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2009/06/23

第三十八回「栄養サポートクラークシップから」

東 尚世

私は現在、フロリダ州南東部にありますNova Southeastern Univerisityの最終学年に属しています。今年の1月から、1実習4週間のクラークシップ(臨床実習)が始まりました。今回は今までの実習で一番勉強になった、北マイアミ市Jackson North Medical CenterでのNutrition Support(栄養サポート)クラークシップをご紹介したいと思います。

栄養サポートクラークシップでは、静脈栄養・経腸栄養などの専門的な栄養サポートを必要とする患者のケア学びました。患者の栄養管理は、代謝栄養学の専門家である医師、管理栄養士、看護師、薬剤師が栄養サポートチームとして連携し、個々の患者の病状、栄養状態に応じた栄養管理、ケアに携わっています。このような栄養サポートが発展した背景には、中心静脈栄養によるカテーテル敗血症などの致死的合併症の予防、経腸栄養に比べ膨大な医療費が必要とされる中心静脈栄養の乱用を防止する必要性が生じたことなどが挙げられます。

Jackson North Medical Centerにおける栄養専門薬剤師の主な業務は、医師より静脈栄養の開始指示(開始、中止は医師の指示による)がでた患者の静脈栄養処方設計、静脈栄養の適正評価(適応症の確認、静脈栄養のルート(中心静脈栄養または末梢静脈栄養)の確認)、アセスメント、処方変更です。個々の患者の病気や栄養状況に応じて、適切な栄養管理、処方変更を行い、必要に応じて電解質、インスリン、ビタミン剤などの追加を行います。以下、簡単に手順を紹介したいと思います。

     適応症、静脈栄養の投与経路の確認、病状・栄養状態の評価

u       静脈栄養の適正、栄養状態・病状を評価する。

u       中心静脈栄養は、容量オスモル濃度の制限なく高カロリーを投与できるが、感染リスクが高い。

u       末梢静脈栄養は、血栓静脈炎のリスクを避けるため、900mOsm/L以下の容量オスモル濃度の制限が望ましく、その結果中心静脈栄養に比べて低カロリーになるため、栄養状態の悪い患者にはふさわしくない。

     一日に必要なカロリー、水分量の計算

u       腎不全・心不全・腹水症などの水分制限を要する疾患を除き、一般に水分量は25-30ml/kgとされている。

u       総カロリーは一般には25-30kcal/kgとされている。一日目は50-60%の総カロリー、二日目は75%、三日目には100%をゴールとし患者の状況に合わせながら、栄養管理する。

u       タンパク質カロリーの計算は、肝臓、腎臓の機能や代謝機能の状況を考慮する。

u       脂質カロリーは、一般には総カロリーの20-30%を超えないことが望ましいとされおり、トリグリセリド値が高い場合は、中止または減量する。

u       糖質カロリーは、総カロリーからタンパク質カロリーと脂質カロリーを差し引いたカロリーとなる。ただし、高血糖にならないよう投与速度制限(4-5mg/kg/min)に注意し、糖尿病患者や血糖値が高い患者はさらに慎重にモニタリングする。

     電解質の補正

u       当日朝の電解質値をもとに補正を行うが、補充が目的ではない。

u       電解質を補正する際は、すでに臨時に電解質が投与されていないか、投与薬の中に電解質に影響を与えるものがないか等を考慮にいれる。

     その他、インスリン、ビタミン、微量元素(栄養素)の追加

u       血糖値コントール不良の場合、インスリンを追加する。

u       大半の患者に総合ビタミンを追加し、そのうえにビタミンCや亜鉛を創傷の補修を促す目的に追加、下痢のひどい患者に亜鉛やマグネシウムを追加することがある。

u       胆汁鬱血を伴っている患者を除き、微量元素(亜鉛、銅、マンガン、セレニウム、クロニウム)を追加する。

     静脈栄養のモニター

u       水分やカロリーの許容力のモニター

u       電解質、肝機能、腎機能のモニター

u       感染症などの合併症のモニター

静脈栄養の処方設計・アセスメントには、総合的な知識と経験が必要です。現在、アメリカにはNutrition Support Pharmacist(栄養専門薬剤師)がおり、Board of Pharmaceutical Specialties (BPS)により定められた認定資格と認定試験に合格すれば、Board Certified Nutrition Support Pharmacist (BCNSP)という栄養専門薬剤師資格が与えられます。この資格がなければ薬剤師として栄養の仕事に携われないということではありませんが、米国のBoard Certified Nutrition Support Pharmacist (BCNSP)のように栄養の専門知識を身につけ、トレーニングを受けることにより、日本でも臨床薬剤師が患者の栄養管理に介入できる分野が広がることを願います。

<参考>

Board Certified Nutrition Support Pharmacist (BCNSP)有資格の必要条件;

·         米国Accreditation Council for Pharmacy Education (ACPE)が認定する薬学大学を卒業している者。または、それと同等の資格が認められた者。

·         現在、米国で、実際に臨床現場で従事している者。 

·         レジデンシー2年目でNutrition Supportを終了した者、または3年間の臨床経験があり、その大半をNutrition Support業務に従事した者。

認定試験の内容;

·         個々の患者に応じた評価、治療プラン、モニタリングに関する臨床実践問題。

·         個々の患者に応じたケア、栄養管理に関する問題。 

·         特別なケアを要する患者に関する問題。

認定資格の更新;

·         2年間にnutrition support関連の生涯教育を最低3単位修得すること。

·         認定再更新の総合試験に合格すること。

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コメント

はじめまして。アメリカのPharmDの事で、質問したいことがあるのですが、PhaemDクラブの方へメールすることは可能でしょうか?岩澤様に私のメールアドレスを伝えて頂ければ幸いです。不特定多数の方が見るブログなので、今は匿名ですが、連絡がとれましたら、実名で質問させていただきます。どうぞご配慮よろしくお願いいたします。

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