生涯教育(CE)

2022/07/31

第194回コラム「オピオイドの使用と薬剤師の役割について―処方と注意点に関して」

武田 三樹子

 日本では2020年にオキシコドンの適応が拡大し、「非オピオイド鎮痛薬又は他のオピオイド鎮痛薬で治療困難な中等度から高度の慢性疼痛における鎮痛」に使用することが可能になった。日本でオピオイドが慢性疼痛に使用される時代が来た。アメリカでは非がん性の慢性疼痛によくオピオイドが使用されている。私が2006年にアメリカに来て、カリキュラムの一環で薬局実習に行くと、必ずと言っていいほどオピオイドの処方を見ていた。しかも当時はオピオイドにベンゾジアゼピンと筋肉弛緩薬の組み合わせがよく処方されていた。オピオイドは疼痛管理には最強の薬である反面、その害も多く、医療用麻薬の原因によるオピオイド中毒、そしてオピオイドの中毒死まで至る例も珍しくない。そのようなオピオイドによる中毒死を防ぐために様々な取り組みを行ってきたが、2016年にCDCから、疼痛管理を専門としない医療従事者向けのオピオイドのガイドラインが発行された。それには、オピオイドを処方する際の注意点が12項目にわたってまとめられている。私はpharmacist clinicianという立場で慢性疼痛の患者の診療に従事し、controlled substances (CS) に指定されている薬物(アンフェタミン、オピオイド、ベンゾジアゼピン、プレガバリンなど)の処方箋も書くことが多い。オピオイドの安全使用のためには、処方する側も、調剤をする側も、このガイドラインをもとに様々な安全対策を行っている。今回は、オピオイドを処方する側から、アメリカではどのような決まりになっているのか、オピオイド処方の手順、また、オピオイドの処方にまつわる様々なエピソードも紹介したい。

 アメリカには処方権を持つ医療従事者の種類は日本よりも多いが、オピオイドを処方できる医療従事者は限られている。オピオイドやその他のcontrolled substances (CS)を処方するには、その医療従事者が アメリカ連邦政府の機関であるDrug Enforcement Administrationのライセンス (DEA licenseと呼ばれています) を取得していることが絶対条件である。私はpharmacist clinicianという職種で患者を診療しており、CSを処方するためにDEA licenseを所有している(ちなみに、CSを処方しないpharmacist clinicianも存在する)。

 まず診療する側は、本当に患者にオピオイドが必要なのかを客観的に判断するために、患者からの症状の聞き取りだけに頼るのではなく、フィジカルアセスメントや画像診断を行い、患者の症状を調べることが大事である。そして、到達可能な治療目標を患者と共に決める。例えば、痛みが10段階でゼロになりたい、というのはあくまでも患者の希望であり、痛みの種類によっては、痛みが消えることはない、ということも珍しくはない。しかし、130分歩くことができるようになりたい、家事を1時間だけでもできるようになりたい、というのは到達可能な治療目標である。さらに、オピオイド以外の鎮痛薬やそれに準じた薬(NSAIDs, gabapentin, pregabalin, SNRIs, TCAsなど)も使用し、痛みのコントロールを試みる。また、薬物治療のみならず、PT、カイロプラクティス、鍼灸などの治療も勧めてみる。どれを試しても効果がない場合、または、オピオイド以外の薬での治療薬で副作用が出たり、腎機能や肝機能の低下が問題となってオピオイド以外の治療薬を服用できない場合にオピオイドの使用が検討される。オピオイドを処方すると決まっても、患者には、オピオイド使用の長所や短所を話し、副作用、特に、オピオイドによる中毒死の危険性も話しておかねばならない。そして、最初から高用量を処方するのではなく、少量の投与を行い、必要に応じて増量することや、投与の中止も推奨されている。

 クリニックでは、オピオイドを処方するにあたっては、Controlled Substance Agreement (CSA) と呼ばれる書類に患者から署名をもらっておかねばならない。このCSAに書いてある内容は、CSに指定されている薬物をこのクリニックで処方するにあたり、患者が厳守しなければならないことを挙げたものである。具体的には、処方されたCSは、処方箋の記載通りに服用し、それ以上の量は服用しないこと、他の医療機関からCSの処方があった場合は、クリニックにすぐに報告すること、処方する医療従事者は3か月に一度はPrescription Monitoring Report (PMP reportと呼ばれています。これに関しては下記に別途記載します) の確認をしていること、定期的な尿検査の必要性と、患者はいかなる理由に関わらず尿検査を断れないこと、さらには、CSAに記載してあることを守れなかった場合には、医療従事者はCSの処方を終了することなどが記載されている。

 Prescription Monitoring Report (PMP report) は、州の薬務課のようなところが提供している、CSの処方状況が把握できるウェブサイトである。このウェブサイトは、医療従事者と薬局や薬剤師がアクセス可能である(使用者の登録とパスワードが必要です)。このウェブサイトでは、患者のCSの処方記録と、薬局で実際に調剤されたかを調べることができる。このPMP reportのシステムは個々の調剤薬局とつながっていて、薬局はCSの処方があった場合には、24時間以内に薬務課へ情報を送る義務がある。これは、患者がいくつものクリニックや薬局を回って、オピオイドなどの乱用されやすい処方薬を過量に入手することを防ぐために行われている。ちなみに前者はドクターショッピング、後者をファーマシーショッピングと呼ばれている。また、PMP reportからは、患者が早めにCSの処方を医療機関にリクエストしていないかを調べるために、前回の処方日を確認することにも利用されている。通常、オピオイドを処方する医療従事者は、最低でも3か月に一度はPMP reportの確認をしなければならない。

 オピオイドを処方する前には尿検査をし、違法薬物(メタンフェタミン、コカインなど)の摂取がないか、また、アルコールの接種がないかを調べておく必要がある。その理由は、それらの違法薬物の摂取を行っている患者は、一般的にオピオイドの中毒になりやすい傾向があり、また、それらの薬物をオピオイドと一緒に服用すると、中毒の危険性が高くなるからである。また、初回以降の尿検査は、最低でも6か月ごとに行わねばならない。初回以降は、違法薬物の他に、処方されている薬物とその代謝物が尿中で検出されたかも確認をする。信じられないかもしれないが、処方されたオピオイドを、市中の薬物中毒者に売って金銭を得る行為も珍しくないので、処方された薬物が定期的に処方されているにも関わらず、陰性結果が続くときには、この可能性を疑うこともある。

 オピオイドの処方をする際には、オピオイドの拮抗薬であるナロキソンの処方も推奨されている。アメリカでは、ナロキソンの経鼻投与は広く使用されている薬で、オピオイドの中毒死の予防のためには、医師の処方箋がなくても、薬局において薬剤師の判断で処方をすることができる。また、私が住んでいるニューメキシコ州では、オピオイドを処方する医療従事者は、処方した患者に対して、最低でも年に1回はオピオイド中毒に関する患者教育とナロキソンの処方が義務付けられている。

 実際にオピオイドの処方が始まっても、PMP reportは患者の安全のために頻繁に見ることが多く、私は処方する際はほぼ毎回確認しているといっても過言ではない。また、定期的にオピオイドの効果として痛みの具合の改善度や便秘や呼吸困難などのどの副作用の確認も行わねばならない。必要に応じて、OTC薬を用いた便秘の対処方法なども患者教育の一環として行う。

 恐らく、疼痛コントロールに関わっている医療従事者に、これまで診療した患者の中で印象に強く残っている患者の話をしてほしいと聞くと、幾通りもの興味深い話が聞けると思う。私自身、疼痛コントロールに関わるようになってから、患者さんの状態がよくなってよかったと思う経験もあれば、オピオイドによって人生が狂ってしまった患者にも出会った。日本では考えられないかもしれないが、アメリカではかなりの高用量のオピオイドを服用している患者に、hyperalgesiaという状態が引き起こされる場合かある。オピオイドは、高用量を飲み続けることで、余計に痛みの度合いが強くなる症状を引き起こすのである。この症状の解決には、投与量を減らすことしかないが、患者からの抵抗は想像以上に強い場合が多い。患者に根気強くhyperalgesiaのことを説明し、少量ずつ減量していく必要がある。また、尿検査をオーダーした際にありがちなことが、患者が尿検査を拒否したり、思わぬ行動をすることである。例えば、患者がCSの服用なしの家族と一緒にトイレに入り、その後尿を提出したケース、患者が検査カップを自宅に持って帰り、冷たい尿をクリニックに持ってくるケース、また、クリニックで採取した尿に、水道水を入れて尿のサンプルを薄めて提出するなどだ。もちろん、どの例も却下である。尿検査は、必ずクリニックで予告なしに行い、検体の温度は体温に近い温度のものを提出しなければならない。また、尿検査の際には、薬物の種類と濃度の測定だけではなく、薄めた尿の検体かどうかを見極めるために尿中クレアチニンの濃度も自動的に測定されている。

 ここまで読まれた方は、アメリカではオピオイドを含むCSの処方は煩雑だと思われる方が多いと思う。確かに煩雑で、用量・用量の確認や、CSの処方箋を書くのに必要な事項が書かれているかなどの確認を入れると、一人に処方箋を書くまでに、恐らく5分以上はかかっているいると思う。しかし、全ては薬の安全使用のためであり、患者にオピオイド中毒の犠牲にはなってほしくないという強い思いがある。

 

参考文献

Dowell D, Haegerich TM, Chou R. CDC Guideline for Prescribing Opioids for Chronic Pain — United States, 2016. MMWR Recomm Rep 2016;65(No. RR-1):1–49.

