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2014/01/31

第九十三コラム「「英国における実務研修Pre-registration training」

 渥美 景子, MSC

英国で薬剤師国家試験の受験資格を得るには、4年制薬学部卒業しMPharmを取得(英国では通常、大学学部は3年、修士課程は1年のため、4年制薬学部を卒業すると修士に相当するMPharmという学位を取得できる)し、その後1年間の実務研修Pre-registration training(通称プレレジ)を修了することが条件となっています。今回はこのプレレジについて紹介したいと思います。

<プレレジの内容>

 プレレジは病院やコミュニティー薬局などで行われ、内容は施設により異なります。病院では基本的な調剤・製剤・臨床業務から薬剤師としてのプロフェッショナリズムを養う研修となっており、「実践」に重点が置かれています。英国ではテクニシャンが調剤・混注業務などを行いますが、プレレジの間にそれらの業務をすべて習得することが目標となっています。プレレジの前半は調剤・製剤業務の研修が主で、それらの業務の指導者は薬剤師だけでなく、技術面ではテクニシャンであることも多いです。後半は病棟や医薬品情報室の臨床研修が始まり、病棟は固定ではなく様々な症例について学ぶことが出来ます。プレレジの到達目標は次項の通り、Performance Standardsとして明確に定められています。

 また、プレレジ薬剤師は研究を行います。これらの多くは臨床研究や業務の見直しに活用されるAuditであり薬剤部の重要なデータとなるため、薬剤部からテーマが選択されます。さらに、プレレジの最後に薬剤師国家試験を受験するため、プレレジ中に試験勉強を行う必要があります。プレレジは実践に重点が置かれており、プレレジ薬剤師は休日に自己責任で試験勉強しなくてはなりません。ロンドン及びロンドン近郊の3州を管轄している地域の薬剤師研修センターLondon Pharmacy EducationTrainingLPET)では、毎年試験への知識の補完などを目的としたプレレジ薬剤師対象の勉強会を8月から毎月1回開催しており、参加が推奨されています。

 プレレジは通常、大学を卒業した夏から開始され、52週間以上行うことと規定されています。プレレジをどこで履修するかの選択は、資格取得後の就職先に大きく関わるため、自分が将来働きたい職種を考えてプレレジ先を選択します。プレレジ薬剤師は有給で、病院では年間£21,388(約360万円、1ポンド170円換算)です。

<プレレジの評価方法Performance Standards

 General pharmaceutical councilによりプレレジの間に達成しなければならない項目がPerformance Standardsとして定められています。それは大きく分けて以下の3つになります。

A. Personal effectiveness(自己管理・業務遂行能力)

B. Interpersonal skills(対人関係スキル・チームワーク)

C. Medicines and health(薬剤実務)

これらの3つを基本とし、細かな70以上の項目が定められています。以下は規定されているPerformance Standardsの例です。ランダムに抜粋し記載しています。

A1 自己管理能力

A1.2 タイムマネジメント能力を持つ

A1.5 どのような状況にも冷静に対応する

A1.8 自身や他者からの評価によって自身の態度・行動を修正できる

A3 問題管理能力

A3.1  実際の問題もしくは潜在的な問題を認識・特定できる

A3.2 解決方法を提案し、実行に移す

A3.3 解決方法実行後の評価をし、必要なら問題を再度特定する

B1 コミュニケーション能力

B1.2 丁寧で親切な態度で対応できる

B1.3手助けを必要とする人に対して、敏感に対応できる

B1.12 争いごとや問題に適切に対応することができる

C1 調剤業務

C1.1 薬局で正しく処方箋を受け取る

C1.4 処方箋における問題を適切に解決する

C1.9 在庫管理が行える

C2 臨床薬剤業務

C2.1  エビデンスに基づき質問に返答する

C2.3 患者の治療に関してリスクを最小限にするように行動する

C2.4 他の職種に積極的に情報提供する

 プレレジ薬剤師はPerformance Standardsのすべての項目に関して、その項目に則り働くことが出来たという「証拠」を集める必要があります。「証拠」とは主に、どんな状況で何を学んだのか、どんな結果を出せたのか、どうしたらより良く行えたか、以後の課題は何か、などを所定の用紙に詳細に記載・分析したものです。またその用紙に記載されていることが事実かどうか証明するため、「証人」にサインしてもらう必要があります。証人はその場に居合わせた者であればテクニシャンなど誰でも良いとされています。

