畔田 名穂子, Pharm.D. , M.S.
不眠症とは「眠りに落ちにくい、もしくは睡眠を持続できないために十分な休養を与える睡眠が得られない疾患」と定義されている(1、2)。一般的にこれが1ヶ月以上続き、日中に倦怠感、意欲低下、集中力低下、食欲低下などの不調が出現する。睡眠の量と質の変化は加齢に関連しており(3)、Subramanian(4)らは50%以上の老人が入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、睡眠障害を経験していると報告している。
また不眠症の40%もの人々がOTC市販薬やアルコール飲酒で不眠を解消しようと試みるという報告がある(5)ことから、薬剤師が不眠症の治療に大きな役割を果たすことは明らかである。ここで適切な睡眠衛生の概要を説明し、OTC睡眠補助薬の使用について述べたいと思う。
不眠症の病因
不眠症には大きく分けてPrimary Insomnia (一次性不眠症:不眠が単独の症状)とSecondary Insomnia(二次性不眠症:他の病気が原因で不眠になる場合)がある。さらに細かく分類すると、数日間の不眠をTransient insomnia (一過性不眠症)約1~3週間の短期の不眠をShort-term insomnia(短期不眠症)、3週間以上に及ぶ不眠をChronic insomnia(長期不眠症)という。
冒頭で述べたように、睡眠の仕組みの変化は加齢に共通するものである。とくに老人は、寝つきが悪くなかなか眠れない(入眠障害)、あるいは朝早く目覚めてしまい再度眠ることができない(早朝覚醒)などの症状が共通している。通常の加齢過程によって引き起こされるCircardian Rhythm(約24時間周期のリズム)の変化が、その入眠障害や早朝覚醒に関わっているのである。
65歳以上の患者の不眠症の多くは、Comorbidity(併存疾患)―身体障害、呼吸障害、薬物使用、うつ状態、環境因子<貧しい生活環境、配偶者・友人を失うこと>―などに関連している(4)。抑うつ症、喘息、慢性閉塞性肺疾患、心不全、甲状腺機能障害、胃食道逆流性疾患、睡眠時無呼吸、神経障害、認知症のような疾患も同じように不眠症を引き起こす要因となる。
不眠症の原因となり得る薬剤には、中枢神経興奮薬(例:痩身薬、アンフェタミン)、抗うつ薬、ステロイド剤、利尿薬、抗痙攣薬、降圧剤(例:ベータ遮断薬)などがある。このほか、カフェイン、アルコールやニコチンも睡眠に悪影響を及ぼすものとしてよく知られている。
治療概要
1. 非薬物療法
薬剤師が不眠症の患者にカウンセリングをするときに避けられないことは、簡単な病歴インタビューを行うことである。インタビューでは特に、現疾患、服用薬・栄養補助薬品、カフェイン・アルコール摂取、喫煙、そして睡眠衛生状況を確認することが重要である。もちろん根本的な不眠の要因に目を向けることは短期においても長期においても不眠症を緩和するには必要だが、適切な睡眠衛生を患者が理解することは最も重要な課題である(Table1参照)。
Table1:
良質な睡眠をとるための睡眠衛生 |
1.定時の起床・就寝時間を定める。 |
2.昼寝を避ける。 |
3.就寝前の喫煙、アルコール、カフェイン、中枢神経興奮薬(例:鼻腔うっ血除去薬)の摂取を避ける。 |
4.不眠と関連のある薬は朝に服用する(例:利尿薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬)。 |
5.規則正しい運動を習慣化する。就寝前の激しい運動は避ける。 |
6.睡眠環境を整える(騒音・振動をなくす、光を遮断する、適度な室温を保つ)。 |
7.寝室を眠る場所以外に使用しない。 |
8.就寝前の多量の水分摂取を控える。 |
9.就寝前の食事はなるべく避ける(少量の炭水化物摂取は可)。 |
2. OTC薬物療法
根本的な不眠の要因をあげ、適切な睡眠衛生の評価を行った後に、OTC睡眠補助薬の使用を考慮するべきである。しかし、老人は多剤服用をしていることが多いため,これらの薬物を薦める場合は薬物相互作用を配慮することが重要になってくる。米国で使われている主なOTC睡眠補助薬をいくつか挙げてみることにする。
· 抗ヒスタミン薬
アメリカで最も多く使われている睡眠補助薬はジフェンヒドラミンである。ジフェンヒドラミンはヒスタミン1(H1)受容体拮抗薬で抗コリン作用もある。ある二重盲検臨床試験では、ジフェンヒドラミンを就寝前30~60分に12.5~50mg服用することが最も効果的であると報告されている(6、7)。この試験では、ジフェンヒドらミンの服用歴のない患者が最もよい睡眠効果が得られ、何人かの患者に翌日薬の残存効果が残ったと述べられている。しかし、鎮静効果と抗コリン作用が長く続くため、一般的に老人には薦められない。
老人患者がジフェンヒドラミンを服用する際の副作用は十分に理解されるべきである。混乱・困惑、鎮静、めまい、口渇、便秘、尿閉は特に多く見られる副作用といえる。また、不眠症以外に患者が抱えている疾患や患者の生活習慣を知ることも重要である。例えば、前立腺肥大症の患者においては尿閉が頻繁にみられ、またジフェンヒドラミンとアルコールの併用は中枢神経抑制効果を増大させる。睡眠補助としての抗ヒスタミン薬の使用は鎮静作用に耐性を来たす可能性もあり、注意が必要である。
· 栄養補助食品
o カモミール
カモミールには鎮静・鎮痙・抗炎症作用があり、主な成分であるアピゲニンは、ベンゾジアゼピンと同じ受容体に結合するといわれている(8)。1日の経口投与量は400~1600mgで、1投与量につき1.2%のアピゲニンが標準化されている。カモミールはその鎮静効果のために茶の成分としてよく使われている。副作用はまれであるが、ヨモギ花粉と同様にアストイラセアエの仲間(ブタクサ、アスター、およびキク)の植物にアレルギーがある人はカモミールを使用しないほうがよいとの報告がある(9)。
o バレリアン
バレリアンは鎮静・催眠効果のある薬用植物として、その根の部分が古代から使用されている。有効成分の吉草酸はベンゾジアゼピンと同じ受容体に結合し、GABA放出の仲介をするといわれている(10、11)。ある無作為化臨床試験では、バレリアンが睡眠の質をあげ、翌日の薬物残存効果がなかったと発表している(12)。このほかこの試験報告では、2~4週間という短期間では効果がみられず、続けて服用することでよりよい効果があるとされている。不眠症に対するバレリアンの推奨投与量は、1投与量につき300~600mg(0.8~1.2%の吉草酸)である。長期使用による副作用として、軽い動悸、不安、頭痛、興奮などが挙げられる。またバレリアンは中枢神経抑制薬に対して相加作用を持つといわれている。