2022/06/29

第193回コラム「薬剤師・登録販売者・薬学生向け英会話書籍の紹介」 

岩澤 真紀子, Pharm.D., Ph.D., BCPS

 コロナ禍で海外旅行の機会や海外からの旅行者に接する機会が減ってしまいましたが、ようやく、ワクチン開発や治療薬の研究も進み、海外からの旅行客受け入れも開始されました。いつCOVID-19感染症が収束するのか、先が見えない状況にはありますが、近い将来、また外国人観光客が増え、薬局や病院での英会話が必要になることを想定して、今から準備してみませんか?

 近年、かかりつけ薬剤師、健康サポート薬局、リフィル処方箋など、薬局薬剤師を取り巻く環境が大きく変わってきています。病院においても、従来の調剤や服薬指導に加えて、残薬確認、術前の医薬品管理、服用後のフォローアップなど、患者サービスは多岐にわたっています。そこで今回、薬剤師の新しい役割にも対応すべく、実践的な英会話のフレーズをたくさん取り入れたポケットサイズの書籍、「薬局・病院ですぐに使える英会話フレーズブック」を発刊しました。http://www.tkd-pbl.com/book/b607211.html

 本書の特徴は、薬局、病院、服薬指導の3分で構成されており、外国人患者や顧客に向けてよく使用するフレーズを中心にまとめていることです。さらに、患者からよく質問される「お薬手帳」、「ジェネリック医薬品」などについて、丁寧にわかりやすく答えられるフレーズを取り上げ、Q&A形式で記載しました。IT時代になって、薬局でも病院でも、スマートフォン等のITデバイスを携帯している患者も増えていますので、それも踏まえて必要な会話を数多く取り上げています。

 このほか、難しい発音の英単語にはカタカナを付して、強勢の位置を太字で示しました。本書購入者本人に限り、ネイティブスピーカーによる音声データを無料で提供していますので、リズムやイントネーションをネイティブの発音で聴くことができます。米国英語だけでなく、英国英語の違いも意識して、違いが大切な箇所にはコメントを挿入し、日本と異なる習慣については、Tipsで説明しています。

 専門英語については、巻末付録として病名、症状、薬に関する用語を英和用語集、和英用語集としてまとめています。本書中で使用された用語については、掲載ページを付して索引としても使用できるように工夫しました。

 より多くの医療関係者の皆様に、ご活用いただければ幸いです。感想・コメント等もお待ちしています。

2022/05/31

第192回コラム「がん遺伝子情報カタログCOSMICとCIvicの紹介」

半田 智子,Pharm.D.

注意:デモビデオのリンクは以下の添付ファイルにあります

ダウンロード - e38387e383a2e38393e38387e382aa.docx

 

ゲノム医療の目覚ましい発展が、トランスリレーショナルリサーチの強化により、遺伝子研究の成果の臨床応用が急速に進んでいます。

一方、薬剤師がチーム医療に係る中で、治療方針を理解し時には患者の意思決定にサポートするような場面が増えることが予想されます。個人の特性に合わせた個別化医療が進められ、患者の薬剤応答性の個人差を起こす要因の一つとなる遺伝情報について、薬剤師が基本的な知識となるゲノムリテラシーを備える必要があります。現在Web上では、公的なデータベースを利用して、様々な臨床遺伝情報を調べることが可能です。

がん遺伝子パネル検査が2019年に保険適用となり、がん治療において遺伝子検査はさらに注目を集め、医療現場でも頻繁に行われるようになってきました。そこで今回は、がんのバリアント(多様体)が見つかった際に有用なCOSMIC(Catalogue Of Somatic Mutations In Cancer: コスミックと読む)というWebサイトhttps://cancer.sanger.ac.uk/cosmicをご紹介します。

COSMICは世界最大のがんの体細胞変異のカタログで、無料でアクセスできます。

ホーム画面のサーチボックスに遺伝子名、疾患名、がんの部位、バリアントの簡単な標記名をいれて検索できます。デモビデオを作成したので参考にしてください。

EGFR遺伝子のT790M変異についての情報を調べました。コード配列の2369番目の塩基がシトシン(Ccytosine)からチミン(Tthymine)に置換していることが示されています。さらにこのバリアントについて詳細を見ると、FATHMM prediction score0.5以上が病的とされているので、0.94であることから病的であることが分かります。

さらにCIvic(Clinical Interpretation of variants in Cancer:シビックと読む)https://civicdb.org/welcomeを使って臨床的解釈をしてみましょう。Civicはがんのバリアントの臨床的な解釈をする知識データベースです。

EGFR遺伝子のT790M変異について詳細を確認します。40件のエビデンスが報告されており、エルロチニブとダコミチニブはT790Mバリアントでは抵抗が示されており、オシメルチニブは感受性が示されていることが分かります。

COSMICのチュートリアルのhttps://cancer.sanger.ac.uk/cosmic/help/tutorials(English)と、CIvicのチュートリアルhttps://civicdb.org/pages/helpEnglish)のURLを提示します。

その他、遺伝子に関連した情報をいろいろなwebサイトから入手できます。遺伝子情報は日々更新されています。ゲノムリテラシーを磨いて、常に最新の情報を入手し、臨床で活用できるように心がけてください。

参考文献

・中山 智祥.医療に役立つ遺伝子関連Web情報検索(メディカルサイエンスインターナショナル)

・渡邉 淳. 診療・研究にダイレクトにつながる遺伝医学(羊土社)

2022/03/11

第191回コラム「ワーキングマザーを取り巻く環境-仕事と育児の両立の難しさの原因と対策-」

渥美 景子

 薬剤師は女性にとって働きやすい職業という人がいる。たしかに、薬剤師は国家資格であり離職しても再就職に有利かもしれない。パートで働くという選択肢もあり、子育て中などプライベートが忙しいときにも柔軟に働ける。しかし、それはある一面を指摘したに過ぎない。薬剤師は日々進歩する医療・薬の知識についていかなければならないなど、大変な面もある。また、女性の多い薬剤師の職場でも、他の職場と同様、「仕事と育児の両立の難しさ」は存在すると感じている。私は最近、育休や共働きの方が集まるコミュニティに所属し、他業種の方々と交流する機会を持った。そこで、仕事と育児の両立の難しさは、私だけではなく多くのワーキングマザー(以下:ワーママ)が感じているということに気づいた。それは個人の状況や職場環境の問題もあるかもしれないが、日本社会全体の問題なのだとようやく認識することができた。ワーママを取り巻く環境、仕事と育児の両立の難しさについて改めて整理してみようと思い、今回取り上げることにした。

  • 女性の労働力、共働き世帯の現状

 女性の労働力はM字型カーブとなっており、子育てで忙しい時期の離職が多いことはよく知られている。以前よりはかなりM字も緩やかになっており、離職数が少なくなってきていると考えられる1

 共働き世帯数は、1997年に専業主婦世帯数を上回った。共働き世帯の増加は著しく、2020年時点では、共働き世帯が1240万世帯と、専業主婦世帯が571万世帯の約2倍である1。▶

 一方、共働き世帯のうち、妻がフルタイム(週35時間以上)が495万世帯に対し、妻がパート(週35時間未満)が682万世帯と、パートの方が多い2。▶

 育児と仕事の両立はできてきているものの、心地よく両立できている人はどれくらいいるのだろう。検索エンジンで「ワーママ」と一緒に検索されたワードを確認すると、「しんどい」「疲れた」「休みたい」「退職」などが出てきてしまう。納得、安心して両立を継続できない原因は何なのか、状況を改善するにはどうしたらよいのかを考えてみた。

  • 育児と仕事の両立が難しい原因5

 両立が難しい原因の主なものとして、ここでは5つ取り上げた。

①長時間労働の社会

 日本の総労働時間は2020年時点で1人あたり1598時間/年と、OECD諸国平均1687時間/年より実は少ない3。これは日本のパートタイム労働者が25.8%でOECD諸国の第4位と多いこと、サービス残業が含まれないことなどが挙げられる。2014年時点では1564歳の男性の1日の平均労働時間は375分とOECD諸国で第1位であり、OECD諸国全体平均259分より約2時間も長い結果であった4。また、Expediaで行われた2018年の調査では、日本人の有給休暇取得率は50%と、19か国最下位であった5。長時間労働の社会となっているのは、以前このコラムでも紹介したメンバーシップ型雇用による生産効率の悪さも要因の一つと考えられ、根深い問題である(第178回コラム 日米における薬剤師の雇用形態の違い)。

