生涯教育(CE)

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2014/02/12

第九十四回コラム「がん専門薬剤師の仕事と責任」

 大友 千絵子, Pharm.D. ,BCOP

日本とアメリカで薬学教育を受け、さらにレジデンシープログラムの2年間で臨床的な経験を積み、今はがん専門薬剤師としてOncology Pharmacy(がん薬剤部)に勤務しています。

2人に1人はがんになる時代です。スクリーニングの発達による早期発見、新薬の登場、治療の発達による生存期間の延長、様々な理由によりがん患者の絶体数は右肩上がりの一途を辿っています。

言い換えれば、がんと共に生きていく人が増えているということです。薬物治療により進行を遅らせる、再発を防ぐことがより可能になってきています。

めざましい新薬開発の裏にはFDA(= Food and Drug Administration, 米国食品衛生局)の迅速承認制度(Accelerated drug approval program, Expedited procedures)があります。特にがん領域の新薬は近年この迅速承認制度により承認されたものがあります。この制度によって承認された薬剤は必ずしも大規模臨床試験を経て承認されたものではありません。中には第2相試験の結果により承認されたもの, 生存率に有意差は見られないのにもかかわらず、奏効率(ORR=Objective Response Rate)の結果により承認されたものなどもあります。生存期間が2週間延長になったことで、統計的有意差が見られたために承認された薬剤もあります。

抗がん剤といっても注射薬剤、経口薬剤に分かれ、腫瘍の種類により用量、スケジュール、抗がん剤の組み合わせが異なり、患者の安全性を守るためにはがん専門薬剤師の高度な専門知識が必要不可欠です。

がん専門レジデンシーを経て、がん専門薬剤師として勤務している自身の仕事内容の一部をご紹介いたします。

私の勤務するOncology Pharmacyはほとんどの患者さんの化学療法が外来で行われます。朝7時に早番の薬剤師が来て、その日化学療法を受ける患者のリストを確認し、前日までにあがってきていなかった臨床検査値のデータを患者ごとに確認していきます。ここで検査値以上が見つかった場合はドクターへ連絡を取ります。ほぼすべてのコミュニケーションは電子カルテを通して行い、正式なコミュニケーションの記録として電子カルテに残します。その他の薬剤師は、化学療法室で混注業務に従事するテクニシャンの監督をする薬剤師、プロトコル業務、DI業務、入院化学療法のオーダー準備をする薬剤師、経口抗がん薬クリニックのシフトをこなす薬剤師、23日先のクリニックのオーダーを承認していく薬剤師の他に、がん専門レジデンシーの薬剤師レジデント、プロジェクトやプロトコルの作成をする薬剤師などそれぞれ割り振りされたスケジュールをこなしていきます。

当メディカルセンターはOncology Pharmacyの他に入院薬剤部や他の外来専門薬剤部(抗凝血療法クリニック、在宅療法薬剤部、腎薬剤部、内分泌薬剤部など)に細分化されており、皆それぞれの分野で専門性を高めています。

臨床検査値のオーダーを出すのは医師・薬剤師の仕事です。化学療法のプロトコルに基づき、プロトコル○○番は全血球(CBC),血漿クレアチニン(SCr), 肝機能検査(LFTs), 尿検査(UA), 電解質(Electrolytes)などが決められています。検査値以上が認められた場合は各薬剤の用量をどうするかなどの情報を迅速・かつ正確にドクターへ提供します。

化学療法の種類によっては、点滴中に患者さんの具合が悪くなることもあります。過敏症やインフュージョンリアクションの多い薬剤はカルボプラチン、オキサリプラチンなどのプラチナ系薬剤、パクリタキセル、ドセタキセルなどのタキサン系薬剤、そしてリツキシマブ、セツキシマブなどのモノクローナル抗体です。看護師は即座に薬剤投与を中止し、薬剤師に指導を仰ぎます。ほとんどの患者さんは、ほてり、紅潮、発熱,悪寒,嘔気,嘔吐,発疹のいずれかの症状を訴えます。薬剤投与をいったん中止した後は、まずすぐに看護師がバイタルチェック(血圧、脈拍、体温、経皮的酸素飽和度[O2 sat])を行い、薬剤師は患者の電子カルテをチェックし、前投薬に何が使われたかを確認すると同時に、症状緩和のために必要な薬剤が何かを判断します。プロトコルに基づき、抗ヒスタミン薬、ステロイド、抗不安薬などは薬剤師の判断で投与を指示を出します。また次回からの化学療法の前投薬の変更も薬剤師がプロトコルに基づき、増減させることが出来ます。しかしもちろんドクターの判断を仰ぐこと、ドクターに患者の状態を知らせることも怠ってはなりません。化学療法の薬剤を中止し、必要薬剤で症状緩和を試みた後も症状が治まらない患者、呼吸困難を起こしている患者(この場合はすぐに吸入薬の投与を行い、専門チームを呼びます)、可能な前投薬をすべて施した患者などはドクターの指示をすぐに仰ぎます。何よりも大事なことは反応を起こしている患者とその家族をひとまず安心させることと私は考えます。クリニックにいる薬剤師がすぐに駆けつけ対応することで患者の表情が変わります。私がそこで気を付けていることは、駆けつけてすぐにまず自己紹介をすることです。『薬剤師の大友です。気分はどうですか?もう薬剤は止めたから安心してくださいね。』この一言を言うといわないとでは大きく違います。ただでさえ不安な化学療法―。それに加えて過敏反応を起こし、具合が悪くなったとなれば誰だって不安でいっぱいです。その不安を取り除き、笑顔と迅速かつ正確な対応をすることが大切です。

学生やレジデントへの指導も大きな役割の一つです。オンコロジーという領域はPharm.D.プログラムの中であまり時間をかけて授業が行われていないのが現状です。そのため、知識ゼロという状態でクラークシップを始めるという学生も少なくありません。乳がんや前立腺がんなど絶対数の多い癌種から初め、ガイドラインを読ませ、それに伴う薬物療法とその副作用管理、薬剤師としての注意点を学んでもらうとあっという間に6週間が過ぎ、クラークシップは終了となります。その点、PGY2のがん専門レジデントとは丸一年じっくりと付き合うことが出来、そのレジデントの長所、短所を見ながら、指導を進めていくことが出来ます。指導する側に回って初めて見えてくることがたくさんあります。自分では当たり前だと思ってやっていたことを学生の時に褒められ、それがどうしてそんなに褒められたのかがよく分からなかったことがありましたが、今はその意味がよく理解できます。昔、指導薬剤師の一人がTeaching is the best way to learnとおっしゃっていたその意味がようやく分かってきました。学生やレジデントは指導薬剤師に質問をすることで、ディスカッションが始まり、学んでいくのではと思います。指導薬剤師からの話を待っているだけでは得るものは半分になってしまいます。自分から質問し、調べることでクラークシップは2倍、3倍にも実りあるものになるのではと私は考えます。そして学生やレジデントがいるというだけで指導薬剤師側も常に勉強しようという姿勢がより強いものになると思います。それがTeaching is the best way to learnです。

 

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