25, 2017, from http://www.drfirst.com/

4) Jackson, C., Shahsahebi, M., Wedlake, T., & Dubard, C. A. (2015). Timeliness of Outpatient Follow-up: An Evidence-Based Approach for Planning After Hospital Discharge. The Annals of Family Medicine, 13(2), 115-122. doi:10.1370/afm.1753

5) Drug Supply Chain Security Act (DSCSA). Retrieved March 25, 2017, from https://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/DrugIntegrityandSupplyChainSecurity/DrugSupplyChainSecurityAct/ 

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