 正社員は長時間労働が基本、有給休暇も十分に取れない状況であれば、女性が育児をしながら男性の正社員と同じように働くことは難しく、男性が家庭のための時間を割くことも難しいことは容易に想像できる。育児中の社員が取得できる短時間勤務制度(時短勤務)があるが、各事業主に導入を義務付けられているのは法律上3歳まで、制度があっても取れない雰囲気の職場もある。

 また、男性の育児休業取得率は近年増加しているものの、2019年では民間企業が7.48%、国家公務員が16.4%、地方公務員が8.0%といまだに低い水準である1。このことからも、男性が家庭よりも仕事を優先していることが伺える。

②男性の家事育児時間が少ない

 長時間労働の社会であることにも通じるが、日本は圧倒的に男性の家事育児時間が少ない。2016年における6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連に費やす時間は1日あたり83分、諸外国は約150200分である。その分、女性の家事育児時間は、諸外国は約348373分のところ日本は454分と長くなっている2

③社会の子育て支援が十分でない

 以前より社会の子育て支援は整備されつつあるものの、十分ではない可能性がある。例えば、保育園や学童の待機児童は減少傾向であるも、完全にはなくなっていない。また、子供の体調不良などで取得できる看護休暇の日数は、子供1人あたり年5日間。保育園の0歳児クラスの子供だと年19.3日は保育園を休むという報告6もあり、日数が十分とはいえない可能性がある。看護休暇が有休か無休かは法律で定められておらず、無休の職場が多いのが現状ではないか。女性就業率の高いスウェーデンの看護休暇は年間120日、休暇取得中も給料が80%保証される7ことに驚いた。

④育児自体が大変

 日本はもともと「自分のことは自分で何とかする」「人に迷惑はかけないように」という文化が根付いている。育児に関しても、人に助けを求められないと考えている場合が少なくない。また、子供が騒いだりすると冷たい視線を感じるなど、子供が社会に迷惑をかけないように親が管理しなければならない、という空気があるようにも感じる。また、従来はあった近隣との助け合いも近年は少なくなっており、育児の負担が増している可能性がある。

⑤性別のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が残っている

 日本には性別のアンコンシャスバイアスが根強く残っている。2021年度に行われた性別役割意識に関する調査研究では、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた割合が男女共に高い項目として、「女性には女性らしい感性があるものだ」「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」「女性は感情的になりやすい」「育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきでない」「共働きでも男性は家庭より仕事を優先するべきだ」「家事・育児は女性がするべきだ」「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」が挙げられた8。このうち4つが家事育児、仕事に関する項目である。また、この結果から性別役割意識は異性に対する思い込みのみでなく、男性・女性自身も自分の性別に関して思い込んでいることがわかる。2019年の調査では、性別役割分担意識に反対する人が女性で63.4%、男性で55.7%となっており2、世の中の認識も変わってきている。しかし、実際は男性の家事育児負担時間が少なく女性が多いことなど、実態が伴っていない。

  • 育児・介護休業法の改正とワーママの現状

 法改正は繰り返し行われ、世の中は共働きを支援している。ワーママに関する主な改正点を以下にあげた。

2005年:子の看護休暇の義務化、育休延長16か月まで可

2010年:3歳までの時短勤務義務化

2017年:育児休業期間が最長2年に延長

2021年:子の看護休暇が時間単位で取得可能に

2022年(4月予定):男性の出生時育児休業(男性版の産休)創設、育休の周知、取得の意向確認の義務化

 また、2014年より育児休業給付金の額が最初の180日間50%から67%に増加している。このような法整備などの影響もあってか、共働き世帯は増加し続けている。そんな中、ワーママへの問いは以下のように変化してきている9)

1.妊娠、出産しても仕事を続けるか?

2.どうすれば両立できる?

3.自分らしい働き方は?

2010年頃はまだ1であったといわれるが、この10年間で大きく変化した。近年、ワーママに限らず、世の中全体が自分らしく生きたいと願う時代となってきているのを感じるが、それがワーママにも及んでいるともいえる。

  • 納得、安心して仕事と育児を両立する対策4

法整備などが進んでいるものの、社会が整えられている最中である。待機児童問題など社会が改善しないとどうにもならないこともあるが、自分達でできる対策も多くあると思う。ここでは、私が注目した4つの対策を挙げた。

①時間確保のためにお金を使う、ヘルプを出す

 多くの共働き家庭でまず問題になるのが、日々の時間が足りないことではないか。時短家電を購入する、家事を外注する、ファミサポやベビーシッターなどに送迎や育児を頼む、家族やママ友、近隣の方を頼る、仕事でもヘルプを出す、などして時間を確保すると心身共に余裕が生まれ、両立を継続しやすくなるだろう。

②「~すべき」というマインドセットを手放す

 私たちは「~すべき」にとらわれやすい。育児に関しては、例えば「手作りのご飯を食べさせるべき」「何時までに寝かせるべき」「絵本くらいは読んであげるべき」など。仕事でも「~すべき」は多くの場面であるだろう。時に「~すべき」にとらわれていることすら自覚していないこともある。仕事においては業務に支障が出るくらい手放すと問題になるかもしれないが、「~すべき」を可能な限り手放していくと楽になる。私自身も「~すべき」を認識して手放すように意識したら楽になった経験がある。

③性別のアンコンシャスバイアスを減らす

 女性の働きづらさは、性別のアンコンシャスバイアスが大きな原因となっているように感じる。アンコンシャスバイアスが自分の中に存在していることを男女ともに認識し、減らすことを意識すると世の中が変わるのではないか。20224月からの育児介護休業法の改正で、男性育休取得率が上がり、家事育児への多く関わる男性が増えて、世の中の意識が変わるきっかけになることを期待している。

②一人一人のキャリア形成を大切にする

 キャリアとは仕事のみでなく人生そのもの。どんな人生にしたいか、仕事とプライベートのバランスなども一人一人異なり、同じ個人でも時期によって違うこともある。そもそも自分の望みがわかっていない場合も少なくない。自分の望みを大切にするように意識すれば、納得して過ごせるだろう。また、自分の望みがかなわない時期があったとしても、長い目で見た方がいいかもしれない。キャリアを大切にするには、職場の理解も時に必要である。男性には、女性である同僚や部下のキャリアを応援する視点を持っていただけたら嬉しいと思う。

 

最後に

 この記事を書くために各情報を調べていると、日本は少子化問題解決の一環として、仕事と育児を両立しやすい環境を作ろうと様々な取り組みをしていることが伺えた。今回は薬剤師の記事というよりワーママの一般論として書いてみようと思ったが、薬剤師のワーママに関しても共通する部分が多いと感じた。冒頭でもお伝えしたように、薬剤師は女性にとって働きやすいという人がいるが、単純にそういえるだろうか。薬剤師は女性が多いため、必然的に女性が働きやすい環境が整えられている可能性はあるが、実際の職場環境や人間関係、パートナーや家族の協力度などによるところが大きいような気もする。世の中がよりよい方向に変化し、より多くの人が納得、安心して仕事と育児の両立ができる社会になることを願っている。

2022/02/27

第190回コラム「症例報告執筆時のCAREガイドラインのご紹介」

上塚 朋子, Pharm.D.

 先般CARE Guidelineの日本語版ツール作成のお手伝いをしたので、ご紹介したいと思います。ガイドラインとはいっても、日頃臨床業務で参考にしている診療・治療ガイドラインではなく、ヘルスリサーチの報告に関するガイドラインです。症例報告(Case report)のCAとREの文字を取って名付けたCARE Guidelineは、症例報告の正確性・透明性・有用性を向上させる目的で作られました1)。類似のガイドラインとしては、臨床試験の報告のためのCONSORT Guidelineやシステマティックレビュー・メタアナリシスのためのPRISMA Guidelineがあるので、これらをご存知の方もいらっしゃるかもしれません2)

 CARE Guidelineのツールとして用意されているものは、CARE Checklist, Writing OutlineとTimeline instruction & Examplesの3つで、最初の2つは日本語版が用意されています3)。タイムラインの書き方と実例は英語版のみです。Writing Outline(執筆アウトライン)は症例報告執筆時の各項目と注意点がまとめられています。CARE Checklist(チェックリスト)は書き終えた症例報告の原稿を振り返って、各項目が満たされているかどうかを確認するためのリストになっていて、13項目で構成されています。症例報告を医学ジャーナルに投稿する際には、CAREガイドラインに従い、チェックリストを提出することが推奨されています。