 <薬剤師国家試験>

 薬剤師国家試験は毎年6月と9月に行われます。薬剤師国家試験の受験資格は、国家試験日までに39週以上の研修修了とほぼすべてのPerformance Standardsを満たしている必要があり、受験資格はプレレジチューターにより与えられます。試験は以下の二部構成となっています。

 l オープンブック(Open book)試験(150分で80問(うち20問は計算問題))

 文献持ち込み可能の試験です。持ち込み可能な文献は「British National Formulary(通称BNF)(英国処方医薬品集)」「BNF for Children(英国小児処方医薬品集)」のみです。これらの資料に関しては、試験問題に答えるための知識がどこに載っているかということを詳細に知らなければならず、記憶するほどの熟読が必要です。

 l クローズドブック(Closed book)試験(90分で90問)

 日本の試験と同様、薬学知識全般を暗記したものを答える試験です。

 <英国薬学部の教育改革>

  英国では近年、日本と同様薬学部の新設が相次ぎ、薬学生にとってプレレジ先の確保がいまだかつてない競争となっています。また、プレレジ先により研修の質が異なることが大きな問題となっています。そのため、今後は薬学部を5年制として、4年生の前半と5年生の後半にプレレジに相当する実務研修を行うことが決まっています。大学が研修先を確保し、確実に質の保たれた実務研修を行うためです。現時点ではすべて5年制となる時期は未定ですが、すでに5年制薬学部と4年制薬学部が混在しており、移行期間となっています。5年制薬学部では、プレレジに相当する期間は無給で、学費を支払う必要があり、研修の長さは異なりますがまさに日本式であると言えます。

<最後に>

 プレレジではPerformance Standardsとして習得しなければならない項目が明確あることや、「証拠」を集めるという評価方法はとても合理的で効果的な方法であると感じました。Performance Standardsをよく読んでみると、専門知識のみでなく業務遂行能力やコミュニケーション能力に関する項目も充実しており驚きました。日本でも大学5年生の実務実習や病院でのレジデントなどにおいて、英国におけるプレレジの研修内容や評価方法を取り入れられる部分もあるのではないかと感じました。

参考文献

l Pre-registration Manual  General pharmaceutical council accessed in Jan.2014

l London Pharmacy EducationTraining accessed in Jan.2014

l 上田彩 イギリスにおける薬剤師教育の現状-実務研修 Pre-registration training Hospha 2009No.1 p5-10

l 国分麻衣子 新設薬大の急増で仮登録研修先の確保が困難にDrug Magazine 20111月号 p74-77

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コメント

はじめまして。
イギリスの大学で、薬学を学ぼうと考えている学生です。
現在、International school在学中、大学には今年の9月に入学予定です。本来はコメント欄でコンタクトを取るべきでは無いのかもしれませんが、プレレジについてお詳しい様子なので、質問させてください。

プレレジ期間について質問なのですが、イギリスの大学でMPharmを終了後、日本でこの研修を受けることは可能なのでしょうか?
イギリスでは近年、留学生のプレレジの枠が急激に狭まっているとのことで、大学側から、自国で研修をうけることも視野にいれるように、と忠告を受けました。

しかし、日本ではプレレジに関する情報ととても少なく、誰に、どの団体に、聞けばいいのか途方にくれています。

もし、日本で受けることが出来ない場合、他の国の大学へ入学することも検討しています。
しかし、日本の大学を受ける場合、高度な科学分野などを日本語で受けた経験が無いので心配です。

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