o メラトニン
メラトニンは脳の松果体から放出される内因性ホルモンであり、Circardian Rhythmに基づく睡眠障害を治療することに用いられる。特に、老人や時差ぼけの患者はメラトニンレベルが減少しているため、それを補うことにより睡眠の質と時間を改善する(13,14,15)。多くの試験では、0.1~3mgの低用量のメラトニンを就寝1~2時間前に持続的に使用しており、使用が開始された第1週目に効果がもっともはっきり現れると報告されている。
睡眠治療における薬剤師の役割
薬剤師はこれらの睡眠補助薬を薦める前に、必ず睡眠衛生とそのほかの非医学的要因や精神的要因を評価するべきである。栄養補助薬品であるカモミール、バレリアン、メラトニンを患者に薦める際には、その効果がまだ大規模なプロスペクテイブ臨床試験で支持されていないということを念頭におく必要がある。それでも患者の意向によりそれらの摂取を促すときには、今までの臨床試験で使われた投与量以内の使用を薦め、カモミールを使用する患者には、キク科の植物にアレルギーがあるかどうかを注意しなければならない。
参考文献:
1.Attarian HP. Helping patients who say they cannot sleep. Practical ways to evaluate and treat insomnia. Postgrad Med. 2000;107:127-142.
2. Lippmann S, Mazour I, Shahab H. Insomnia: therapeutic approach. South Med J. 2001;94:866-873.
3.Dopp JM, Phillips BG. Sleep disorders. In: DiPiro JT, Talbert RL, Yee GC, et al, eds. Pharmacotherapy: A Pathophysiologic Approach. 7th ed. New York, NY: McGraw-Hill Medical; 2008:1191-1201.
4.Subramanian S, Surani S. Sleep disorders in the elderly. Geriatrics. 2007;62:10-32.
5.Sproule BA, Busto UE, Buckle C, et al. The use of non-prescription sleep products in the elderly. Int J Geriatr Psychiatry. 1999;14:851-857.
6.Kudo Y, Kurihara M. Clinical evaluation of diphenhydramine hydrochloride for the treatment of insomnia in psychiatric patients: a double-blind study. J Clin Pharmacol. 1990;30:1041-1048.
7. Rickels K, Ginsberg J, Morris RJ, et al. Doxylamine succinate in insomniac family practice patients: a double-blind study. Curr Ther Res. 1984;35:532-540.
8.Viola H, Wasowski C, Levi de Stein M, et al. Apigenin, a component of Matricaria recutita flowers, is a central benzodiazepine receptors-ligand with anxiolytic effects. Planta Med. 1995;61:213-216.
9.Reider N, Sepp N, Fritsch P, et al. Anaphylaxis to chamomile: clinical features and allergen cross-reactivity. Clin Experiment Allergy 2000;30:1436–43.
10.Houghton PJ. The biological activity of Valerian and related plants. J Ethnopharmacol. 1988;22:121-142.
11. Hadley S, Petry JJ. Valerian. Am Fam Physician. 2003;67:1755-1758.
12.Lindahl O, Lindwall L. Double blind study of a valerian preparation. Pharmacol Biochem Behav.1989;32:1065-1066.
13. Garfinkel D, Zisapel N, Wainstein J, Laudon M. Facilitation of benzodiazepine discontinuation by melatonin: a new clinical approach. Arch Intern Med. 1999;159:2456-2460.
14. Shamir E, Laudon M, Barak Y, et al. Melatonin improves sleep quality of patients with chronic schizophrenia. J Clin Psychiatry. 2000;61:373-377.
15. Andrade C, Srihari BS, Reddy KP, Chandramma L. Melatonin in medically ill patients with insomnia: a double-blind, placebo-controlled study. J Clin Psychiatry. 2001;62:41-45.
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