 皆さんは普段、どのような場面で症例報告の論文を読みますか?私が少し前に読んだ症例報告を例に挙げて考えてみます。医薬品・医療機器等安全性情報 No.387で報告されたアレルギー反応を伴う急性冠症候群(コーニス症候群)について調べた時に、症例報告4,5をいくつか読みました。セフォペラゾンナトリウム・スルバクタムナトリウムの使用上の注意にコーニス症候群に関する注意喚起の追記が指示されたため、副作用の具体例を知りたいと思い、参考文献を手掛かりに見つけました。

 CARE guidelineを掲載しているScientific Writing in Health & Medicineのウェブサイト3には、症例報告の役割が次のように書かれています。「症例報告は実臨床の現場でのeffectiveness(有効性)に関する情報を提供し、前向き臨床試験から得られるefficacy(効力)に関する情報を補完する。」 確かに、セフォペラゾンナトリウム・スルペラゾンナトリウムの前向き臨床試験からは、このコーニス症候群に関する情報は得られていないと推察されます。理由は、発生頻度の低さと、認知度が高くないためにおこる検出力の低さだと考えられます。しかし、症例報告ではこのような稀な副作用を医学ジャーナルに報告することで、臨床に新たな知見を増やすことができます。そして、広く薬のリスクを知らせる役割を果たすことができます。そこで、CARE guidelineを利用して症例報告を書くと、症例報告の正確性・透明性・有用性が増すので、新たな知見の価値を高めることができるため有益です。

 EBMのエビデンスレベルを示すおなじみのピラミッドは、トップからSystematic reviews Randomized controlled trials → Observational studies → Case report(症例報告)→ Historical use, Expert opinion の順で示され、症例報告のエビデンスレベルは下層に位置します。しかしながら、症例報告にしか提供できない種類の情報があることから、CARE guidelineで一定の指針を示すことは、その情報に対する質の担保をしようという動きだととらえています。

 私自身、症例報告の論文投稿の経験はないのですが、経験した症例を振り返ってまとめるときにも、このガイドラインの視点は役に立つと感じています。皆さんも是非一度CARE guidelineをご覧になり、日々経験した症例の中で、新しい知見として広く知ってもらいたい事象を報告できるようにまとめてみてはいかがでしょうか。

参考文献:

1)Gagnier JJ, Kienle G, Altman DG, Moher D, Sox H, Riley D, CARE Group. The CARE guidelines: consensus-based clinical case report guideline development. J Clin Epidemiol. 2014;67:46-51.

2)Equator Network(Enhancing the QUAlity and Transparency Of health Research) https://www.equator-network.org/

3)  Scientific Writing in Health and Medicine (SWIHM) https://www.swihm.com/(ツールのダウンロードには無料登録が必要です)

4)Wu H, et al. : Kounis Syndrome Induced by Anisodamine: A Case Report. Int J Gen Med. 2020;13:1523- 7

5) Mitsis A, et al. : Coronary spasm secondary to cefuroxime injection, complicated with cardiogenic shock - a manifestation of Kounis syndrome: case report and literature review. Eur Heart J Acute Cardiovasc Care. 2018;7:624-630.

2022/01/31

第189回コラム「与えられた環境でいかに自分の花を咲かせるか?」

中川 直人

 私事で恐縮ですが、大学受験を控えている高校3年生の娘と高校1年生の息子がいます。結婚して19年になりますが、妻とはこれまでけんからしいけんかをしたことがありませんでした。子供たちがこの年齢になると、とかく「学校の授業がわからないから塾に行きたい」と言ってきます。娘が高校1年になった時にもこの会話をかわしました。先日、息子から同じ相談を受けました。このことに関して、妻と初めてけんからしい言い合いとなりました(笑)。妻からは、「どうして子供の気持ちを分かってあげられないの?」と言い寄られました。その時に私の考え方を皆様とシェアしたいと思います。 

 私が子供たちに返した質問は、「いま学んでいる環境や時間を最大限生かしましたか?」です。この言葉には、

・成績の良い同級生に効率よい勉強方法を聞いてみたか?(人的資源の活用)

・理解できない単元は先生に質問しにいったか?(人的資源の活用)

・図書室を利用してみたか?(物的資源の活用)

・授業が理解できるように予習をしていたか?(時間の有効利用)

・授業が理解できるように復習をしていたか?(同上)

・ゲームをする時間を減らしたか?(同上)

・将来の職業について自分の適性にあうものを同級生と話してみたか?(人的資源の活用)

などの意図を含めています。

 ここに掲げた意図に対しての息子の答えはすべて「やっていない」です。効率よく勉強して成績を伸ばしている同級生がいるはずです。聞くのが恥ずかしいならば、その生徒の様子を見てやり方を盗んでもいいと思います。先生に質問しにくいのであれば、理解している同級生に聞いてみることでもいいと思います。授業で使っている教科書が理解しにくいのであれば、図書室の参考書をあたってみるという行動もあってよいと思います。初めて聞く単元の授業が分かりにくいのであれば、あらかじめ教科書を読んで、理解できたところと理解できなかったところを明確にして教科書にしるしをつけておき、授業中に先生がそこを説明した時には聞き洩らさずにしっかり聞くことも大切です。学校から課題がでないということであれば、自分で問題集を買ってどんどん解いていくという復習のやり方を考えることもできると思います。予習復習の時間を確保するには、ゲームの時間を減らすという行動変化も伴うことになります。これらがすべて「やっていない」のです。

 私が子供たちに投げかけた質問には、実は「人生の泳ぎ方」を分かってほしいという気持ちがバックボーンにあります。私の経験を一つシェアします。

 私がアメリカのPharmDプログラムの学籍を得たのちのことです。TOEFL iBTのスコアをしっかり取れるまで英語の勉強をしてきたから、ある程度英語に自信をもって渡米しました。オリエンテーションの時間の教員の英語がほとんど聞き取れず、心がざわつきました。「まだ正規の講義は始まっていないから大丈夫!」と自分に言い聞かせて、翌日の講義に臨みました。でもやっぱり講義の内容がうまく理解できません。心のざわつきが不安感・恐怖感に変わりました。「本当に単位がとれるのだろうか・・・?」この状況で私がとった行動は次の通りです。

・ハンドアウトは事前にダウンロードできるので、単語の意味調べをしつつ、講義の流れを大まかに把握する。

・ボイスレコーダーを準備して講義はすべて録音する。聞き取れなかった部分は、ハンドアウトにクエスチョンマークを入れておく。

・講義終了後は、録音した講義を再度聞いて、聞き取れなかった部分は再生速度を遅くして聞いて理解する。

 ハンドアウトは少なくとも講義の前後で3回目を通すことになります。これをずっと続けました。

 何が言いたいかというと、与えられた環境で生き抜くためには、「知恵を絞り、工夫する」ことだということです。良い環境を求めればきりがないです。

「与えられた環境でいかに自分の花を咲かせるか?」

 その答えは、「知恵を絞り、工夫する」。簡単な言葉かもしれませんが、「知恵を絞る」過程は、脳みそから汗をかくくらい知恵を絞る必要があります。工夫したことがすべて効果があって好転するとは限りません。失敗してはまた工夫して生きていく。薬学生しかり、現役の薬剤師の先生方しかりかと思います。もちろん、私も今の環境で自分を光らせることに注力していますよ。

 

2021/12/31

第188回コラム「2021 ASHP Midyear Clinical Meetingに参加して」

岩澤 真紀子, Pharm.D., Ph.D, BCPS

 毎年12月に行われる世界最大の薬剤師の学会として知られる「ASHP Midyear Clinical Meeting」は、今年もバーチャルミーティングとなった。COVID-19感染が拡大する前は、2年ごとに学会に参加していた。実際に現地で参加することは、旧友との再会・情報交換、新たな人的ネットワークの構築、薬剤師業界の動向調査、活気ある学会の雰囲気や自信に満ちた薬剤師の姿からの刺激等、様々なメリットがあっただけに、パンデミックの収束を願ってやまない。一方、バーチャルミーティングは、それはそれで有意義な点があった。例えば、現地参加だと時差に体が慣れるまでに時間がかかるため、講演を聴講する際に集中できないことが多々ある。さらに、聴講したい講義のスケジュールが重なっていることがあり、事前にスケジュールを立てなければならない。その点、バーチャルだと様々な講義を自由に受講できることや、聞き逃した際に録画を巻き戻して聞き直せることはメリットだった。この他、現地開催と比べて学会参加費が安く渡航費用がかからないため、より多くの方が参加できたのではないかと思う。今回は、聴講した講義の中から印象的だった内容をいくつか紹介する。

The Oldest Old85歳以上の心房細動患者に対する脳卒中予防

 医薬品添付文書や診療ガイドライン等において、高齢者を65歳と定義して情報が整理されることが一般的である。しかし、高齢化社会となり65歳以上の人口が増加している状況の中、実臨床において65歳の年齢区分だけで薬物治療を考えることは難しい。今回、心房細動患者におけるDOACの薬物療法の講義の中で、85歳以上を「The Oldest Old」と表現していたのが印象的だった。脳卒中の患者における85歳以上の高齢者は17%を占めており、その多くが独居であると報告されている。心房細動に起因する脳卒中リスクが高く、死亡率も高い。80歳以上の健常者における脳卒中リスクは20%という報告がある一方で、80%以上の脳卒中は予防可能である。

 脳卒中予防に重要な役割を果たす薬剤に抗凝固療法があるが、米国においては有害事象が最も報告の多い薬剤であり、その70%は防止可能と報告されている。出血リスクの面からワルファリンよりDOACを選択するほうがよいとされるが、85歳以上の患者に対しては次のことを考慮することが推奨されている。①ナーシングホームの住人の60%はCrCl30mLである、②ポリファーマシーと薬物間相互作用がよくみられる(アピキサバンとリバロキサバンはCYP3A4P-グリコプロテインの基質である、ダビガトランとエドキサバンはP-グリコプロテインの基質である)、➃フレイルのアセスメント(体重45㎏以下、BMI18kg/m3、臨床フレイルスコア<6)、⑤出血や貧血の既往歴。

 85歳以上におけるDOACの適正用量に関するエビデンスも集積しており、オフラベル(適応外使用)であるものの、エドキサバン15㎎ 1日1回、アピキサバン2.5㎎ 12回が推奨されている。

バンコマイシンと急性腎不全

 米国では2020年にバンコマイシンガイドラインが改訂され、トラフ値をモニタリングすることによりバンコマイシンの投与設計をする方法から、AUCに基づく投与設計およびモニタリングする方法が推奨された。この理由として、トラフ値の目標値を15-20mcg/Lにすることにより急性腎不全のリスクが上がること、トラフ値はあくまでも推定でありバイアスを生じやすいこと(正確なトラフ値測定をするためには、定常状態かつ血行動態状態が安定している患者で、正確な時間にバンコマイシンが投与されていなければならない)、AUCに基づく投与設計をする場合、有効性はトラフ値モニタリングと類似しているが、急性腎不全が減少することが示されたからである。急性腎不全の頻度に関する報告は臨床試験によりばらつきがあるが(5~43%)、多くのイベントは投与開始後4〜5日後に生じている。急性腎不全は治療中止後1週間以内に改善することが多いが、バンコマイシンに起因する急性腎不全は様々な問題がある。例えば、血清クレアチン値が上昇する時には既に腎機能障害が進行している可能性が高く、軽度の腎不全であっても入院死亡率の上昇、入院期間延長、医療費の高騰につながる可能性があること、心血管イベント、免疫不全による感染等の腎臓以外の臓器にも影響することがあることである。このため、急性腎不全を防止することは非常に重要である。

薬剤師外来の拡大

 2021年の全米調査によると、46.2%の病院が薬剤師外来サービスを導入しており、その種類も拡大している。薬剤師外来の種類は、多い順に抗凝固療法(25.8%)、がん(23.2%)、糖尿病(16.9%)、家庭医療(16.8%)、高血圧(15.8%)、感染症(11.6%)、移植(8.4%)、疼痛(6.5%)である。一方、まだ数は少ないものの、2018年より、ゲノム薬理学のサービスが広がっており、現在3.3%の病院で薬剤師外来が導入されている。ゲノム薬理学の対象となる薬剤は、次の通りである。abacavir, abemaciclib, ado-trastuzumab, clopidgrel, codeine, irinotecan, nivolumab, phenytoin, SSRIs, simvastatin, tacrolimus, thiopurines, Tricyclic antidepressants, warfarin

Telehealth(遠隔医療)

 2021年の全米調査によると、薬剤師による遠隔医療を提供している病院は28.4%、その内訳は、電話サービス(70.9%)、ビデオチャット(25.2%)、電子メール(0.6%)と報告されている。41.0%の病院が、遠隔医療を有料サービスとして提供している。薬剤師が遠隔医療サービスを提供している疾患としては、多い順に糖尿病(52%)、高血圧(40%)、喘息およびCOPD(28%)、脂質異常症(18%)、循環器疾患(心不全、冠動脈疾患等)(16%)、禁煙指導(8%)であった。

 このほか、COVID-19感染関連のトピックも多く、ワクチンやワクチン予防接種に関する内容も数多くあった。まだエビデンスを蓄積中のトピックでありデータが日々更新されているため、今回は紹介を差し控えたい。

2021/11/30

第187回コラム「集中治療初心者の”日本語”資料の紹介」

  前田 幹広, Pharm.D.

 近年集中治療室に薬剤師が配属されることが珍しくなくなり、どのように勉強すれば良いか聞かれることも多々あります。米国のレジデンシープログラムでは、New England Journal of Medicineを始め、有名どころの雑誌の総説をひたすら読んで(読まされて)、知識を身につけていきました。Dr. Marinoが執筆されているICU Bookを指導薬剤師から勧められましたが、集中治療初心者の私にとって、英語でICU Bookを読んで勉強するほどの能力はありませんでした。英語の論文や書籍を紹介すると取っ付き難い方も多いため、日本語で勉強できる集中治療に関する書籍を2つ紹介いたします。

  1. INTENSIVIST 出版社:MEDSi

 JSEPTIC: Japanese Society of Education for Physicians and Trainees in Intensive Care (日本集中治療教育研究会)による編集で、集中治療のテーマで年4回発行しています。私が米国から帰国した2010年に衝撃を受けたのを覚えています。英語で総説を読んで勉強していた私にとって、日本語でここまでエビデンスに基づいた集中治療に関する書籍であるINTENSIVISTを知っていたら、もしかしたら基礎知識をINTENSIVISTで身につけることを選んでいたかもしれません。それだけ、内容に関しては充実しています。

 INTENSIVISTは、大きなトピックの「特集」と少し小さなトピックの「コラム」で構成されており、読者が興味のあるところから読み進めることが可能です。すべてのトピックが深く記載されており、薬剤師にとってはちょっとここまでは…というところまで書いてあります。例えば、20163月の「管/ドレーン」を薬剤師が全て知ることは難しいかもしれません。一方で、「膠原病・血管炎」では、集中治療室では頻繁ではないが、知らなければいけない知識として全身型エリトマトーデスの緊急病態や劇症型リン脂質抗体症候群、そして急性期治療で使用するステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤などの解説など、調べるために膠原病の他の書籍などを参照しなければいけない内容も凝縮しています。

  1. クリティカルケア薬 Essence & Practice 出版社:じほう

 私は編集で関わっていますが、とにかく現場の医療従事者が使いやすい書籍を目指しました。重症患者の薬物治療では、添付文書情報のみでは、太刀打ちできないことが多く、海外のエビデンスをその時々に調べる必要が出てきます。しかしながら、一刻を争うときに一々調べる時間がない場合に、全部そこに情報が集約していたらいいのに、というコンセプトのもとJSEPTIC薬剤師部会が執筆をして完成した書籍です。編者と執筆者が入れたい内容を入れていたら1000ページを超えてしまいました。

 書籍の構成は、大きくⅠ章〜Ⅴ章の集中治療に関する薬剤の総論とⅥ章の各論に分かれています。集中治療初心者の皆さんには、是非とも1ページ目から読んでいただき、集中治療の薬剤師が身につけるべき基盤を作っていただきたいと思います。さらに現場で医師や看護師から問い合わせを受けた際には、薬剤別の項目で逐一確認してみてください。その答えを深く知るために、その参考文献を辿って勉強していくと、より深い薬剤の知識を身につけていくことが可能となります。

 最後に、どのような知識を集中治療領域の薬剤師が学ぶべきか、”An Opinion Paper Outlining Recommendations for Training, Credentialing, and Documenting and Justifying Critical Care Pharmacy Services” Pharmacotherapy 2011;31(8):135e–175eに記載があるため、確認していただきたいです。

 ※ご紹介したICU Bookは、現在日本語版も出版されていますので、是非読んでみてください。

2021/10/31

第186回コラム「Zoomを活用したバーチャル薬学国際交流」

城戸和彦, Pharm.D., MS, BCPS, BCCP

 2020年以降のコロナウイルス流行に伴い、薬学教育や薬剤師業務は多方面に影響を受けた。その中でも、大きな影響を受けたことの一つが国際交流である。逆境の環境下で、各大学は工夫を凝らして国際交流を行っている。例えば、私が現在勤めているウエストバージニア大学薬学部では、2021年4月から、Zoomを利用したバーチャル国際交流を北里大学病院薬剤部と連携して開始した。今回は、このバーチャル薬学国際交流プログラムについて紹介する。

 ウエストバージニア大学薬学部と北里大学病院薬剤部のバーチャル国際交流は、これまで計2つのセッションを開催した。1つ目のセッションは、両施設の紹介、アメリカと日本薬学教育の違いなどを議論した。2つ目のセッションでは、両施設のレジデンシープログラム紹介を行い、両国間でのレジデンシー教育の比較を議論した。各セッションは1時間程度で、セッションは、各施設のプレゼンテーション(10分程度)を行い、その後Zoomのブレークアウトルーム機能を使ったスモールグループディスカッションを行った(20分程度)。メンバ―構成は、ウエストバージニア大学薬学部からは、薬学教員(4-5名)、薬学生(4名)、レジデント(4-5名)が参加し、北里大学からは、薬学教員(2-3名)、レジデント指導薬剤師(3-4名)、レジデント(8名程度)が参加した。開催頻度は、年4回を予定している。

 過去2回のセッション参加者からのフィードバックを踏まえて、今年11月からは循環器、感染症、オンコロジー領域の患者症例を使い、各国の医療システムや文化の違い、ガイドライン指針の比較、両国の治療アプローチの違いを学ぶことを目的として症例検討を行う予定である。来年には、バーチャルジャーナルクラブも開催する予定である。

 海外研修など、国際交流を現地で行うメリットは多くあり、新型コロナウイルス流行が沈静した後は再開できることを願う。一方で、現地で行う国際交流の再開の有無に関わらず、今回のような遠隔で行うバーチャル国際交流は非常に重要になることを認識した。費用の面、効率性、そして長期的に行える面など、多くのメリットがある。今後は、バーチャル国際交流と現地での国際交流を織り交ぜたハイブリット式の国際交流が主流になることが推察される。

2021/09/30

第185回コラム「チーム基盤型学習(Team-Based Learning; TBL)の実践」

磯 友菜, PharmD

 アメリカの薬学教育では、チーム基盤型学習(Team-Based Learning; TBL)を取り入れた授業が増えています。私の受け持つ医薬品情報と文献評価の講義でもチーム基盤型学習を取り入れていますので、その取り組みについて報告させていただきます。

 従来の授業形態(Traditional Classroom)と反転した授業形態(Flipped Classroom1),2)

従来の授業形態では、教員主導で講義が進み、生徒は主に講義を聞いてノートを取り、授業外で課題をこなしていました。反転した授業形態では、生徒は講義を授業時間外に、ビデオなどを用いて自習し、授業時間内では、生徒が主導となり、課題をグループでこなします。この授業形態を取り入れることで、生徒の学業成績の向上、授業への積極性の向上、講義内容の理解度の向上など様々な利点が報告されています。チーム基盤型学習は、この反転した授業形態を実践する刷新的なアプローチです。

ダウンロード - 185e59b9ee38080e59bb31.pdf

チーム基盤型学習とは3)-7)

チーム基盤型学習は、授業開始前の生徒の予習と授業内での知識の応用を強調した、少人数(5〜7人)のグループ学習形式です。授業は以下の3つのステップから構成されます。

ダウンロード - 18520e59bb32.pdf

  • 授業前の事前学習(Pre-class Learning)

生徒は授業が始まる前までに、与えられた資料を用いて、事前学習を完了させます。事前学習資料は、教科書、ハンドアウト、論文やビデオなど、その授業や生徒のレベルにあったものを準備します。

  • 授業内での準備保証テスト(Readiness Assurance Test; RAT)

授業内では、最初に個別の準備保証テスト(individual RAT; iRAT)を受けます。テストは通常、5〜10問の複数選択の簡単な問題から構成され、生徒は資料を用いずに(Closed book)解答します。次にチームの準備保証テスト(team RAT; tRAT)を受けます。これは、iRATと同じ内容のテストですが、今度は個別ではなく、割り当てられたチームで議論をしながら答えを導きます。各チームのメンバーは同じtRATの点数を得ることになります。どちらのテストの点数も、各生徒の総合成績に含まれます。テストの後は、生徒に間違った問題やわかりにくかった問題をインストラクターにアピールする機会が与えられ、クラス全体でその問題に対して議論します。このテストのアプローチは総合成績に影響するため、生徒が事前学習をし、授業に出席し、チームディスカッションに積極的に参加することを促すためにとても有効的です。

  • 知識の応用に焦点を当てた演習(Application Exercises)

授業の残りの時間は、生徒が事前に学習した知識を応用するための演習に当てられます。この演習は、知識を試すためではなく、応用することに焦点を当てているので、資料を参照しながら(open book)、チームごとに議論して与えられた課題をこなしていきます。この演習問題もチームベースなので、各チームのメンバーは同じ点数を得ることになります。演習問題を提出したら、最後にクラス全体でのディスカッションを促して、トピックと問題に対する適切な回答を模索します。

 改良したTBL を用いた授業も報告されています。FakhriRavariらは、一回の授業に対し、二種類のiRATを導入しています。一つは、授業前に、自宅で資料を参照しながら受けるiRAT、もう一つは授業中に資料を参照せずに受けるiRATです。自宅でのiRATには、解答すると同時に、正誤の根拠を自動的に表示させるようにして、事前学習の更なる理解度の向上を促しています。8)

チーム基盤型学習の実践

 私の授業では、学期の最初に5〜6人ごとのチームを決めます。生徒は学期を通して全てのtRAT、演習、そしてジャーナルクラブをこのチームごとにこなしていきます。事前学習のための資料は、パワーポイントのプレゼンテーションを録画したもの(30分〜1時間)とハンドアウトを配布しています。授業は週一回、110分で、一回の授業で一つのテーマを扱います。生徒は授業の開始と同時に5問のiRATを5分間で解答し提出します。その後、チームに分かれ、同じ問題のtRATを、チームごとに議論しながら10分で解答し提出します。全チームが提出し終わったら、10〜15分ほどかけて、クラス全体でRATの問題を議論しつつ、わかりにくかった点や間違いの多い点などを解説していきます。演習は30〜40分ほどかけて、各グループで資料を参照し議論しながら問題を解き、提出します。全チームが提出し終わったら、残りの時間をかけて、クラス全体で演習問題の議論と解説をします。

 実際にチーム基盤型学習を実践してみて、導入の一番の難関となるのは、事前準備の大変さだと感じました。ハンドアウトを作成し、講義をあらかじめ録画し、授業日の数日前までに生徒に配布、またテストと演習問題も作る必要があります。授業をしてみて実感したことは、出席率の高さと授業へ積極的に参加する姿勢です。グループで常に議論をしているため、居眠りする生徒はおらず、また議論することによりさらに疑問が出てくるため、様々な質問も飛び交います。一方で、なかなか議論に加わることのできない生徒がいたり、グループ内で役割分担してしまい議論にならないケースなどもあり、教員側のファシリテーターとしての役割の重要性も実感しました。

参考文献:

  • Jakobsen, K. V., & Knetemann, M. (2017). Putting Structure to Flipped Classrooms Using Team-Based Learning. The International Journal of Teaching and Learning in Higher Education, 29, 177-185.
  • Lopes, A. P., & Soares, F. (2018). Flipping a mathematics course, a blended learning approach. Proceedings of INTED 2018 Conference,3844–3853.
  • Michaelsen, L. K., Davidson, N., & Major, C. H. (2014). Team-based learning practices and principles in comparison with cooperative learning and problem-based learning. Journal on Excellence in College Teaching, 25(3&4), 57-84.
  • Team-Based Learning Collaborative. (2019). Retrieved September 26, 2021, from http://www.teambasedlearning.org/definition/.
  • Brame, C. J. (2013). Team-based learning. Vanderbilt University Center for Teaching. Retrieved September 26, 2021. from https://cft.vanderbilt.edu/guides-sub-pages/team-based-learning/.
  • Burgess, A., van Diggele, C., Roberts, C., & Mellis, C. (2020). Team-based learning: Design, facilitation and participation. BMC Medical Education, 20(S2).
  • Jansen, T. (2018). A team-based learning adventure. Training. Retrieved September 26, 2021, from https://trainingmag.com/a-team-based-learning-adventure/.
  • FakhriRavari, A., & Nguyen, L. (2020). Double iRATs with Immediate Feedback Experience in a Team-Based Learning Infectious Diseases Pharmacotherapy Course [Poster presentation]. American Association of Colleges of Pharmacy Annual Meeting.

2021/09/09

第11回日本薬剤師レジデントフォーラムのお知らせ

2021年11月6日(土)10:00~17:00に、Web開催(ライブ配信)で「第11回日本薬剤師レジデントフォーラム」が行われます。

年会では、レジデントを修了した方、現在レジデントをしている方、レジデントに興味を持っている学生の方のお話が聞ける他、米国で臨床薬剤師をされている城戸和彦先生より「米国における薬剤師レジデント教育」、ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子先生より「医療ニーズに対応した薬剤師教育の在り方」についてご講演いただきます。

是非ご参加ください。

http://www.den-entry.com/14reg/top.php

事前登録:2021年8月10日(火)~ 2021年10月11日(月) 17:00

本大会はWeb開催のため、当日の参加受付を行いません。

学生の参加料は無料です。

 

 

2021/08/31

第184回 「知らざるを知らずと為す是知るなり ~米国からZoomを介して、日本の薬学生との意見交換~」

東 尚世, MS, PharmD, BCPS, BCPPS

 現在、私は米国カリフォルニア州トーランス市の病院に臨床薬剤師として勤務し、主に抗凝固療法に携わっています。新型コロナウイルス感染のパンデミックの中、今年4月に、岩手医科大学薬学部教授の松浦誠先生より、日本の薬学生6年生に向けて、Zoomを介して、私が米国で臨床薬剤師としての現在の業務内容を紹介し、米国の薬剤師と日本の薬剤師の役割や業務内容の違いを知っていただく機会を頂きました。講義の内容と米国の薬剤師の役割について、日本の薬学生の意見について紹介したいと思います。

1) 講義の内容

*自己紹介

*米国で薬剤師免許を取得するには

*米国の薬剤師の種類と就職先

*米国の薬局/ドラッグストアーで薬剤師として働く

*ファーマシーテクニシャン

*院内の薬剤師の種類

*院内の抗凝固薬剤師として働く

*米国認定薬剤師制度

*最後に

 

2)日本の薬学生のフィードバック結果

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3)意見交換を通じて

*Zoomなどのバーチャルテクノロジーを介して、物理的に離れていても、海外の薬剤師や薬学生との交流をはかる有用な機会がもてると思われる。

*米国と日本では、法律や制度のなど違いはあるが、他国の薬剤師の役割や業務の違いを認識することで、現状のおかれた状況を客観視し、今後の課題など再度検討する機会になるのではないかと思われる。

*限られた時間内に、情報を提供するため、事前にアンケートで聞きたい内容をピックアップすれば良かったと思われる。

*日本では見られない、ファーマシー・テクニシャン、リフィル処方箋、薬剤師によるワクチン接種、他の医療従事者が対等な立場でチーム医療を担っている等の内容に興味をもってもらえることができたと思われる。

*米国と同様に、日本でも、7割弱がチェーン薬局やドラッグストアへ就職する。

*米国の病院や薬局の視察・見学・研修について、まずは日本で学び経験を積んでから行ってみたい意見や、英語力や金銭面で躊躇するが行ってみたい、是非、米国との薬剤師との違いを見てみたいと7割近くに興味をもってもらえたと思われる。

*日本の薬学生からの質問には、ファーマシー・テクニシャンについてもう少し詳細を知りたい、ファーマシー・テクニシャンが調剤業務を全般にするのなら米国の薬剤師は何の業務に時間を費やしてるのかという質問があった。米国では、ファーマシー・テクニシャンの存在により、薬剤師の専門性を活かした業務に時間を費やし、患者医療の提案に介入する機会をもてることを知ってもらえたと思われる。

4)最後に

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、バーチャルテクノロジーの利便性が進歩している。また、パンデミック中、不確かな状況の中、タイムリーに有効な情報共有し合うえることは重要であると思われ、今後、物理的・空間を超えて、益々、日本の薬学生や薬剤師との交流する機会が増え、お互いの理解を深め、刺激し合い、より良い、患者への薬学管理を提供できるよう、薬剤師の業務推進が出来きることを願っている。講義の最後に私の上司から「地域社会に貢献し、思いやり・情熱・誠実さをもって人々の生活の質と健康を向上させることは、どこにいても、どの職種につこうとも、患者のケアを改善するために、薬剤師の真実を羨望し、前進させる機会が常にあることを忘れないでください。」と日本の薬学生へメッセジーが送られた。改めて、一人の薬剤師として、何ができるのかを考えさらされる機会となった。

【謝辞】

日本の薬学生に米国の薬剤師について知って頂く、このような貴重な機会を頂きました岩手医科大学薬学部教授、松浦誠先生に心より感謝致します。最後まで、視聴して頂いた、岩手医科大学薬学部6年生の皆様に深く感謝いたします。

【参照】

Azuma N. My dream: Clinical Pharmacist in US. The Pharmaceutical Society of Japan. August 2011: 47(8):741-745                 

Azuma N and Yamada M. Practice of CDTM in Outpatient and Retail Pharmacy. The Journal of Practical Pharmacy. October 2011: 62(11):3588-3595       

Azuma N. Practice of CDTM in US. The Journal of the Japan Pharmaceutical ssociation. May 2012:64(5):640-641     

Azuma N. Immunizing Pharmacist in US. 53th Column for Japan Pharm.D. Club, September 29th,2010: http://pharmd-club.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/index.html

Azuma N. Activities of Clinical Pharmacist in Anticoagulant Therapy. 167th Column for Japan Pharm. D. Club, April 30th, 2020:http://pharmd-club.cocolog-nifty.com/blog/2020/04/post-ff54b1.html

Azuma N. Board of Certified Pharmacists in US. 74th Column for Japan Pharm.D. Club, June 6th, 2012: http://pharmd-club.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/bcp-board-of-ce.html

2021/07/31

第183回コラム「Ambulatory Care Pharmacist〜PGY-1レジデンシー経験を通して〜」

横田 麻衣

 2020〜2021年、マサチューセッツ州にある外来診療所にてAmbulatory Care薬剤師レジデントとして一年間の研修を行いました。今回は自身の経験を通して、Ambulatory Care薬剤師がどの様な役割をしているのか、症例を含めて紹介したいと思います。

アメリカの薬剤師レジデンシー制度について興味のある方は、過去のコラムで何度か紹介されているのでそちらもご覧下さい。

  • 第160回コラム: 米国における卒後研修制度とその役割(磯先生)
  • 第77回コラム: PGY-1レジデンシー出願から合格までの過程(廣島先生)
  • 第45回コラム: PGY-2 Critical Care Pharmacy Residency(前田先生)
  • 第36回コラム: レジデンシープログラムの面接(大友先生)

Ambulatory care pharmacist とは

 Ambulatory care clinicとは外来診療所の事であり、Ambulatory care pharmacistは多くの場合、外来診療所で働くclinical pharmacist(臨床薬剤師)のことを指します。医師(かかりつけ医)、看護師など他の医療従事者と共にチームの一員として患者のケアに携わります。

Ambulatory care pharmacistとしてのクリニック業務

 アメリカの薬剤師は薬を処方できると聞いたことがある方も多いと思いますが、薬学部を卒業した薬剤師全員が処方権を所持しているわけではありません。薬剤師の処方権に関しては州によっても異なり、マサチューセッツ州の外来診療所ではCollaborative Drug Therapy Management (CDTM) の元、医師と契約を結んでいる薬剤師に限り、契約書内に示されている疾患に使う薬のみに処方権(薬物を開始、調節、中断できる権利)が与えられます。また、処方権を所持することで医師の真似事をしているようにも思われがちですが、重複する部分(薬を処方する事)はあるものの、その役割はしっかりと区別されています。端的に説明すると、医師は診断をし、薬剤師はその診断に沿って薬物治療を中心に進めていきます。従って、薬剤師が新規の患者に対して診断することはありません。医師から依頼された患者さんを薬剤師が単独で診ますが、場合によっては治療方針を薬剤師の意見のみで変更するのではなく、多職種連携でのコミュニケーションをとった後に決断する事もあります。

 1日に診る患者数や訪問の長さは医療機関により異なります。私の職場では薬剤師1人につき毎日8〜12人の患者を、患者1人につき30〜60分の訪問時間で診ていました。また、訪問内容の例としては、糖尿病、高血圧、高脂血症、抗凝固薬、喘息、禁煙指導、medication reconciliation、アドヒアランスなどが挙げられます。

 以下の例を通して、ambulatory care pharmacistの役割を見ていきましょう。

例:糖尿病の薬物治療マネジメント

64歳男性、初めての薬剤師訪問である。以前、メトホルミン錠1000mg1日2回を空腹時に服用していたが、腹部の不快感を訴えた。6ヶ月前、担当医が現在のメトホルミン投与量に減量、その後腹部不快感は消失したが、それから空腹時血糖値はいつも上昇しており、180mg/dlほどである。食事にばらつきがあり食事を取らないことがあるが薬は毎日服用しており、度々、低血糖症状のふらつきと低血糖値を訴えている。

現在の服用薬:メトホルミン錠500mg 1錠1日2回、グリメピリド錠1mg  1日1回、リシノプリル20mg 1錠1日1回、アトロバスタチン20mg 1錠1日1回、ボルタレンジェル

既往歴:2型糖尿病、腰痛、尿路感染症(去年2回発症)、高血圧

検査値(6ヶ月前):A1c: 9.2%, SCr: 95 ml/min, ALT/AST: WNL (within normal limits)

<訪問の流れ>

初回訪問では薬剤師による訪問が依頼された経緯を説明した後、家での血糖値・食事・運動、糖尿病に対する知識、アドヒアランスなどを含めた患者情報を聞き出します。最後に、薬物選択、血液検査の必要性などをガイドラインと個々の患者の状態を考慮し、患者と共に治療方針を決めます。

<アセスメント>

A1c、空腹時血糖値共に上昇しているが、食事のばらつきによる低血糖も見られる。尿路感染症の既往歴があるため現時点でSGLT-2阻害薬は推奨されない。メトホルミン用量を再度増量するか、GLT-1受容体作動薬を開始するか患者と話し合ったところ、注射剤に抵抗があるとのことでメトホルミン錠の増量をする事となった。腹部不快感を防ぐため、メトホルミンSR錠へ変更・食事と共に服用。

  • メトホルミンSR錠500mg 2錠を朝食と共に、1錠を夕食と共に服用;1週間後に電話にてアドヒアランスを確認し、副作用がなければ2錠1日2回へ増量
  • 低血糖を防ぐため、グリメピリドを中止
  • A1c検査をオーダー;来週の医師による診察前までに検査するよう伝えた
  • 次回訪問:4週間後

<訪問後>

訪問ごとに電子カルテ上にノートを記載し、医師に転送します。医師に伝えるべき内容のある場合、医師が訪問ノートを全て読まなくても即座に意思決定ができるように、短くまとめたメッセージも送信します。血液検査をオーダーした場合は患者が確かに検査しに行ったかなど、その他のフォローもチームの一員としての役割です。

最後に

 薬剤師として薬学的介入・非薬学的介入を通してどのようにチームケアに貢献できるかが大切であると学び、この過程は処方権がなくても行えることであると感じました。外来での臨床薬剤師であるambulatory care pharmacistはまだ日本では聞きなれない領域ですが、現在の日本でも疑義照会や地域連携を通して活躍している薬局薬剤師の方々も多数見受けられます。また、レジデンシーでの経験を通して、薬剤師として必要な技能は薬学的知識だけではなくチームの一員として共に働きたいと思われるような人間であるかも重要な要素であると痛感しました。このような学びの場を提供していただいたGreater Lawrence Family Health Center PGY-1レジデンシープログラムに関わる全ての方々に感謝いたします。

2021/06/30

第182回コラム「英語の勉強方法」

岩澤 真紀子, Pharm.D., BCPS

はじめに

 毎年、留学や進路相談のために私を訪ねてくる学生や薬剤師が数名いますが、コロナ禍のここ1~2年は、相談に来る人が例年より増えています。コロナ禍で、日本と海外の教育の違いやワクチン接種をはじめとする薬剤師の役割の違いを耳にして、いろいろと考えることもあったのでしょう。「留学に興味はあるけれども、どこから手を付けたらいいのかわからない」という質問をよく受けますが、「まず英語力をつける」というのが私のアドバイスです。というのは、私自身、留学前も留学後も、そしてアメリカで薬剤師として働いていた時も、悩みの種は常に自分の英語力にあったからです。「アメリカに長年住んでいたのだから、英語は堪能でしょう」と言われること度々ですが、私のように30歳近くなってから留学した者にとって、英語力は永遠の課題です。渡米中も、日本に数週間いるだけで英語に触れる時間が減り、リスニング力・スピーキング力が落ちてしまうことを何度も経験しました。日本に帰国して10年近くが経とうとしている今、どれだけ英語力が落ちたことか、「随分英語をサボったなあ」と反省する日々です。そこで今回は、私の英語の勉強方法についてご紹介したいと思います。

留学前の勉強方法

 私が英会話を習い始めたのは、大学を卒業し、大学病院に就職して半年ほど過ぎた時でした。はじめはECC外語学院(https://www.ecc.jp/)の中級グループレッスンに週1回通い、このグループレッスンの予習・復習を中心に勉強することから始めました。通い始めて暫くたったころ、同じクラスの高校生たちが次々に留学したことをきっかけに、留学に興味を持つようになりました。薬剤師として留学する場合の選択肢にどのようなものがあるのか、ということを調べながら、グループレッスンに加えて個人レッスンを週に1~2回取り始めました。

 留学するためには、英会話力に加えてリスニングやリーディング、そしてTOEFLの試験勉強もする必要がありました。しかし、当時は院外処方を出している病院も少なく、大学病院の処方箋枚数は1日1000枚を超えることも日常茶飯事で、仕事をしながら英語を勉強することは時間的にも体力的にも大変でした。そこで、週1回のグループレッスンには必ず通い、それ以外の日はどんなに忙しくても毎日少しでも英語に接することを心掛けました。その際、忙しい中で勉強することを強いると続かないかもしれないので、毎日の行動パターンの中で自然に英語に触れることを心掛けました。 

 例えば、毎日の通勤時間(片道1時間半)を活用し、電車の中では英字新聞を読み、歩いている時は英語のラジオ放送を聞いていました。当直時は音楽を流す代わりに英語放送を流すなどして、無理なく英語に触れる習慣をつけました。英字新聞は、はじめの2年間は『Asahi Weekly』を購読し,3年目からは『New York Times Weekly』に数ヶ月間変更してみたものの,難しすぎたので『Japan Times Weekly』に変更し、通算4年間、英字新聞を定期購読しました。また、リスニング力強化のために、NHK『ラジオ英会話』を平日毎日聞くことを心掛け、『English Express』を2ヶ月に一回購入してテープを聞いていました。

 英会話を習い始めて2~3年が経ち、日常会話は何とかなる程度に英語力がついてきた頃にグループレッスンを止め、TOEFL対策コースと英会話のプライベートレッスンを中心とする大学受験のための勉強を始めました。そして、留学前の1年間は、メリーランド大学アジア校(UMUC。今はUMGCに名称変更。https://asia.umgc.edu/)の夜学に週に2回(1回3時間)に1年間通いました。朝6時から8時まで大学の予習・復習をしてから仕事に通い、週に2回夜学で夜7時から10時まで勉強、それ以外の日は英会話学校と英会話サークル(週1回英語雑誌の記事を読んでディベート)というスケジュールで、とにかく毎日英語に触れることを心掛けました。

お勧めの英語教材

 留学してからあっという間に20年が経過し、テクノロジーの進化に伴い英語学習を取り巻く環境も随分変化しました。現在も活用できる教材をいくつか紹介したいと思いますが、読者の皆様がもし良い英語学習ツールをご存じでしたら、是非教えてください。

英語の読解

初心者に良い

慣れてきたら

  • 英字新聞:Japan Times < New York Times, Washington Post
  • 英語の時事雑誌:Newsweek, Time < Economist

リスニングの強化

初心者に良い

  • NHKラジオ講座。アプリで過去の講座を聞くこともできる。

慣れてきたら

  • NPR, CNN, BBC等の英語放送

 「英語の習得にはどれぐらい時間がかかるか」を調べると、いろいろな説がありますが、3000時間という数字をよく見かけます。根拠を示している記事は少ないですが、留学前の私の英語の勉強時間を思い起こしてみると、1日90分したとして留学するまでに5年間かかったことを考えると、2500時間程度、それでも私の英語力はネイティブには程遠いですので、3000時間必要というのは私の経験からは正しいと言えるかと思います。英語の学習は、継続が重要です。自分の生活スケジュールを見つめ、英語を勉強する時間を捻出する、というよりは毎日の行動パターンの中に無理なく毎日英語に接する時間を落とし込むこと、英会話学校・サークル、オンライン英会話等、週1日でも英語を口に出してアウトプットする練習する時間を作ることができれば、1年も経たないうちに、自らの英語力の向上を実感できるようになると思います。たとえ留学することはかなわなくても、英語力は生涯のスキルになります。まずは英語からチャレンジして見てください。

2021/05/05

第181回コラム「YouTubeで最新の医療情報をGETして英語を学ぶ」

半田 智子

 新型コロナウイルス感染症の収束にはまだまだ時間がかかりそうですね。この感染症が注目されたころ、その全容が全く分からず私も最新の情報を得るためにTOPジャーナルの情報や医薬品情報データベースが提供する記事を読んでいたのですが、その理解を深めるために生物学などの基礎を思い出したり四苦八苦していました。

 そんな時に見つけたのが、YouTubeの「MED CRAM- Medical Lectures Explained CLEARY」という番組でした。最近注目されている医療トピックスをProfessor Roger Seheult MDが図解しながらわかりやすく英語で解説してくれます。私は、日頃から新しい医薬品や医療用語を耳にするとその発音を確認するためにYouTubeを使っています。Professor Roger Seheult MDはすごくはっきり話してくれるので、その点でもお勧めです。慣れれば速度を速めて視聴しても内容を理解できると思います。新型コロナ感染症の流行が始まったころのビデオには、どなたかが日本語のテロップを付けたりもしていました。他にも最新のトピックスだけでなく、高血圧、喘息、不整脈等の疾患に関する講義ビデオもあります。

 PharmDクラブのブログにアクセスしてくれる方の中には、これから海外での活躍を目指している薬剤師の方や薬学部の学生の方、あるいは、東京オリンピックで医療サポーターやボランティアを予定されている方もいると思います。英語学習教材として、是非医療用語に耳慣れする手段としてもこの番組をフォローされてはいかがでしょうか?

https://www.youtube.com/channel/UCG-iSMVtWbbwDDXgXXypARQ

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